菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

熟したまま木にあるサクランボ。 『29歳問題』

2018年06月03日 00時00分53秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1309回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

 

『29歳問題』

 

 

 

 

30歳を目前にしてに不安や葛藤を募らせるヒロインが、自分と対照的な同い年の女性とめぐり会い、自らの生き方を見つめ直していく姿を、80~90年代香港の映画作品や人気スターへのオマージュとともに綴るドラマ。

 

 

監督と脚本は、キーレン・パン。

女優のキーレン・パンが、小さな劇場で演出・脚本・主演をし、じょじょに人気を得て、再演を繰り返し、ヒットした一人舞台を、何度もあった映画化のオファーを断り続け、10年目に自ら初監督を務めて映画化した。

 

 

 

 

物語。

2005年、香港。
29歳、あとひと月で30歳のラム・ヨックワンは、仕事もプライベートも順調そのものに見えるが、住んでいるアパートがへたってきていてイライラ、年齢や微妙なズレにストレスが溜まっている。部長に昇進したことでさらにストレスも増え、恋人ともすれ違いがさらに増える。
そんな時、いきなりアパートの大家からアパート売ったことを告げられ、退室するはめになる。しかし、ある事情で彼とは同居できず、大家がひとまず用意してくれた部屋での仮住まいを余儀なくされる。そこはティンロという女性の部屋で、彼女がパリ旅行している1ヵ月の間だけの期限付きだった。
ヨックワンは部屋でティンロの日記を見つけてしまう。

 

 

出演。
クリッシー・チャウが、クリスティ=ラム・ヨックワン(林若君)。
ジョイス・チェンが、ウォン・ティンロ(黄天楽)。

ベイビージョン・チョイが、チョン・ホンミン(張漢明)。
ベン・ヤンが、ヨン・チーホウ(楊子豪)。

エイレン・チンが、社長のエレイン。

ジャン・ラムが、大家。
エリック・コットが、タクシー運転手。

ローレンス・チェンが、店主のローレンス・チェン。

 

 

 

 

 

スタッフ。

撮影は、ジェイソン・クワン。

音楽は、アラン・ウォン、ジャネット・ユン。
挿入歌に、レスリー・チャン、レオン・ライ、ビヨンドなど。

 

 

 

 

05年香港、29歳の管理職OLが29歳のレコード店員との邂逅で人生を見つめ直すドラマ。
現在と戦う女性たちが過去から大事なものを探す心の冒険を、90年代香港へのノスタルジー満載で描き出す。
対比の配置が絶妙で、物語の層は三重四重もはや映画ミルフィーユ。
キーレン・パン自身の作・演の一人芝居を監督デビューで映画化。舞台的巻き込む演出、香港的ファンタジックな話法も取り込み、さまざまな愛の形が浮揚する。
クリッシー・チャウの美しさがちらりとノイズだが眼福、すべて包み込むジョイス・チェンのボリューム。
大きな物語の軸は見えづらい分、心に寄り添う。
優しくはない世界でちょっとだけ頑丈になる方法を写す朗作。
 

 
 
 

 

 

 

おまけ。

原題は、『29+1』。

=30歳という意味だが、30歳を恐れる気持ちが見える。
もしかすると、1には、「ひと月」の意味もあるのかも。

 

基になった舞台は、2005年に初演。映画のヒットを受け、2018年にも再演された。

 

 


上映時間は、111分。
製作国は、香港。

 

 

受賞歴。
2018年の香港電影金像奨にて、新人監督賞をキーレン・パンが、受賞。
2017年の大阪アジアン映画祭にて、観客賞を、受賞。

 

 

 

 


キャッチコピーは、「幸せになるために解決すべき いくつかの事柄について。」。

 

 

 

 


レスリー・チャン、レオン・ライだけでなく、ウォン・カーウァイなどの90年代香港ネタが満載でそこらの記憶が刺激されまくる。
 
タクシー運転手役のエリック・コットはウォン・カーウァイがプロデュースした『初恋』で監督と脚本を務めており、大家役のジャン・ラムと硬軟天師というユニットで『ガラガラヘビがやってくる』をカバーしていた。ジャッキー版『シティハンター』の挿入歌だった。

  

 
 
 
 

ややネタバレ。
一人芝居で演じたキャラを対比によって陰陽に見せたのはお見事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

30歳になる女性に不安を生み出しているのは、最初に示されている。一人でいる女性は価値が落ちるという恐怖。
その恐怖は、まさに今の女性を縛りつける世界を示している。
そして、恋人がそれを体現する。男の仕事は責められないが女の仕事ぶりは責められる。
ヨックワンは外の世界に戦いに出るための武器で固めた完全装備で出ていく。
ここで、ティンロが笑顔という防具しかないことが対比となる。

彼女は働くことで認められるが、そのほかすべてが犠牲になる。
なにより、好きだった父親に会いに行けない。(父親も認知症でヨックワンと同じように思い出に蓋をしている)
彼女が、世界を見つめ直すのは、父親の死から。
大事な人に意識があるときに会えなかったこと。会いに行かないでいいやと思ってしまったこと。

この物語の強さは、仕事を非難しない、美を非難しない、妥協を非難しない、弱さを贔屓しないところ。ただ、大事なことに気づいて、それを大切にすることを取り戻させる。

ヨックワンの対比にティンロを描くが、ほかにもそういうキャラクターも配置する。
社長のエレインは、幸せを仕事に見いだし、部下を見る眼を描き、部下の男性に、社長を尊敬させ、縛りつける社会を変える芽を描く。

 
ティンロとホンミンとの関係を気軽に愛情にしない。そこには、ティンロの恐怖も隠されている。

 

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