美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

バイデン政権の脅威:ビクトリア・ヌーランドの正体

2021年03月20日 17時15分01秒 | 世界情勢


*以下の文章は、藤井厳喜氏の情報誌『ケンブリッジ・フォーキャスト・レポート』2月号掲載の論考にいささか手を加えたものです。

バイデン政権は、政治担当国務次官にビクトリア・ヌーランド女史(59)を指名しました。実のところヌーランドは、強烈な反ロシア派であり強烈な親中共派でもあります

ビクトリア・ヌーランドは、ブラウン大学を卒業後、国務省に入省した職業外交官です。父方の祖父はロシアからアメリカに移民したユダヤ人です。そのためか、女史には強烈な反ロシア傾向があり、それゆえネオコンの一員と目されています。

2011年6月から13年2月まで、オバマ政権下で国務省報道官を務めました。その後、2013年9月から翌年の1月のオバマ政権終了時まで、ヨーロッパ・ユーラシア担当の国務次官補の地位にありました。今回は次官補のワンランク上の次官に指名されたわけです。ちなみに政治担当国務次官は、国務省ナンバー3の地位です。

ヌーランドは2012年、国務省報道官だったころ、孔子学院のアメリカの大学での拡大の支持を公然と表明しました。孔子学院を米中2国間における人材交流にとってきわめて重要なものであると賞賛し、チャイナの侵略的野心に関する懸念を全面否定しました。

たとえば、ある記者がヌーランドに「オバマ政権は、チャイナが孔子学院を通じて、そのソフトパワーを米国内で拡大することを心配していないか」と質問したところ、ヌーランドは「まったく心配していない。われわれは孔子学院を支持している。孔子学院は、相互理解の一環だ」と明確に答えています。

【ちなみに、孔子学院はオバマ時代に急速に影響力を拡大し、中国共産党の影響に関する識者たちのたびたびの警告にもかかわらず2017年をピークに100以上の米国の大学で設立されました。複数の政府報告書で、中国政府が学内機関に対して高度な支配を実行し、講師がチベットや香港のようなタブーの話題を教えないように制限していたことが明らかになりました。講師は米国内で教えている場合でも中国の法律に従うことが契約上義務付けられることが多かったのです。】

このような人物が政府高官として再登場したことは、日本にとっても由々しき事態です。

ヌーランドが有名になったのは、2014年2月のウクライナ危機のときでした。女史は、ウクライナの合法政権が、非合法的な暴力を導入した軍事クーデターで打倒されたとき、米国のネオコン勢力の指揮をとりました。ケリー国務長官のもとで、ヨーロッパ・ユーラシア担当の国務次官補としての権限をほとんど独裁的に行使したのです。

2014年2月のウクライナ危機の詳細に触れましょう。

ロシアは以前から黒海に面したウクライナのクリミア半島に黒海艦隊の基地を持っており、ウクライナとの間でその駐留権の延長問題を抱えていました。

2010年4月、ロシアはウクライナとの間で合意に達しました。ロシアがウクライナに売る天然ガスの価格を30%引き下げるかわりに、ウクライナは、2017年に終了することになっている黒海艦隊の駐留期限を25年(最大30年)延期することに同意したのです。ロシアとウクライナの両国議会もこの協定を批准しました。それと同時並行で米露の人事交流もさかんに行われ、ロシア=ウクライナ合意に、米国側も同意を与えていました。
 
ところが4年後の2014年2月に起きたウクライナ政変で、極右の暴力団まで動員して、ヤヌコビッチ政権は非合法的に葬り去られてしまいました。そのどさくさにまぎれて、反ロシア勢力がウクライナの政治的権力を簒奪することを恐れたロシア・プーチンは、クリミア半島の併合を断行しました。

この時、ウクライナのネオナチ的極右暴力団まで動員して同政権を転覆させた張本人のひとりがヌーランドであったといわれているのです。また、ロシアのクリミア半島併合に対して、ウクライナの反露右派政権に武器を供与し、ウクライナにロシアとの戦争をけしかけたのもヌーランド女史だったと伝えられています。

つまりヌーランドは、極端な反ロシアのタカ派で、時のヤヌコビッチ政権を転覆させ、対ロシア冷戦体制を構築しようとしたと推定されているのです。

これは藤井氏が明言していることではありませんが、ヌーランドは、グローバル金融資本勢力に連なるDSの一員である可能性が高いものと思われます。

ヌーランドは2005年7月から2008年5月まで、ジョージ・W・ブッシュ(ブッシュJr)大統領のもとで、米国のNATO常任委員代表を務めており、共和党反トランプ勢力とも深いつながりがあります。

ヌーランドの親中派としての危険性をいうなら、我が国として、尖閣問題は無視できません。というのは、2012年8月15日、尖閣諸島に香港の活動家が不法上陸した際に、ヌーランドは「尖閣問題を平和的に解決することを期待する」と発言しているからです。これは、一見なんでもないようですが、実は外交的に重大な問題をはらんだ発言です。なぜならその発言は、日中両国間に領土問題があることを認めているからです。「領土問題は存在しない」とする我が国の見解と真っ向から対立する考え方です。さらには、尖閣をめぐる領土問題が同地における施政権の日本からチャイナへの移動を誘発した場合、米国がそれを許容する可能性すら含んでいます。

このようにバイデン政権は、日本にとって脅威というよりほかに評しようがない代物なのです。非常に困った事態ですが、そう認識しないよりするほうがはるかにマシであることはたしかでしょう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« メーガン妃の英王室人種差別... | トップ | 100年ぶりの日英同盟・復... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

世界情勢」カテゴリの最新記事