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席を譲る人のやさしさ、譲られる人のやさしさ

2019-03-14 13:15:00 | 編集手帳

 2月22日 編集手帳


詩人の吉野弘さんが実際に目にした光景と思われる。
「夕焼け」という詩に、
電車の中でお年寄りに席を譲った若い女性の姿を描写する。

<…としよりは次の駅で降りた
 娘は坐った
 別のとしよりが娘の前に
 横あいから押されてきた
 娘はうつむいた
 しかし
 又立って
 席を
 そのとしよりにゆずった>。
ところが二度あることが三度に。
お年寄りが駅で降り娘が座ると、
別のお年寄りが目の前にきた

<可哀想に
 娘はうつむいて
 そして今度は席を立たなかった
 次の駅も
 次の駅も
 下唇をキュッと
噛かんで
 身体をこわばらせて>

親切な心の持ち主ゆえの困惑だろう。
かといって譲られる側にも葛藤がある。
東京都内の82歳の女性から最近こんな手紙をいただいた。
<皆さん疲れているのに、
 席を譲られると申し訳なく思います。
 代わってもらった人の近くでいてもたってもいられなくなり…>

吉野さんの詩の後段に次の一節がある。
<やさしい心に責められながら
 娘はどこまでゆけるだろう>。
この娘さんと同じく、
手紙をくれた女性の惑いもやさしさゆえである。
どちらもすてきだと思います。



 

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