で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2356回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』
タリバンとしてグアンタナモ収容所に収監された無実の息子を母が救おうと奔走するドラマ。
ドイツで起きた実話を映画化。
第72回ベルリン国際映画祭で銀熊賞2冠(主演俳優賞、脚本賞)を受賞。
原題は、『RABIYE KURNAZ GEGEN GEORGE W. BUSH』。
英語題は、『RABIYE KURNAZ VS. GEORGE W. BUSH』。
『ラビエ・クルナス対ジョージ・W・ブッシュ』。
別題(ドイツ映画祭 HORIZONTE 2023時)は、『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』。
製作年:2023
製作国:ドイツ / フランス
上映時間:119分
映倫:G
配給:ザジフィルムズ
物語。
アメリカ同時多発テロの1カ月後、2001年10月。
ドイツのブレーメンに暮らすトルコ移民クルナス一家の長男ムラートは、旅先のパキスタンでタリバンの嫌疑をかけられ、キューバのグアンタナモ湾にある米軍基地の収容所に収監されてしまう。
母ラビエは息子を取り戻そうと奔走するがドイツの警察も行政も腰が重い。
ラビエは、藁にもすがる思いで、人権派弁護士ベルンハルト・ドッケに救いを求める。
ドッケの作戦で、ラビエはブッシュ大統領とアメリカ政府へ、訴訟を開始する。
主演は、メルテム・カプタン。
ドイツの有名コメディエンヌで、今作でベルリン国際映画祭にて銀熊賞(主演俳優賞)を受賞した。
監督は、『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』のアンドレアス・ドレーゼン。
スタッフ。
監督:アンドレアス・ドレーゼン
製作:クラウディア・シュテファン、クリストフ・フリーデル
脚本:ライラ・シュティーラー
撮影:アンドレアス・フーファー
美術:ズザンネ・ホップフ
編集:イョルク・ハオシュヒルト
音楽:ヨハネス・レプカ、ジェンク・エルドアン
出演。
メルテン・カプタン (ラビエ・クルナス)
アレクサンダー・シェアー (ベルンハルト・ドッケ/弁護士)
サフェク・セングル (ファディメ)
ナズミ・キリク (マホメット・クルナス)
アブドラ・エメレ・オズターク (ムラート・クルナス)
マート・ディンセル (ゲム・クルナス)
デブリム・デニズ・アスラン (アッティラ・クルナス)
セベダ・ポラット (ヌリヤ)
チャーリー・ヒュブナー (マーク・ストッカー)
ジェネッタ・スパソヴァ (コスロワ/秘書)
コーネル・アダムス (バヘア・アズミー/弁護士)
『ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ』を観賞。
2000年代ドイツ、タリバンとしてグアンタナモ収容所に収監された無実の息子を母が救おうと奔走するドラマ。
実話の映画化。
アメリカ同時多発テロで、アメリカがヒステリーとなり、暴威をふるった頃、ムスリムのトルコ人青年がタリバンと断定されて逮捕後にグアンタナモ収容所に送られたのを、ドイツにいる母がその行動力で弁護士と共に3つの政府(ドイツ、アメリカ、トルコ)を相手に交渉して解放を目指す。
弁護士はちゃんとルールに則りますが、母は情でルールを飛び越えていく。
正しさ、これが今作の中心となるテーマ。これ、正義じゃなくて、正しさなのが、この映画が、見た目の印象よりはるかに深い内容になっているところ。意外にもウェルメイドに収まる人情ものじゃないのです。
テロ、それに対抗するアメリカ、アメリカと外交する国、メディア、情と印象に振り回される周囲といった正しさでは歯向かえない世界の法則と母はたたかわざるえなくなる。
家族は支えもすると、その先の見えなさにくじけもする。でも、母と弁護士だけが、愚直にひたすらたたかい続けるのだ。
世界のルールが通じなさが、さらに悪化し、情報の濁流に揉まれる現代とまんまつながる内容。
宣伝で煽っている、<母対アメリカ大統領>は、物語の見せ場ではあるが、一部にとどまるので、そこへの期待よりも、さまざまな相手と息子のためにたたかう母の愛が中心。
面白いのは、この母がたたかいに飲み込まれず、料理をし、他の子を心配したり、アメリカ旅行にちょっとわくわくしたり、お土産選びに心休めたり、ジム通いをする、生活が描かれるところ。ヨーグルト料理がおいしそうだしね。
なにしろ、そう簡単に片はつかないので、長期戦を覚悟して挑んでいる。それでも時間は彼女や周囲を蝕んでいく。これにより、これにより、実際は今作の元になったという、逮捕されたムラートによる談話は写されることはなく、その生活からそれが奪われることの地獄を想像させるという映画的なしかけが立ち上がってくる。
その、まさにお母さんを体現するのは、ドイツの有名コメディエンヌのメルテム・カプタン。今作でベルリン国際映画祭にて銀熊賞(主演俳優賞)を受賞している。彼女を見ているだけで、この悲劇に触れていても、元気が出てくるという歩くパワースポットぶりで動のエナジーがたまりません。
それを支える、アレクサンダー・シェアー演じる人権派の弁護士ドッケがいわゆる対義キャラにしないでこれまた違う種類のエネルギーキャラというのが実は新しい。何しろ、彼が大事にしているのは民主主義だから、会ったことのない青年を信じ、信念のために、この肝っ玉母さんをも上回るパワーで突き進む。彼が静のエナジーで手順を踏み、ルールに沿って、ことを進めていく。日本人だと彼の方のキャラに共感しちゃうんじゃないかな。彼と母が親友になっていくのもこの映画の見どころだったりします。二人が反発しないで、親友となってこの苦境にがっちり協力していくのがいいのよ。
この二人をイケイケと応援せずにはいられなくなります。
それは脇キャラの描き方にもあふれていて、妹やタクシー運転手、ハリウッドスターなど、いいキャラぞろいでたまりません。
監督はアンドレアス・ドレーゼン、脚本はライラ・シュティーラーで、『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』のコンビ。今作でベルリン国際映画祭にて銀熊賞(脚本賞)を受賞した。
この脚本が実に優れていて、大きな事件が起きているが、それがどんどん日常化してい薄まっていくのを示すように、その外側に置かれた人々のドラマを小さな事件の積み重ねで刺してくる。ガンガンにエピソードと細かい描写を積み重ねて、あえて掘り下げずに、パーツを見せることで、想像を膨らましていき、見る者をのめり込ませていく。
だって、実話だし、宣伝である程度、展開は示されてしまっているのを、どう見せるか。それを絶妙なユーモアと心情と演出で埋めていっている。
お土産で買ってきた上着の見せ方とか、画面の隅々にまで目が行き届いている。
時間も字幕で丁寧に見せることで、時間という敵を写し続ける。
撮影も的確で、実に見やすく、キャストや端のものを見逃さずに済む。
母の演説シーンの演出が技ありで、ドイツ映画ならではでもあり、グッと胸に沁みた。
そして、この実話みとそれをほんのちょっとだけドラマチックに拾うことで、玄妙なる現実あじに胸がえぐられる。
カラッとザクっとたっぷりじっくりと弱火でコトコト煮込んだ母の愛を味わう一本。
ネタバレ。
夫も描かれ方が薄いようで、彼女に全面的に任せていたり、それが彼の愛の示し方なんだろうね。
それとも、トルコ男って、ああいう感じなのかしら。
団体の理事のハリウッドスターのティムさんって、誰なんだろう?