美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

ロバート・シラー インタヴュー記事の盲点  ―― 「週間現代」より (イザ!ブログ 2012・7・14 掲載分)

2013年11月23日 18時48分19秒 | 経済
meniawoba7123さん からコメント欄にご投稿いただいた、ロバート・シラーのインタヴュー記事への、私のコメントがやや長くなったので、こちらに掲載します。

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To meniawoba7123さん

ロバート・シラーの話の要点は、日本は消費増税をどうやら決めたようだが、それなら、今後は景気政策を積極的に実施するべきである、ということですね。それに付け加えれば、それは「均衡の取れた景気刺激策」という正しい経済政策である、とも言っています。なぜなら、それは「増税と景気刺激策を同時に行えば、新たな雇用が生まれて、政府債務が増えないから」であると。

meniawoba7123さんは、おそらく「もし、今後野田政権によって景気刺激策が積極的に行なわれるのであれば、この理論からすると、野田さんの消費増税路線は正しいことになってしまうではないか。」という疑問を抱かれて、消費増税反対の立場から戸惑われたから、この文章を送ってこられたのではないかと推察します。

もしシラーが、自分の経済理論への確信から「野田の消費増税路線はそれ自体では誤りといは言えない。その是非は、今後の経済政策の実施内容による」と本気で考えているのであれば、私としては、イェール大学の偉い先生には大変申し訳ありませんが、「シラー先生、ちょっと議論が変ですよ」と申し上げるよりほかはないという結論に達しました。それはこういうことです。

シラーがこの文章でまったく触れていないのは、第二次世界大戦の先進国で長期的なデフレに陥った(し、いまでも陥っている)のは日本だけだという厳然たる歴史的な事実です。それと、デフレ不況下での消費増税という「社会実験」を敢行したのも戦後では日本だけだという同じく歴史的な事実です。(日本政府・日銀は国益を毀損する経済政策を大真面目になって実行し続けるので、諸外国から馬鹿だと思われているようです。日本だけデフレを続けてくれるのは有難いことなので、正面切ってはそう言わないのですが。理にかなっていますね。)

1997年の橋本デフレの経験から、日本は「シラーさん、デフレ不況下の消費増税の実施は、消費の停滞を招くことによって、デフレ・ギャップを広げるので、長期のさらなるデフレを招くことになってしまいます。それによって、税収も減り、財政再建が遠のきます。だから、デフレ下の消費増税は絶対に避けるべきなのです」と主張することができます。

さらには、「2%程度の増税で日本はさんざん苦しめられたのですから、今度の5%の増税ではもっと苦しめられるはずです。だから消費増税なんてますますダメ」とも主張できます。

だから、消費増税法案中のいわゆる「景気条項」を達成義務数値としてもっと厳格化し、数値そのものも「名目3%・実質2%」を「名目4%、実質2%」に上げることがとても重要になってくると、私は考えます。インフレ・ターゲットの目標をいまの微温的な1%から2%に上げよというわけです。円高状態を真剣に脱しようとすれば、2%のインフレ・ターゲットが欧米先進国のスタンダードであるという国際情勢に鑑みて、それは当然のことであると私は考えます。

2%-1%=1%の上積みは、世界恐慌レベルのデフレ圧力の襲来に備える経済シェルターあるいは保護膜の役割を期待してのことです。これは、総合安全保障の観点からも、絶対に実行しなければならないことであると、めずらしく断言しましょう。

この、消費増税をめぐる核心的な議論に、シラーはまったく触れていません。そういう状態で、シラーの議論の是非を速断するのは妥当ではない、というのが私の結論です。

さらに邪推すれば、この記事を載せた編集者の意図がもしも野田の消費増税路線を肯定することにあるのだとすれば、シラーの発言のうち、自分たちに都合の悪い部分を削除している可能性がありうるので(よくあることです)、要注意、と考えます。だって、私ごときが指摘できるような議論の盲点を、イエール大学の偉い先生が見過ごすとは考えにくいからです。

その他にも「過去20年間日本政府はインフラ投資をたくさんしてきた」という発言があるますが、これは事実に反する認識です。ちょっと統計を見れば、過去15年間、日本は公共投資を無謀にも削減し続けてきたことは一目瞭然です。それで、いまの日本のインフラが、耐用年数の限界という危機に直面しているのは、meniawoba7123さん も報道などでご存知のことと思われます。これは、シラーさんの認識不足なのか、それとも誤訳しているのか、はてまた意図的な曲解が存在するのか、なんともいえません。

いま、公共投資悪玉論がまたぞろ跋扈しはじめていますね。怪しいですね。日本の大手マスコミは、一般国民に対して、自分で自分の首を絞めるのが正義だと言い続けています。本気であれば、彼らは変態にちがいありません。また、一国の首相が、財務官僚に他愛なく籠絡されて、子々孫々に国富を残さないのが正義だと胸を張ります。経済システムをぶち壊してまでもとにかく目の前の(政府の!)借金を返すことだけが正義だと、それを「決める」のがとにもかくにも良いことなのだと、吠え続けています。愚かしいにもほどがあります。(それが民主主義の一番大事なことだと言って悪乗りする頓馬な亡国社会学者まで最近登場してきました)

「財務省・日銀翼賛諸団体」は、東大教授だとか、IMFだとか、OECDだとか、イエール大学だとか、権威に弱い日本人の泣き所を突く形で、ご立派な肩書きをつけて「デマ経済理論」を垂れ流します。そんなふうにやられても動揺しないように、というのはむずかしい注文のようですが、私ごとき「にわか勉強」の輩(やから)でも見抜けるくらいの薄っぺらな議論ばかりですから、自信を持って「王様は、裸だ!」と言いたいものですね。

私の意見はそんなところです。参考になりましたでしょうか。


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