形は違いますが、特性が同じ真空管いろいろ。
右から、6080WA(NEC製)、6AS7G(RCA製)、6080WC(GE製)。微妙に型式も違います。6080は6AS7の高信頼型。6AS7Gと6080WCは"JAN"と記載されていますが、アメリカ軍の規格を示しています(JAN : Joint Army / Navy)。前にも書きましたが、このような軍事用途に耐えうる真空管も市場にあります。もともと軍事が電子技術を発達させてきたという歴史もあります。通信やレーダーや射撃指揮装置、高角砲弾を航空機の至近で炸裂させるVT信管等。MT管(ミニチュア管)よりもさらに小さくて発砲時の衝撃に耐えうるサブミニチュア管が使われています。
今、これらを平和な音楽の世界で活用できるのがいい。
傍熱型整流用双2極管5AR4
アンプは直流の電気を必要としていますが、家庭用のコンセントまで来ている電気は交流です。これを直流に変換するのが、この真空管。現在では、半導体のシリコン・ダイオード(写真2枚目右)という電子部品がこれに変わっています。真空管(この場合2極管を示す。)も半導体もどちらも整流用の部品は英語ではどちらも”ダイオード”
アンプにはもちろんどちらでも使えます。整流管の違いで音が変わるという人もいます。ほんとですか??整流管が劣化して所要の性能が得られなくなったら音も変わりそうですが??整流管のヒーターが暖まり、徐々にアンプ全体に電気が流れ始めるということを考えると、突然回路全体にドン!と電気が加わるという点はシリコン・ダイオードよりもいいかもしれませんね。逆にシリコン・ダイオードは整流管よりも省エネ。パッシブで動きますから。しかも省スペース。
自分は、アンプ全体の電圧の辻褄合わせの意味(整流管とシリコン・ダイオードは整流後の電圧が異なる。)とパイロットランプ代わりとして電源スイッチのそばに置いてみました。最初は数本5U4GBという大型の真空管が数本手持ちであったので、これを使おうと思っていましたが、手に入れた中古の電源トランスでは5U4GBのヒータ電流は定格オーバー。よって5AR4になりました。
下の写真は、直熱型整流用双2極管5U4GBと2本のシリコン・ダイオード。これらは同じ役目をしています。
オーディオ機器自作のきっかけを、最近よく聞かれます。答えは簡単明瞭なんですが、
買えなかったから。
もちろん、安いラジカセやミニコンポならCDからラジオまですべてオールインワンなのですが、それでは飽き足らず。。。
どうしてもセパレートでシステムを組みたかったという学生時代に身分不相応なバカなことを考えていました。
学生時代、PIONERR A-535というプリメインアンプを中心にシステムを組もうと思っていましたが、まずはスピーカーが無い。とりあえず、8センチフルレンジでトールボーイのバスレフを作り、ニアフィールドスピーカーとして使っていました。当時は音を出せない部屋に住んでおり、ニアフィールド(耳に近い位置にスピーカーを置く)でしか使えなかった。
PIONEER A-535
http://audio-heritage.jp/PIONEER-EXCLUSIVE/amp/a-535.html
その後、引越ししてサンスイのAU-α607XRに買い換え。ついでにCDはDENON DCD-1650AL。これがピュアオーディオかと思ったシステム。吹奏楽団の定演やジャズのライブによく行き始める。秋葉原のコイズミ無線にたまに行って、スピーカーユニットなどのスピーカーのパーツを探し回る。スピーカーはDIATONE P-610MBを45リットルの箱に入れて使う。今、実家で65リットル箱で鳴っていますが、いいスピーカーユニットです。
SANSUI AU-α607XR
http://audio-heritage.jp/SANSUI/amp/au-alpha607xr.html
DIATONE P-610MB
http://audio-heritage.jp/DIATONE/unit/p-610ma.html
このアンプには満足していましたが、聴くのはほぼCDだけ。レコードも使っていなかったので、コントロールはボリュームだけあればいい。そのほうがよりストレートで音質もいいはず。と、このアンプを友達に譲って、YAMAHA MX-1というアンプに買い換え。重さ24kg、ただのブラックボックスという印象。最初はアンプを買ったというよりもトランスを買ったんじゃないか?と思うような無機質な感じのアンプでした。それに、パッシブアッテネータを自作してずっと使ってきました。
YAMAHA MX-1
http://audio-heritage.jp/YAMAHA/amp/mx-1.html
10年以上これを使ってきましたが、パワートランジスタが寿命。修理も結構お金がかかることがわかり、困った。。。そのとき、アンプを買い換えるお金が無く。ほぼ毎日アンプに電源を入れ音楽を聴く身にはかなり重大事件で、深刻でした。
てことで、アンプも作ってしまえと。久しぶりにアマチュア無線の教科書や電子工学の参考書、アンプの作例(MJ誌等)を見るとともに安いキットで勉強して、半年かけて12AX-7-6BQ5プッシュプルアンプ(現用→改修予定)を設計・製作したのがきっかけ。
写真はYAMAHA MX-1 + 自作パッシブアッテネータ + DENON DCD-1560AL + 自作2ウェイスピーカー、スピーカースタンド
工作の下手さ加減がよくわかるのが残念ですが。。。
自分は平ラグで回路ユニットを作ってからチェックしつつシャーシに実装していきます。面積は食いますが、間違いを起こしません。出力トランスの要らない配線はとりあえず切らずにまとめています。以前、友達のところへ作ったアンプが片方音が小さいとのクレームが来て調べてもなかなかわからず。。。なんと、この要らない配線の絶縁が悪くてショートしていたということがありました。ほんとは切るべきですね。
今回は久しぶりのアンプ作りの意味と実験でした。6AS7という本来オーディオ用ではないレギュレーター管がどう動くのか??ひとつのガラスチューブに左右2ch入れて聴感上のチャンネルセパレーションは??6AU6の三極管接続でドライブできるのか??などの疑問。いいデータが取れました。どれも予想以上のいい結果でした。今後まだまだやりたいことが増えたので次に生かそうと思います。
もし、真空管アンプやスピーカーが手作りで欲しい方はぜひ。といっても完全お任せではなくて、一緒に作りましょうね。どういう音楽を聴くんだって情報はとても重要になります。
今2台受注しています。ひとつはロックがお好きの人。パワーに余裕があるアンプが必要なようです。もうひとつはデスクトップにのせるほどの小さいかわいい真空管アンプ。夜に小音量でゆっくり音楽を聴きたいようです。
(追記)
MT管センターピンのアースを忘れています。
試聴盤
小修正を何度かしていたために、なかなかゆっくり聴けませんでしたが、ようやく。2枚で試聴しています。
手前は"Shimaken Super Sessions"島健スーパーセッションズ
ピアニストの島健が国内・海外のアーチストとセッションしたアルバム。bird/中島美嘉/Ron Carter/平原綾香/ゴスペラーズ/今井美樹/島田歌穂(島健の妻でもある。)/DJ KRUSH/矢野顕子/森山良子/りんけんバンド/山木秀夫/渡嘉敷祐一/金原千恵子ストリングス/コモブチキイチロウ/納浩一/
Ron Caterが参加してるなんて!!と聴いた一枚ですが、DJ KRUSHとのセッションはなかなかいい。birdのヴォーカルも好きなので、自分にとってツボな一枚。
奥は、吹奏楽燦選/東京佼成ウインドオーケストラ
毎年、ニュー・サウンズ・イン・ブラスを楽しみにしています。今年も予約していたので、そろそろ届く見込み。吹奏楽燦選では、アルヴァマー序曲など、吹奏楽の定番から以前の吹奏楽コンクールの課題曲、平清盛のテーマ曲(とても難しそうな曲だが。さすがに吹奏楽のプロ集団という印象。原曲のN響の演奏もすばらしい。)も含まれるアルバム。かつての課題曲”東北地方の民謡によるコラージュ”は好きな曲。
他に、ジャズ・ベースのChristian McBride、ジャズ・ヴォーカルnoon。COVER 70's/柴田淳。しばじゅんは、真空管アンプということで70年代のカバーと思ったが、真空管はさらに10年以上も古かった。。。
6AU6
1950~60年代前半に製造されたと思われるデッドストック品。半世紀過ぎて初めて開封された真空管です。父から受け継ぎました。東京タワーが建設されたぐらいの時代でしょうか。テレビが普及し始めたころでしょうね。6AU6のデーターシートにもテレビやラジオの受信機に使用されるという意のことが書かれています。東芝製。「通測用」というのはいわゆる業務用の高信頼のものらしい!? 以前、6005という軍用の高信頼管(一般の型式は6AQ5)を複数購入しましたが、1本は不良品だった、、、ということもありますが。
この2本の6AU6は不思議なことに右側は明るく光っています。実際にみると、この写真で見るよりももっと明るさが違います。個性なんでしょうね。明るいからといって、音量が左右で違うわけでも音質が違うわけでもありません。おもしろいですね。
アンプの構成
音楽の信号は、ボリュームを通過し、手前の小さい真空管(初段管:6AU6)でCDからの微細な信号を電圧増幅します。左右1本ずつなので、2本あります。
それだけでは、スピーカーを動かすことはできません。スピーカーを動かすためには、電力が必要ですので、次に電力増幅をするために、大きな真空管(出力管」6AS7G)で電力増幅をします。この真空管はステレオで1本で済みます。
次に、真空管とスピーカーは仲が悪い(インピーダンスが大きく異なる。)ため、そのまま信号をスピーカーに送り込むことができないため、真空管とスピーカーの間を取り持つ(マッチングさせる。人にもこういうものがあるといいですが。。。)ものが必要になるのですが、それが大きな真空管の奥にある部品。出力トランス。シングルアンプでは、アンプの品位に決定的な影響を与えるといってもいいぐらい重要な部品で、よりコアボリュームの大きなものを選択したいですが、ピンキリ。1個数千円のものもあれば、15万円程度するものまであります。
仲良しの話をしましたが、電源回路では初段と出力段が結合しないようにデカップリング回路というのを入れます。ここが仲良しだと、正帰還し発振します。仲良し回路と、仲悪い回路とアンプには入っています。
アンプでは、負帰還(ネガティブ・フィードバック)という歪を低減する技術(がありますが、なかなか理解するには難しいです。出力信号を入力信号と比較してみると、歪の具合がわかるはずですが、この一部の出力信号を入力信号と合わせてみると歪が消えるだろうと。・・・書いていてもなんのこっちゃなんですが。。。ま、音質を良くする技術ということで。制御系の例題ではわかりやすいですが。
出力信号の一部を還すということは、せっかく得た出力を犠牲にするということですね。実はこのアンプには負帰還を十分にかける余裕がありません。よって負帰還回路はつけていません。聴いていて問題ないので、OKとしています。そもそも内部抵抗の小さい真空管を使うと、負帰還以前に基本のいいアンプを作ることができるはずです。300B等の作例をみると、負帰還をかけないアンプが多いようです。
完成した6AU6-6AS7G(6520)シングルアンプ
真空管は、左手前に5AR4整流管(松下製)、初段に6AU6(東芝製)左右各1本計2本、出力段に6AS7Gまたは6520(NEC製)1本。
音出しテストをして、問題がないことを確認して、配線を整理し先ほど完成しました。
シャーシの上はかなりあっさりしています。チョークコイルなど、大型のパーツもシャーシの中に納めました。放熱が一番の問題になっていましたが、発熱体である抵抗と熱に弱いコンデンサとの離隔距離を十分にとって、シャーシに放熱孔、あらに、足を20ミリとして開口を大きくしたこと。またシャーシ自体の容量も大きく、放熱に十分考慮したつもりです。
6AS7Gは1つの真空管の中に2ユニット入っている双三極管なので、1本で2チャンネルとれます。本来はオーディオアンプ用ではなく、増幅率がとても小さいですが、内部抵抗がオーディオ用の真空管よりも小さいという特徴があります。音楽の微細な信号をスピーカーに届けるためにはこの内部抵抗が大きな影響を与えます。音出しテストで音が出た瞬間にとてもクリアなことに驚きました。特に低音域。ベースがはっきり見通せるという感じです。とても透明感があります。オーディオに汎用されている真空管と比べると、特性が設計しづらい感じですが、未だに新品が安価で手に入るために、ぜひ活用したいですね。普段はオーディオ用の三極管が非常に高価なので、ビーム管、五極管といったパワーはあるけども、”よい音”を出すには技術のいる真空管を三極管として結線し使っています。よってこのような安価な三極管は貴重な気がしますね。
6AU6はもともと高周波増幅用の真空管。無線機やラジオ等に使われていました。でもオーディオにも応用でき、特性も素直で、自分の好きな真空管です。とても小さくて頼りない感じがしますが、なかなかいい真空管。これは五極管なので、三極管に比べると増幅率は桁違いに大きいですが、あえて三極管としています。以前、6AU6と6AQ5でアンプを作ったときにどちらも三極管接続としましたが、好結果でした。鈍感な6AS7Gをドライブするには厳しいのは最初からわかっていましたが、組み合わせるスピーカーが感度の高いバックロードホーンなので、ボリューム不足にはならないだろうと。結果、OKでした。6AS7Gを使うには初段管の増幅率をとにかく大きくするか、段数を増やすかして稼ぎますが、シンプルにしたいし、どのぐらいのボリュームでいけるか試しの意味もありました。
ちなみに、スピーカーは、概して小さいスピーカーほど感度が悪く、でかいスピーカーほど感度がいいです。小さいスピーカーに小さい出力のアンプを組み合わせるよりも大きいスピーカーに小さい出力のアンプを組み合わせるか、小さいスピーカーに大出力のアンプを組み合わせるかという形的にはバランスが悪いですが、そのほうがいい結果となります。
仮に完成
とりあえず、配線も長いまま接続して実装が終わりました。よって配線がぐちゃぐちゃになったままです。
ここから、音を出す前にもうひと作業。まずは、目で見て回路を追って、間違いが無いかチェック。電源を入れて、ヒューズが飛んでないか、やはり、見て・聴いて・感じて、、、と救急法のように五感を使います。250V以上の高い電圧がかかっていますので、危険です。チェックは入念に。
といいつつ、電源回路を作った時点で真空管のヒーターのテスト(ちゃんとオレンジ色になって暖まるか?)をチェックしたところ、大きな容量のコンデンサが実装されている電源回路にも電気を通してしまいました。コンデンサは蓄電しますので、ショートさせると一気に電気が流れて感電の恐れがあります。かといって、意図的にショートさせてもバチッ!と来るので、怖いです。よってコンデンサに電気を入れてしまうと、それ以上触れなくなってしまう。。。急遽、抵抗に電線をつけて、バチッとこないようにしてコンデンサを放電してまわり、その後の作業をしました。
それから、各部の電圧の測定。設計値と照らし合わせてちゃんと動作しているかを確認します。
普通は設計値から大きく外れることはありませんが、このアンプは予想以上にずれていました。設計時に真空管の特性のグラフから動作する電圧や電流値を決めます(ロードラインを引くという。)が、この設計値と実際の動作点とは若干異なるようです。でもいい方向に違っていました。
一通りチェックして、結果OK!
次は音出しチェックです。