キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

わたしが子どもだったころ--エーリッヒ・ケストナーのこと

2014-07-29 10:12:16 | 
わたしが子どもだったころ (ケストナー少年文学全集 (7))
ワルター・トリヤー,高橋 健二
岩波書店

        「二人のロッテ」や「エーミールと探偵たち」などを書いたエーリッヒ・ケスト

        ナー、作品は読んだことがなくても、名前を知っている人は多いでしょう。

        2つの世界大戦を生き抜いたドイツの作家です。「わたしが子どもだったころ」

        は彼の15歳までの自伝です。いきいきとユーモラスにそして真摯に、自分の

        こと親のこと、先生や友達や親戚のことを、時代背景の中で巧みに描いて

        います。「ためになる」という言葉は文学作品にとって褒め言葉ではないか

        もしれませんが、ケストナーに限っては例外です。文学的価値が高く、ユー

        モラスかつ風刺に富み、かつ「ためになる」

Als Ich ein Kleiner Junge War
W. Lough
George G.Harrap & Co Ltd

        一番印象に残るのは、ケストナーとお母さんとの関係です。お母さんは

        一人息子のエーリッヒのためだけに生きていました。彼の学資のため
 
        に働き、彼の旅行のために稼ぎ、彼の一挙手一投足に注意をはらい、、、。

        それはケストナーには大変なプレッシャーだったと思いますが、彼は

        母の思いに応えようと、頑張りぬきます。マザコンだとか、子離れでき

        ないとか言った域を超えた壮絶さで、感動的でもあります。だれにでも

        真似のできることではありませんが、これも親子のあり方の一つだと

        思います。

ふたりのロッテ (岩波少年文庫)
ヴァルター・トリアー,Erich K¨astner,池田 香代子
岩波書店

        ケストナーの子供向けのお話は、どれも面白くてグイグイ引きこまれますが、

        彼の良い所は、子供向けだからといって、醜いこと、酷いこと、悲しいことな

        どを隠さずどんどん書いているところです。それが現実なのですから。この

        「二人のロッテ」でも、両親が(どうやら)父親の浮気のために離婚して、双

        子の姉妹が離れ離れに暮らしているのですが、二人は幼い知恵を絞って

        両親のよりを戻させようとします。そこにはさらに父親の新しい愛人らしき

        女性まで現れて、すったもんだします。

        まあ普通、子供向けのお話でこんなテーマはないですよね。それをユーモ

        ラスにサラリと、でもほんのちょっと毒を持って、子どもにも大人にも興味

        を引くように書いているところが、ケストナーの優れた筆力です。ハッピー

        エンドになるだろうとは思いながらも、途中の思わぬ展開に何度もハラハ

        ラします。

ケストナー―ナチスに抵抗し続けた作家
Klaus Kordon,那須田 淳,木本 栄
偕成社

        彼は二次大戦中もドイツにとどまり続けた数少ない作家です。あまりの

        人気の高さに、ナチスも彼には手を出せなかったようです。もっとも彼の

        大人向けの本は焚書にあったそうです。ケストナーは自分の本が燃や

        されるのを見ていたとか。「人生は、単にバラ色ではなく、単に黒色でも

        なく、色とりどりである。善人も悪人もいる。善人も時として悪くなり、悪

        人もおうおう善くなる。わたしたちは笑ったり泣いたりする。、、、わたし

        たちは幸福だったり、不幸だったりする。、、、わたしは二度と笑うことは

        ありえないと思うほど、泣いた。そしてまた、泣いたことなんかついぞな

        かったかのように笑うことができた。「もう大丈夫よ。」と母はいった。

        そのとおり、またよくなったのだった。だいたいまたよくなった。」

                      高橋健二訳「わたしが子どもだったころ」より
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