美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

日銀白川総裁7月12日記者会見「追加金融緩和はなし」  (イザ!ブログ 2012・7・18 掲載分)

2013年11月24日 07時17分01秒 | 経済
先日、友人から「また白川がとぼけたことを言っているよ」と知らされました。それで、図書館に行き、彼が指摘した産経新聞の関連記事を確認し、家で取っている読売新聞の関連記事を読んでみました。なるほど、とぼけたことを言っています。日銀白川総裁は、一般国民が金融経済に疎いことをこれ幸いに、小難しい言葉使いで、これまで国民を欺き続けてきました。金融政策の最高責任者として、まことに罪深いことであると、私は心からの怒りを禁じえません。今回も、これまでと同様に、事実無根の言い張りと翻訳の必要な「日銀語」によって、金融緩和に対する自らの消極的な姿勢をむしろ積極的な姿勢と言いくるめようとしています。白を黒と言いくるめようとするその不誠実な態度は文字通り万死に値します。

そんなことばかり言っていてもしょうがないので、内容を具体的に検討しましょう。

今回、日銀が追加緩和を見送った理由は、日銀が7月12日にそのHPで発表した「当面の金融政策運営について」によれば、次の通りです。

〔1〕わが国の景気は、復興関連需要などから国内需要が堅調に推移するもとで、緩やかに持ち直しつつある。公共投資は増加を続けている。設備投資は、企業収益が改善するもとで、緩やかな増加基調にある。また、個人消費は、消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する景気刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けているほか、住宅投資も持ち直し傾向にある。輸出にも、持ち直しの動きが見られる。

これを読む限り、日本経済は順調に推移しているとの印象を受けます。私の生活実感とかけ離れているので、おかしいと思い、日銀が先月に公表した短観に目を通してみました。こまかい数字を上げるのは、みなさんがあまり好まれないと思われますので、なるべく控えますが、例えば、企業の想定為替レートは、2011年が1ドル=79.27円なのに対して、2012年は78.95円と円高基調が浮かび上がっています。これは、輸出産業の苦戦を物語る数値と受けとめて大過はないでしょう。暢気に「輸出にも、持ち直しの動きが見られる」などとうそぶいている場合ではありません。円高基調は、日銀の金融緩和の不足を端的に物語る経済現象なのですから、日銀は腹をくくってさらなる金融緩和をすべきところなのに、日銀は例によって、そうは考えません。

設備投資の増加基調は、大企業にはやや見受けられるものの、中堅企業や中小企業には見受けられません。むしろ、手控え気味の数値です。それは、景況判断とほぼ対応していて、大企業のそれがやや持ち直し気味なのに対して、中堅企業や中小企業は、悲観的な見通しが顕著です。このことから、日銀の大企業重視がよく分かります。それにしても、「消費者マインドの改善傾向」とは恐れ入りました。デフレ不況と消費増税を睨んで、消費を手控えざるを得ないと思っている消費者が一般的であることが、高給取りの日銀職員にはピンとこないのでしょうね。公共投資の増加の継続とは何を指しているのか、よくわかりません。1997年以来、公共投資を削減し続けてきた歴史は日銀ではなかったことにされているのでしょうか。

要するに、金融緩和の見送りを正当化するために、信じられないことですが、日銀は自分たちが作った短観の数値を全国民的見地から虚心に見つめることなく、強引に「景気は、緩やかに持ち直しつつある。追加の金融緩和をしなければいけないほどに日本経済はひどくない」と言い募っているのです。こういうのを、庶民の間では、ひ弱で根性の腐ったヤツといいますね。


〔2〕海外経済は、緩やかながら改善の動きも見られているが、全体としてなお減速した状態から脱していない。国際金融資本市場では、欧州債務問題を巡る懸念等から、神経質な動きが続いており、当面十分注意してみていく必要がある。


要するに、世界経済は、良い状態とは言えないが、積極的な措置を講じるほどの状況にはまだ至っていないので、いまは静観するに若くはない、と言っているわけです。

本当にそうでしょうか。私には、いまのアメリカはEUの状況をピリピリしながら注視し、債務問題が嵩じてデフレ圧力の大波がEUから押し寄せるならば、いつでもQE3(量的金融緩和第3弾)で応じる構えであるように映ります。大統領選を控えたオバマ大統領は、景気の悪化を押さえ込むために目の色を変えてドルを剃りまくるにちがいありません(そうしないと再選の芽がないので)。また、EUに対する輸出額が20%弱を占める中国経済の成長が減速しつつある状況は連日のように各マスコミで報じられています。中国の債務はEUをしのぐとも言われています。その巨大なバブルがはじける日がやがて(早ければ今年の秋に)来ることをわれわれは覚悟しなければならない段階にさしかかっているようです。さらには、世界恐慌第二弾の地雷原であるEUは、ギリシャのEU離脱をかろうじてしのいだものの、今後の状況は不透明なままです。クルーグマンによれば、ギリシャはいずれ100%EUを離脱するとのことです。もともと、経済状況が極端に異なる国同士の間で通貨統合をしてしまった無理がたたっての今日の状況であることを考えれば、これからもEUは不安定要因を抱え込んだままなのです。EUは、いったいいつまで「ヨーロッパはひとつ」という妄想にしがみついて、世界に迷惑をかけつづけるのでしょう。愚かなことです。

これらを一言でまとめれば、日本はEUからと中国からとアメリカからの三つの性質の異なった大津波のようなデフレ圧力の襲来の危機に日々直面しているのです。静観も注視もなにもあったものではありません。巨大な津波に対しては防波堤を築かなければなりません。同じように、デフレ圧力の襲来に対しては、その衝撃を最小限に食い止めるように、私見によれば最低2%、できれば3~4%程度のインフレという衝撃の吸収装置を設定しておかなければなりません。それが、国家の総合安全保障の見地からいま何を措いてもやっておかなければならないことなのです。消費増税をしなければハイパー・インフレになる、とか、民主主義のために消費増税を、などと寝惚けた世迷言をほざいている場合ではないのです。嵐がやって来るときに、窓を開け放つ馬鹿がどこにいますか。

世界経済の状況に触れながら、追加の金融緩和を見送る日銀の思考経路が私には理解不能です。別のところで、「景気のリスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復力、新興国(主に中国を指しているー引用者注)・資源国の物価安定と成長の両立の可能性など、世界経済を巡る不確実性が引き続き大きい」とまで言っているのですから、そうしない理由を探すのがむずかしい。もっとも、08年のリーマン・ショックのとき本当になにもせずに、日本経済がデフレの嵐にのたうちまわるのをのほほんと座視した「前科」を持つ日銀だから、それは当然のことだ、とは言えるかもしれません。しかし、それは国民経済のためにまともな金融政策を実施することを放棄していることになるわけですから、政府は、そんなふざけた日銀からさっさと資本金を引き上げて、財務省にでも金融政策をやらせたほうが緊急避難的には数段即効性があると私は考えます。それほどに、いまの日銀はひどいということです。私はシャレで言っているわけではないのですよ。

それに加えて、大胆な金融緩和の実行を阻むハリボテ、あるいは金融緩和もどきのふるまいのアリバイの役割しか果たしていない「資産買入等の基金」の中身をごちゃごちゃとこまかくいじくっています。「固定金利方式・共通担保資金供給オペレーションを5兆円程度減額し、短期国債買い入れを5兆円程度増額する」とは要するに現金を現金と交換するための内訳の金額のアクセントの付け方を若干変えますということで、量的金融緩和の推進とは何の関係もないことです。私には、仕事をしているポーズをとっているだけとしか映りません。こういうのを税金ドロボーといいます。

同じく日銀が公表した「総裁記者会見要旨ー2012年7月12日(木)」から、記者と白川総裁とのやり取りをいくつかピック・アップして、コメントを添えましょう。

「日銀は、現在、資産買入等の基金の残高を本年度末に65兆円程度、来年6月末には70兆円程度まで積み上げていくことで、強力な金融緩和を推進しています」

白川総裁のこういう言葉を目にすると、私は暗澹たる気分に陥ります。というのは、これは端的に「なにもしません」と言っているに等しいからです。「基金」をいくら増やしてもマネタリー・ベースがほとんど変わっていない、というのはしょっちゅうなのです。「基金」を増やすというのは、マネタリー・ベースを増やすこと(すなわち量的金融緩和)をまったく保証しません。これが、日銀の詐術の基本です。マスコミは、本当だったら「『基金』の表示を廃止し、日銀は、マネタリー・ベースの推移を明示せよ」というキャンペーンを展開しなければならないのです。(日銀のマネタリー・ベースの推移の詳細な資料を日銀HPから取り出すのは、現状では、そうすんなりとはいかないのですねぇ)

ちなみに、マネタリー・ベース平均残高は、昨年12月に115.5兆円、今年6月に119.9兆円と、この半年で4.5兆円しか増えていません。増加率はたったの4%です。これで市場にインフレを期待しろと言ったって、無理に決まっています。インフレ期待が形成されるはずがありません。世界標準では、金融緩和とはマネタリー・ベースを数十%から数倍増やすことを指しています。日銀と日本の大手マスコミを除いて、それ以外の用法を私は寡聞にして知りません。日銀は、自分たちがしていることを金融緩和だと言い張るのを、世界から呆れられるだけなので、もういい加減にやめてはいかがかでしょう。

読売新聞から一つ。「日銀は、デフレ脱却に向けた『物価安定の目途』として示している消費者物価の対前年比上昇率1%の達成時期について政府が最初の消費増税を考えている2014年度との考えを4月に示している。この点についても白川総裁は、『(達成時期の見通しは)4月と変わりはない』と言い切った」

よくもぬけぬけと言いやがるなぁ、というのが率直な感想です。なぜなら、白川総裁の任期は2013年の4月8日までだからです。つまり、自分の任期中に1%を達成する気が、彼にはまったくない、ということです。こんなふざけた話がありますか?自分が掲げた目標を任期中になんとしても達成しようと全力をあげてこそ、市場はそれを本気で受けとめて、インフレ期待率が上昇するのではありませんか。1%達成なんかどうでもいいと言っているようなものです。

(国会で同意された二名の審議委員の任命が遅れている理由と、任命日の目処について尋ねられて)「ご存知の通り、審議委員の任命については、日本銀行法において「両議院の同意を得て、内閣が任命する」ということになっており、任命日は内閣がお決めになることです。従って、今のご質問について、私の立場からコメントすることは特にありません。」

金融官僚として、ソツのない返答ぶりと評することもできるでしょうが、私はやはり気に入りません。聞くところによれば、その二名は金融緩和に対してどちらかと言えば積極的な考え方の持ち主であるとのことです。民主党や自民党やみんなの党のなかの経済に関する「ウルサ方」の議員から、あの河野氏に対するような厳しいコメントがあまり漏れ聞こえてこなかったところをみるとまずまずの人材なのでしょう。で、白川総裁が本気で金融緩和を推進する気であるのならば、せめて「二人ともに金融緩和に積極的な考えの持ち主と聞いている。今回の会合に参加できなくて残念だ」くらいのことを言って、市場を安心させるくらいのサーヴィス精神があってしかるべきである、と私は考えます。つまり、白川総裁が本気で金融緩和を推進する気などさらさらないことを物語るコメントである、と私は考えるのです。彼には、日本経済のために、総裁職を一日でも早く辞めてほしいものです。彼は、周りがチヤホヤするものだから、自分がエライと勝手に思い込んでいるだけです。そういう幼児性の臭いを発散するのは勘弁して欲しいものです。

「1~3月期のGDP成長率は、G7の中では日本が一番高かったわけですし、多分、この4~6月期の日本の成長率は、まだ数字は出ていませんが、年前半という意味では、先進国の中では非常に高い方であっただろうと思います。」

これを読んで、目が点になる方が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。そんな馬鹿な、と。彼はここで一体なにを言っているのでしょう。「世界経済のネタ帳」というとても重宝しているHPがあるのですが、そこからこんな数値を拾ってみます。

G7・実質GDP成長率(2012年 推計)

日本2.04% (日銀の見通しは2.2%です)
アメリカ2.11% 
イギリス0.82% 
フランス▲1.91%
カナダ2.00%
ドイツ0.62%
イタリア0.48%

日本は、これで見る限りなかなか健闘しているように見えます。G7中堂々たる第2位、日銀推計ならば第1位です。つまり、白川総裁が豪語しているのは、実質GDPの成長率のことなのです。しかし、これは一般国民の自慢話にはなっても少なくとも日銀の自慢にはなりません。なぜなら、この成長率は、全国民的な日々の地道な創意工夫による生産能力の向上によってもたらされたものだからです。いわば日本国民の血と汗の結晶です。それに対して、日銀が自分たちの金融政策をめぐっての努力を評価するのに注目しなければならないし、野田首相の大好きな財政再建の基礎にもなる数値は、実質GDP成長率にインフレ率を加味した名目GDP成長率です。さて、それでG7各国を比較するとどうなるでしょう。ここでは単純に、名目GDP成長率=実質GDP成長率+インフレ率とします。それで大過はありませんので。

G7・名目GDP成長率(2012年 推計)

日本2.04%+インフレ率0%=2.04% (日銀のインフレ率の見通しは0.2%)
アメリカ2.11%+インフレ率2.10=4.21%
イギリス0.82%+インフレ率2.43=3.25%
フランス▲1.91%+インフレ率2.50=0.59%
カナダ2.00%+インフレ率2.16=4.16%
ドイツ0.62%+インフレ率1.91=2.53%
イタリア0.48%+インフレ率1.95%=2.43%

日本は、青息吐息のフランスのちょっと上、2位から6位に転落してしまいます。だれのせいでそんなことになっているのでしょうか。もうお分かりですね。そうです、日銀のせいです。国民の地道な努力に対して、日銀は何も付け加えるものがない、つまり日本経済への貢献度はゼロであることが、ここからもお分かりいただけるでしょう。日銀は偉そうにしていますが、実のところ、真面目で勤勉な日本国民におんぶにだっこなのです。日銀が、名目ではなく実質を強調するのは、要するに自分がなにもしていないことをカモフラージュするためなのです。国民の努力の成果を自分の努力の成果であると強弁するためなのです。(他の先進国の中央銀行は、景気の動向にかかわらず、インフレ率を2%前後に保って、デフレ・スパイラルに陥らないようにしっかりと国民経済を下支えしているのが数値から明らかです)

それで、素人の目をごまかすことはできるかもしれません。しかし、玄人すなわちマーケットの目をごまかすことはできません。株価と為替の動きによって、マーケットは日銀の本音、実態、実力を鋭く見抜きます。以下は、白川会見をめぐっての為替・金利・株価の動きについての産経新聞の記事からの引用です。

「12日のニューヨーク外国為替市場でユーロが急落、一時約二年ぶりのドル高ユーロ安水準の1ユーロ=1.21ドル台をつけた。対円でも約1ヶ月半ぶりの円高ユーロ安水準となる1ユーロ=96円台に入った。日銀が追加金融緩和を見送り、米国の追加金融緩和が遠のいたほか、世界経済減速に対する警戒感が台頭、相対的に安全とされるドルや円を買う動きが強まった。円相場は午後8時半現在前日比41銭円高ドル安の1ドル=79円30銭~40銭だった。」

*円高基調の継続が、輸出産業の業績を悪化させ、企業の海外移転を加速させ、国民から雇用を奪うことは連日の報道でよくご存知のことと思われます。企業の海外移転が、不可避的に技術の流出を伴うことも、みなさんよくご存知ですね。

「長期金利(新発10年国債)0.765%(▲0.015%)」

*日本国債の買いが強まったということです。市場は、日銀の追加緩和先送り=デフレ容認=円高容認→緊急避難所としての日本国債の価値の上昇、と素早く読んだわけです。

「平均株価は6営業日続落8800円を割り込み、約2週間ぶりの安値水準となった」

*市場の日銀に対する落胆ぶりがよく表れています。

これが、市場の、日銀による追加緩和見送りに対する厳正なる評価です。いつまで、日銀は馬鹿なことをうつうつとほざき続けるのでしょうかね。そのままにしておけば、日本が壊れてしまうまで続けるような気がしています。上念司氏が言う通り「まさに近衛内閣末期」の様相を呈していると断じるよりほかはありません。

お聞き苦しいところがあったとすれば、国難の意識ゆえの激語とお見逃しください。

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