美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

ケント・ギルバートは、日本人に対するGHQの洗脳を問題視している(美津島明)

2015年08月17日 01時17分50秒 | 政治
ケント・ギルバートは、日本人に対するGHQの洗脳を問題視している(美津島明)



読書会仲間からの勧めで、ケント・ギルバートの『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP)を読んでみた。とても読みやすく書かれてあるというのもあるが、あっという間に読み終えた。面白かったのである。

どこが面白かったのか。それは、中国や韓国やアメリカから歴史認識に関していろいろとご無体なことを言われても、きっぱりと言い返せない日本人のもたもたぶりに業を煮やして、「いいかい、日本人よ。彼らにいろいろと言われたら、こんな風に言い返せばいいんだよ」と、ひとつひとつ具体的に指摘しようとする彼に、アメリカ人らしい率直さ、合理性、健全性が感じられた点である。

そうして、ギルバート氏は言う。日本人が、中韓米に対して言いたいことをいわずについ遠慮してしまうのは、占領時のGHQの洗脳がまだ解けていないからである、と。

氏によれば、硫黄島・沖縄の激戦や特攻隊の存在を通じて、連合軍は、日本軍の強さを思い知った。その強さが骨身に沁みて分かったのである。これが、戦後におけるGHQの日本人に対する執拗で徹底的な洗脳につながった。氏は、そういうふうに主張する。

本書から、引くことにしよう。少々長くなることをお断りしたい。

戦後占領期にGHQは、検閲等を通じて日本人に施した「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)」というマインド・コントロールによって、日本人を徹底的に洗脳し、武士道や滅私奉公の精神、皇室への誇り、そして、それらに支えられた道徳心を徹底的に破壊することで、日本人の「精神の奴隷化」を図ろうと試みたのです。

GHQによる占領は、七年間で終了しました。日本はサンフランシスコ講和条約の締結により、形式上は独立国の主権を取り戻したことになります。ところが戦後七〇年になる現在も、日本人のマインド・コントロールはまだほとんど解けておらず、それが様々な分野に悪影響を与えています。なぜでしょうか?

私はその最大の原因は、戦後の政治家と教育界、そしてマスコミのせいだと考えています。彼らは日本人でありながら、アメリカが始めた「精神の奴隷化」政策を放置したばかりか、GHQが去った後も、かえってそれを強力に推進したのです。


WGIP、すなわち、「戦争についての罪悪感を日本人に植え付けるための宣伝計画」の重要な柱になっているのが、いわゆるプレス・コードである。これは、GHQによる検閲の基準となる報道規制であって、全部で30項目ある。「これらのことを表現したら、検閲にひっかかり、最悪の場合削除したり、発行停止にしたりするぞ」ということである。

以上を踏まえたうえで、次の動画を観ていただきたい。氏自身が、プレスコードについて触れている貴重な動画である。

【公式】また?GHQの洗脳WGIPに縛られている日本人【ケントキ?ルハ?ート】


あらためて、プレス・コード30項目を列挙しておこう。それらについてのメモ書きは、筆者の私見である。

〔1〕SCAP(連合国軍最高司令官もしくは総司令部)に対する批判
要するに、マッカーサーやGHQの悪口はまかりならぬ、ということ。それはそうだろう。鋭い適切な批判によって、GHQが実質的な主権者であることが白日のもとにさらされると、間接支配がうまくいかなくなるのだから。
〔2〕極東国際軍事裁判批判
いわゆる東京裁判の正当性に関しては、法廷においても疑義が絶えなかった。それが明らかにされることは、戦勝国の正当性がゆらぐことにつながりかねないのである。
〔3〕GHQが日本国憲法を起草したことに対する批判
GHQが、「日本国憲法は、日本人自身が作った」というフィクションをどれほどに欲していたのかが、このことからもわかる。GHQは、わずか十二日間で当憲法を作った。いわば、やっつけ仕事の産物なのである。それを、日本人は後生大事に約七十年間一語も変えることなく守り続けたのである。律儀といえば律儀な民族である。
〔4〕検閲制度への言及
GHQが、自分たちが設けた検閲制度の存在を、日本国民から隠すことに腐心していたのが分かる。
〔5〕アメリカ合衆国への批判
GHQへの批判がまかりならぬとすれば、当然、アメリカ合衆国への批判もまかりならぬ、となる。東京大空襲をはじめとする無差別爆撃、広島・長崎原爆投下など、戦時中にアメリカがしでかした数々の戦争犯罪が暴かれるのを避けたかったのだろう。
〔6〕ロシア(ソ連邦)への批判
上記の④を守り続けてきたのがいわゆる戦後保守と呼ばれる人々であり、八〇年代まで⑤を守り続けたのが、いわゆる戦後左翼と呼ばれる人々である。
〔7〕英国への批判
英国への批判は、同盟国・米国への批判につながる。
〔8〕朝鮮人への批判
戦後のマスコミや政府が、これを律儀に守り続けてきたので、外交戦や言論戦で、日本はいまだに韓国に対してボロ負けである。基本的な事実として、終戦時の朝鮮半島の住民は、日本国民であり、ともに大東亜戦争を闘ったことをまずは押さえたい。つまり、韓国は戦勝国ではないのだ。
〔9〕中国への批判
同じく、この規定も、戦後のマスコミや政府が、律儀に守り続けてきたので、外交戦や言論戦で、日本はいまだに中共に対してボロ負けである。ケント・ギルバート氏も本書で言っていることであるが、当時の日本は、中華民国政府(国民党)と闘ったのであって、中共と闘ったのではないし、ましてや、彼らに負けたのではない。日本は、戦闘では、イギリス軍やオランダ軍にも負けてはいない。負けたのはアメリカに対してだけである。そういう基本的な(素朴な)事実でさえも、日本が当規定を墨守することで、あいまいになっているのである。
〔10〕その他連合国への批判
しつこいようであるが、韓国は、「その他連合国」に含まれない。
〔11〕連合国一般への批判(国を特定しなくても)
要するに、日本は、連合国=戦勝国に都合の良い歴史観を受け入れろ、と言っているのである。その意味で、〈歴史とは、戦勝国の歴史である〉というのは、本当のことである。
〔12〕満州における日本人の取り扱いについての批判
終戦時、満州に軍事侵攻したソ連軍は、満州の日本人居留民に対して、極悪・非道の限りを尽くした。http://kenjya.org/higai1.html(賢者の説得力ホーム 満州での被害)。それに一切触れるな、ということである。ソ連軍が、終戦時の敗色濃厚な瀕死のドイツに侵攻し、日本に対するのと同様のすさまじい所業をなしたことは周知の事実である。
〔13〕連合国の戦前の政策に対する批判
ルーズベルト大統領が、日本を対米戦争へ追い込んだことは歴史的事実である。それを暴くことはご法度ということ。
〔14〕第三次世界大戦への言及
第三次世界大戦が起きたら、敗戦国日本がそれに乗じてのし上がろう、などと言ってはいけないということ。また、ヤルタ密約でソ連に協力させて戦争に勝ったのに、その後米ソが対立していることを批判してはいけないということ。アメリカの対ソ戦略の誤りを指摘することになるからだろう。
〔15〕冷戦に関する言及
「日本は、冷戦が厳しくなったらそこにつけこんでのしあがろう」などと言ってはいけないということ。
〔16〕戦争擁護の宣伝
「大東亜戦争は、日本にとって自存自衛の戦争だった」などと主張して、日本の戦争遂行を弁護してはいけないということ。
〔17〕神国日本の宣伝
日本の国柄の核心が、国民の、天皇に対する敬愛の念であることを見抜いていたGHQは、それを補強する神国日本の宣伝を禁じた。
〔18〕軍国主義の宣伝
ケント・ギルバート氏が言うように、皇軍に対する、米国の恐怖心がよく分かる規定である。
〔19〕ナショナリズムの宣伝
この規定の「効力」については、個人的な経験がある。ある左翼の知人が、「日本のナショナリズムは危険である」とあまりにも言い募るので、「日本のナショナリズムはダメで、米中韓などの他国のナショナリズムはOKというのがどうにも納得できない。その理由を、ちゃんと言ってみてくれ」と問いただしたところ、彼は小首をかしげて、「本当にどうしてなんだろうな」と言った。笑い話のようであるが、実話である。
〔20〕大東亜共栄圏の宣伝
「大東亜戦争を通じて、日本は、アジア諸国の、欧米諸国からの解放をもたらした」などと宣伝してはいけないということ。
〔21〕その他の宣伝 
 この規定によって、どんな報道も規制の対象になりうる、という恐ろしい代物。
〔22〕戦争犯罪人の正当化および擁護
この規定によって、東京裁判におけるA・B・C各級の戦争犯罪人を弁護したり擁護したりすることが不可能になった。「A級戦犯は、靖国神社から分祀せよ」という文化的に無知な言説の歴史的淵源は、この規定である。
〔23〕占領軍兵士と日本人女性との交渉
GHQの職員たちが、日本人による性接待を陰に陽に要求し、それを満喫したことはつとに知られている。その実態が暴かれるのは、占領に支障を来すと判断したのだろう。真偽のほどは定かではないが、当時の花形女優・原節子がマッカーサーの性接待を担当した、という噂が世に出回った。それがまことしやかにささやかれるほどの状況があったということ。日本人の間に反米感情が蔓延することを当局は恐れたのだろう。
〔24〕闇市の状況
闇市の実態を報道することは、GHQの経済政策の批判(GHQの経済政策の失敗の指摘)につながるので禁じたのだろう。
〔25〕占領軍軍隊に対する批判
日本人の間に反米感情が蔓延することを当局は恐れたのだろう。
〔26〕飢餓の誇張
食をめぐる不満は、生物としての人間にとって根源的なものである。それがつのれば、統治に支障を来すので、報道機関が食糧不足問題に深入りするのを禁圧したのだろう。「食いものの恨みはおそろしい」。
〔27〕暴力と不穏の行動の扇動
国民が騒ぎ出すような暴力行為や不穏状態を誘導・扇動する報道をしてはいけない、ということ。GHQが、左翼の不穏な動きに目を配っていた証拠。
〔28〕虚偽の報道
「虚偽」かどうかは、GHQが決めるということ。
〔29〕GHQまたは地方軍政部に対する不適切な言及
①の規定の念押しだろう。
〔30〕解禁されていない報道の公表
いささか分かりにくい表現である。要するに、真実の報道であっても、時期尚早ならば公表を差し控えるべきであるということ。「時期尚早」かどうかを決めるのはもちろんGHQである。

こうやって列挙してみると、報道機関の良心を木端微塵にするような規定がずらりと並んでいて、一種「壮観」ですらあると感じる。日本の報道機関は、このような報道管制下に約七年間身を置いたのである。大東亜戦争の約四年間も報道管制下に置かれていたのだから、結局十年間以上も日本の報道機関は報道管制下にあったことになる。その間に、彼らは、自己検閲能力だけを不必要なほどに鍛え上げたのかもしれない。その意味で、ケント・ギルバート氏が言うように、日本のマスコミは、いまだに報道管制下の構え方から自由になれないのかもしれない。悲惨である。一種の精神病と言えよう。その症例が、冒頭に掲げた「報道ステーション」の一コマである。

また、30項目のなかに、「自国の尊厳を貶めるような報道」という言葉はいささかなりとも含まれていない。むろん、天皇陛下や皇室の報道への規制も一切見当たらない。GHQの裏のメッセージは、「そういうことは勝手にやれ」である、と私は受けとめる。そのあたりのことについても、日本のマスコミは「律儀」に守っているように見受けられる。

次の動画もごらんいただければと思う。氏の、言論人としての基本姿勢がよく分かる。

第1回 ケント・ギルバートが日本に興味を持ったきっかけとは?~日本に見出すチャンス~【CGS 日本再生スイッチ】


それにしても、アメリカ人からじれったく思われたり、叱咤激励されたりするのを私たち日本人は甘受し続けるよりほかはないのだろうか。日本人はいつまでたっても自分たちの力で自虐史観から脱却できないほどに情けない民族なのだろうか。そんなに自分に自信が持てないのだろうか。そういう素朴な感慨がおのずと湧いてくるのを私は禁じ得ない。
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