プレミア覇者に超攻撃的サッカーで挑む
アンジェ・ポステコグルー監督率いる横浜F・マリノスが、プレミア覇者のマンチェスター・シティ相手に堂々、殴り合いを仕掛けた。
プレッシング・ゾーンを前に設定し、最終ラインを過激に高く保つ。これでハイプレスをかけて敵のビルドアップを破壊し、ショートカウンターを見舞うゲームモデルだ。もちろん王者相手にすべてが通用したわけではないが、肉を切らせて骨を断つ横浜FMのサッカーはとんでもなく爽快だった。
横浜FMのフォーメーションは4-2-3-1。スタメンはGKがパク・イルギュ。最終ラインは右から広瀬陸斗、チアゴ・マルチンス、畠中槙之輔、ティーラトン。セントラルMFは喜田拓也と扇原貴宏。2列目は右から仲川輝人、三好康児、遠藤渓太。ワントップはマルコス・ジュニオールだ。
一方、マンチェスター・シティのフォーメーションは4-2-3-1。スタメンはGKがブラボ。最終ラインは右からウォーカー、ストーンズ、ラポルト、ジンチェンコ。セントラルMFはロドリとデ・ブライネ。2列目はベルナルド・シウバ、ダビド・シルバ、サネ。ワントップはスターリングだ。
シティのハイプレス対策は?
立ち上がりから横浜FMは盛んにハイプレスをかけ、シティのビルドアップを壊そうとする。だがシティは巧みにプレスの網の目をかいくぐり、前にボールを運ぶ。
シティの監督グアルディオラは、横浜FMのプレスのかけ方を事前にスカウティングしていた。で、この日はセントラルMFを2枚にし、ビルドアップ時にはロドリだけでなくデ・ブライネもかなり低い位置まで下りてきた。そのためビルドアップ時におけるボールの預け所が多くでき、これが横浜FMのハイプレスを無効化した。
両SHのベルナルド・シウバとサネはサイドに開いて充分に幅を取り、サイドチェンジのボールを受けている。カットイン専門の中島翔哉(ポルト)にはぜひ見習ってもらいたいものだ。
さてシティの1点目は前半18分。高い最終ラインを敷く横浜FMのライン裏に抜けようとしたベルナルド・シウバに対し、GKブラボからのロングパスが通る。いまやGKがスルーパスを出す時代なのだ。
このパスを受けたシウバが、右に回り込んでボックス内に侵入したデ・ブライネにパス。ボールをキープしたデ・ブライネは正対したCB畠中をかわし、ゴール右スミへ強烈なシュートを叩き込んだ。
熱くなったペップが檄を飛ばす
横浜FMの最終ラインからは強くて速いグラウンダーの縦パスが出る。特にビルドアップの一歩目になる畠中の強いパスはすばらしい。サイドに開いたアタッカーに出すグラウンダーの斜めのパスあり。山なりのダイアゴナルなサイドチェンジのボールあり。彼はJリーグというレベルを超えているのではないかと感じた。
一方、横浜FMのマルコス・ジュニオールは偽9番で、しきりに中盤へ下りてきてはボールにからむ。彼の一人二役が多くのチャンスを作る。
かくて横浜FMの同点弾は前半24分に生まれた。中央の三好から右前の仲川にパスが出てシュート。シティのGKブラボが弾き返すが、そのリバウンドをマルコス・ジュニオールが拾って二の矢のシュート。これもDFに弾かれたが、セカンドボールを遠藤が冷静にコースを狙いダイレクトで決めた。1-1の同点だ。
直後の給水タイム。ペップが熱くなり、DFカイル・ウォーカーをつかまえて激しく檄を飛ばしていたのが痛快だった。それだけ横浜FMが圧力をかけているのだ。試合内容からは、この時点では「ひょっとしたら横浜FMが勝つんじゃないか?」とも感じた。実際、横浜FMの縦に速い攻めに、なんとあのシティが警戒して慎重にリトリートしているのである。
GKパク・イルギュは「第二のスイーパー」だ
なにより目を奪われたのは、横浜FMのGKパク・イルギュである。前半31分、左サイドのジンチェンコから、横浜FMの浅いライン裏に抜け出したスターリングに矢のようなスルーパスが出る。だがGKパク・イルギュはすばらしい出足で前へ出てパスカットした。
同様のシーンは一度や二度ではなかった。シティは横浜FMの高いラインの裏を狙って盛んにスルーパスを突き刺してくる。それをGKパク・イルギュが素早い飛び出しでことごとく刈り取って行く。横浜FMのハイライン戦術にあって、彼は広大なライン裏を掃除する「第二のスイーパー」として欠かせない。
一方、シティの最終ラインも、横浜FMがバックパスすれば少し上げる、というふうに、こまめに上下動してゾーンを非常にコンパクトに保っている。
またSBの広瀬とティーラトンが偽SB化する横浜FMの変則的なビルドアップに対し、シティも強烈なハイプレスで対抗する。狸と狐の化かし合いだ。戦術的に非常に見ごたえのある試合である。
ゴールとゴールの間が近い現代サッカー
そしてシティが勝ち越したのが前半40分だった。ビルドアップ時にデ・ブライネがボックス近くまで下りてボールをもらう。彼は中盤でベルナルド・シウバとワンツーをかました後、裏抜けしたスターリングにスルーパス。スターリングは短いドリブルからゴールを仕留めた。1点リードだ。
このあと前半40分台に、横浜FMには何度も惜しい得点機があったがモノにできない。実質、この山場の空振りで試合は決まった。もしここで横浜FMが得点していれば、ゲームはまだわからなかった。結局は、決定力。日本のサッカーは個の力を上げ、この大きな軛(くびき)から一刻も早く自由になる必要がある。
ハイラインの横浜FMに対しシティも非常にコンパクトなため、この試合では一方のゴール前からもう一方のゴール前まで、ボールが光速で移動した。息もつかせぬ攻防だった。
現代のフットボールでは精巧なビルドアップから縦に速くボールを運ぶ技術と戦術が進化し、そのためゴールとゴールの間が近い。決して「縦ポン」などではない戦術的なコクがある。
シティはプレシーズンでフィットネスが上がっておらず一部主力も欠いたとはいえ、横浜FMの健闘は光った。日本のサッカーはまた一歩、「世界」に大きく近づいたと感じさせられるゲームだった。
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プレッシング・ゾーンを前に設定し、最終ラインを過激に高く保つ。これでハイプレスをかけて敵のビルドアップを破壊し、ショートカウンターを見舞うゲームモデルだ。もちろん王者相手にすべてが通用したわけではないが、肉を切らせて骨を断つ横浜FMのサッカーはとんでもなく爽快だった。
横浜FMのフォーメーションは4-2-3-1。スタメンはGKがパク・イルギュ。最終ラインは右から広瀬陸斗、チアゴ・マルチンス、畠中槙之輔、ティーラトン。セントラルMFは喜田拓也と扇原貴宏。2列目は右から仲川輝人、三好康児、遠藤渓太。ワントップはマルコス・ジュニオールだ。
一方、マンチェスター・シティのフォーメーションは4-2-3-1。スタメンはGKがブラボ。最終ラインは右からウォーカー、ストーンズ、ラポルト、ジンチェンコ。セントラルMFはロドリとデ・ブライネ。2列目はベルナルド・シウバ、ダビド・シルバ、サネ。ワントップはスターリングだ。
シティのハイプレス対策は?
立ち上がりから横浜FMは盛んにハイプレスをかけ、シティのビルドアップを壊そうとする。だがシティは巧みにプレスの網の目をかいくぐり、前にボールを運ぶ。
シティの監督グアルディオラは、横浜FMのプレスのかけ方を事前にスカウティングしていた。で、この日はセントラルMFを2枚にし、ビルドアップ時にはロドリだけでなくデ・ブライネもかなり低い位置まで下りてきた。そのためビルドアップ時におけるボールの預け所が多くでき、これが横浜FMのハイプレスを無効化した。
両SHのベルナルド・シウバとサネはサイドに開いて充分に幅を取り、サイドチェンジのボールを受けている。カットイン専門の中島翔哉(ポルト)にはぜひ見習ってもらいたいものだ。
さてシティの1点目は前半18分。高い最終ラインを敷く横浜FMのライン裏に抜けようとしたベルナルド・シウバに対し、GKブラボからのロングパスが通る。いまやGKがスルーパスを出す時代なのだ。
このパスを受けたシウバが、右に回り込んでボックス内に侵入したデ・ブライネにパス。ボールをキープしたデ・ブライネは正対したCB畠中をかわし、ゴール右スミへ強烈なシュートを叩き込んだ。
熱くなったペップが檄を飛ばす
横浜FMの最終ラインからは強くて速いグラウンダーの縦パスが出る。特にビルドアップの一歩目になる畠中の強いパスはすばらしい。サイドに開いたアタッカーに出すグラウンダーの斜めのパスあり。山なりのダイアゴナルなサイドチェンジのボールあり。彼はJリーグというレベルを超えているのではないかと感じた。
一方、横浜FMのマルコス・ジュニオールは偽9番で、しきりに中盤へ下りてきてはボールにからむ。彼の一人二役が多くのチャンスを作る。
かくて横浜FMの同点弾は前半24分に生まれた。中央の三好から右前の仲川にパスが出てシュート。シティのGKブラボが弾き返すが、そのリバウンドをマルコス・ジュニオールが拾って二の矢のシュート。これもDFに弾かれたが、セカンドボールを遠藤が冷静にコースを狙いダイレクトで決めた。1-1の同点だ。
直後の給水タイム。ペップが熱くなり、DFカイル・ウォーカーをつかまえて激しく檄を飛ばしていたのが痛快だった。それだけ横浜FMが圧力をかけているのだ。試合内容からは、この時点では「ひょっとしたら横浜FMが勝つんじゃないか?」とも感じた。実際、横浜FMの縦に速い攻めに、なんとあのシティが警戒して慎重にリトリートしているのである。
GKパク・イルギュは「第二のスイーパー」だ
なにより目を奪われたのは、横浜FMのGKパク・イルギュである。前半31分、左サイドのジンチェンコから、横浜FMの浅いライン裏に抜け出したスターリングに矢のようなスルーパスが出る。だがGKパク・イルギュはすばらしい出足で前へ出てパスカットした。
同様のシーンは一度や二度ではなかった。シティは横浜FMの高いラインの裏を狙って盛んにスルーパスを突き刺してくる。それをGKパク・イルギュが素早い飛び出しでことごとく刈り取って行く。横浜FMのハイライン戦術にあって、彼は広大なライン裏を掃除する「第二のスイーパー」として欠かせない。
一方、シティの最終ラインも、横浜FMがバックパスすれば少し上げる、というふうに、こまめに上下動してゾーンを非常にコンパクトに保っている。
またSBの広瀬とティーラトンが偽SB化する横浜FMの変則的なビルドアップに対し、シティも強烈なハイプレスで対抗する。狸と狐の化かし合いだ。戦術的に非常に見ごたえのある試合である。
ゴールとゴールの間が近い現代サッカー
そしてシティが勝ち越したのが前半40分だった。ビルドアップ時にデ・ブライネがボックス近くまで下りてボールをもらう。彼は中盤でベルナルド・シウバとワンツーをかました後、裏抜けしたスターリングにスルーパス。スターリングは短いドリブルからゴールを仕留めた。1点リードだ。
このあと前半40分台に、横浜FMには何度も惜しい得点機があったがモノにできない。実質、この山場の空振りで試合は決まった。もしここで横浜FMが得点していれば、ゲームはまだわからなかった。結局は、決定力。日本のサッカーは個の力を上げ、この大きな軛(くびき)から一刻も早く自由になる必要がある。
ハイラインの横浜FMに対しシティも非常にコンパクトなため、この試合では一方のゴール前からもう一方のゴール前まで、ボールが光速で移動した。息もつかせぬ攻防だった。
現代のフットボールでは精巧なビルドアップから縦に速くボールを運ぶ技術と戦術が進化し、そのためゴールとゴールの間が近い。決して「縦ポン」などではない戦術的なコクがある。
シティはプレシーズンでフィットネスが上がっておらず一部主力も欠いたとはいえ、横浜FMの健闘は光った。日本のサッカーはまた一歩、「世界」に大きく近づいたと感じさせられるゲームだった。
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