日野勝吾(東洋大学非常勤講師)
公益通報者保護法の施行から5年が経過した。施行時は企業不祥事の多くが従業員の内部告発(通報)により発覚していたこともあり、企業の法令遵守強化にも資するとされて脚光を浴びたが、今、法の意義が改めて問われている。
法は施行後5年をめどに見直しを検討すると定めており、今年度から見直しが議論される。その前段階として昨年度、消費者委員会の専門調査会で見直しに関して審議がなされた。最近、最終取りまとめが報告され、見直すべき課題があれば法改正を検討するとして、結論は先送りされた。
しかし、実務の現場は、悠長に構えていられない危機的状態にある。法施行後もなお、通報した従業員が解雇や不利益な取り扱いを受けているのだ。会社の法令違反と思って通報した従業員が、会社により通報内容を漏洩され、不当な配転を受けた事案もある。この事案の地裁判決は、法が定める「通報対象事実」に当たらず、配転は不利益性が低いとして、この従業員の請求を認めなかった。
そのほかに自治労共済の職員が厚生労働省に通報したが、同省が通報者の実名や報告内容を通知したことを発端に、「内部情報を取得したこと」を理由に解雇された事案や、大阪市の河川清掃職員の拾得物着服に関する通報をして懲戒免職を受けた事案、さらには同市職員が個人情報流出をめぐり通報したことで上司からパワハラを受けた事案などもある。
このように法を取り巻く実態は深刻だ。消費者委員会は実態を踏まえ、改正を念頭に置いて、抜本的な見直しに着手すべきだ。専門調査会は法改正が必要な具体的事実や理由がないとして結論を先送りしたが、前記の事案こそが法を改正すべき立法事実である。
改正点を挙げる。まず、通報先によって通報の要件が異なる現行法は分かりにくい。通報対象となるのは現在約430本の法律に限定されており、これを調べるのは一般人には難しい。通報の要件、特に外部通報の要件は緩和すべきだし、保護の要件も保護対象の法律で制限列挙するのではなく、法令違反全般を対象とすべきだ。
また、通報者の範囲は「労働者」に限定せず、個人業務委託従事者や下請け事業者などにも拡大すべきである。さらに、通報の根拠資料の持ち出しなど、通報の準備段階の保護や通報者のプライバシー保護規定も新設すべきだ。
公益通報しようとする従業員の気持ちを踏みにじることは許されない。法が「奨励法」にとどまることなく、従業員が安心して内部告発できる、真の「保護法」に生まれ変わるよう改正すべきだ。
(朝日、2011年05月14日)