植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

井上のパウンドフォーパウンドはあり得る

2019年11月09日 | スポーツ
パウンドフォーパウンドというボクシング用語があります。「PFP」で表記され、実際には対戦できない階級が違うプロボクシング選手の強さを比較してランキング付けしたものですね。
最新のランキングは、カネロアルバレス、ワシルロマチェンコ、テレンスクロフォードが上位3位までで、4位が井上尚弥であります。過去にはロイジョーンズ、マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザー、GGゴロフキンなど、ボクシングファンならだれでも知っているスーパースターがいました。

その井上が、かつて5階級制覇、PFPの上位に君臨したノニト・ドネアと対戦しました。2年間かけて同じ階級(バンタム級)の世界最強を争うWBSSの決勝戦です。ドネアは、2階級上のフェザー級から体重を落として参戦しました。かつて、日本の最強王者西岡が圧倒されてKO負けし引退に追い込まれた、パッキャオと並ぶフィリピンの英雄です。
下馬評では、若いモンスターが、全盛期を過ぎた36歳の老練ボクサーをKOで下すのではという見方が多かったのです。

しかし、本戦では期待に反してドネアの強さと巧妙さが光るファイトになりました。スピードとパンチの切れから、上々のスタートを切ったかに見えましたが、序盤に警戒していた左フックをまともに食って、井上が出血したことから予想外の展開となりました。
井上がいくらいいパンチを当てても、ひるまず前に出てパンチを繰り出すドネアに、KO勝ちを狙わずポイントを取る戦法に切り替えたのが井上の強さでもあります。

ドネアは、2階級上で戦っていましたから、強いパンチに耐性が出来ているように見えました。また、ショートパンチで井上の顔が何度も上に向かされるほど、重いパンチを放っていました。なにより、巧妙なディフェンスで、井上の強烈なボディーブローや、ワンツゥーをまともに食うことがほとんどありませんでした。井上がガクンと体をよろめかせ、たまらずクリンチした姿は、日本人のみならず、世界のボクシングファンを驚かせたでしょう。

井上の勝因の一つが、コツコツと放ったリード(ジャブ)そして、多用したボディーへのストレートです。当たらない右ストレートより軽い左ジャブの方が勿論効き目があるのです。もう一つは9Rにまともに貰った右ストレート、このときにクリンチで抱きつき、次のパンチを回避し体力・ダメージを回復したことに尽きます。かつて最強サウスポーと呼ばれた長谷川穂積が、相手から強烈なパンチを食った時、ダウンやクリンチで逃げず立ったまま致命的なフィニッシュパンチを貰った光景を思い浮かべました。

最後は、微妙なレフリングと不思議なジャッジ採点もありましたが文句なしの判定勝ち。ボクシングファンの心を奪う、生涯でも何度も見ることが出来ないすさまじい12Rでした。非常に高度なテクニックと無類のハードパンチが交錯する、背筋がざわざわとするような総毛立つ打ち合いでした。最終ラウンドに、猛攻を浴びながら最後まで立て続けたドネアに、最強クラスと言われたボクサーの強い意地を感じましたね。

KOでなくても、これだけの強烈な印象を残した試合は記憶にありません。国内のみならず、世界でもこのファイトは高く評価され最大級の賛辞を贈られているようです。あの亀田三兄弟の口先だけの猫パンチボクシングで日本のボクシング界がしらけ切った時代から、長谷川、山中、内山、村田と世界に恥じない日本のチャンピオン達が築いてきた黄金時代がさらに輝きを増していきたように思える、そんなベストファイトでありました。
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