もう何十年も前に離れたふるさと吉野で、思い出に残っている花といえば、この
山吹でしょうか。今頃は緑の野山に、黄金色の彩りを添え初めているでしょう。
ほろほろと山吹散るか滝の音
という芭蕉の句は、まさに我がふるさと川上村西河の奥にある蜻蛉の滝で作
られたようです。「ほろほろと」という擬態語で、滝の水音を背景にして、黄色い
花が散りゆくさまが鮮やかに目に浮かび、いつも素晴らしい句だなと思います。
山深い我が家の辺りよりさらに山を分けいったところに「波津(はず)」という
地名の所があります。この山奥が「波津」というのはどういう訳だろうと、昔
から思っているのですが、いまだに分かりません。ここは以前から陶芸家な
どが集まる一種の芸術家村匠の聚になっています。そこの芝桜が素晴らし
いんです。鮮やかな色とりどりの絨毯、思わず息を飲みます。
中でも一番心に残っている私のふるさとの花は著莪。毎年春になると家の裏の
小暗い杉山の裾一面に著莪の花が咲き、まるで白い星を散りばめたようになっ
たのを思い出します。決して好きな花とはいえませんが、何とはなしに不安だ
った思春期の頃の自分と重なる懐かしい花です。
花著莪やくらきをたどる吉野びと 原裕
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