※フルートを吹き狂うイアン・アンダーソン@ジェスロ・タル in ワイト島
いやはや、すっかりダマされるところだった。何がって、ジェスロ・タルのDVD発売をめぐる音楽業界の巧妙な仕掛けの話だ。
ジェスロ・タルは、1968年にデビューしたイギリス出身の古参バンドである。イアン・アンダーソンなるおっさんが率いている。日本ではあんまり知名度がないが、好きなやつは思いっきり好き、どちらかといえばマニア受けするバンドだ。
私は高校1年のとき、1971年にリリースされたアルバム「アクアラング」で彼らの音を初めて聴き、一発でやられた。それからというもの、もう高校時代は毎日ジェスロ・タルのアルバムを聞いてすごしたものだ。
じゃあいったい、そのジェスロ・タルの何がどうしたのか?
前回のブログ『「韓流」がいつも1面トップの新聞なんていらない』を書いたとき、ジェスロ・タルについてちょっとだけふれた。で、ついでに何の気なしにちょっと検索してみたのだ。「ジェスロ・タル」とグーグルに入れて。
そしたらなんたることか。まったくすごい偶然なのだが、なんと彼らが今度12年ぶりに来日し、5月に東京・渋谷公会堂でコンサートをやるという。
しかもこれまた激しく偶然なんだが、5月12日の公演では、彼らは「あのアクアラング」の収録曲を特別に「全曲」演奏するっていう。前述の通り、「アクアラング」は私の高校時代そのものだ。ユーミンじゃないが、「あ~なたはぁ~、わ~たしのぉ~、青春そのものぉ~♪」である。ええ、私は叫びましたとも。
「おおっ? まじかよぉおい。ぜったいにっ、行かなきゃ」
「イアン・アンターソンはもう爺さんだから、これを逃したら生で見る機会なんてないぞ。なんせあとは寿命で死ぬだけだからなぁ」
すっかり頭に血がのぼり、速攻でウドー音楽事務所に電話してチケットを取りましたとさ。S席・8000円だ。
で、有頂天になってさらに検索していると、またもやとんでもない発見をした。ジェスロ・タルが1970年にあのイギリスのワイト島でやったライブが、なんとDVDで発売されるっていうじゃないか。リリースされるのは4月27日らしいから、もうすぐだ。
※ジェスロ・タル in ワイト島
「うわぁー。これも、ぜ・っ・た・い・に・っ、買わなきゃ!」
1970年のワイト島っていろんなバンドが出てたんだけど、とにかくどのバンドの演奏もとんでもない。全体にえらいテンションが高く、もうサイコーなフェスティバルだった。
※ザ・フー in ワイト島
ただし私がもってるのはコンサート全体を収めたビデオと、このときの「ザ・フー」のビデオだけだ。ワイト島フェスティバルはミュージシャンの権利関係がややこしく、フィルム自体が長いことお蔵入りしてた。だからそれにちなんだ商品があんまりリリースされてないらしい。
もしこのコンサートで演奏した「フリー」のDVDが出たら、私はもちろん買う。「マイルス・デイビス」のが出ても買う。もうなんでも買っちゃう「禁治産者状態」である。
※フリー、てかコゾフ in ワイト島
※マイルス in ワイト島
や、それはともかく。ジェスロ・タルがきっかけで、もう目の前に出てくるモンはなんでも買っちゃうありさまな私。もううれしくてうれしくてしかたがない。
がっ、しかし。ちょっと時間がたつうちに、だんだん背後に存在する「あるシステム」に気づき始めた。よく考えてみるとDVDの発売が4月27日で、東京公演が5月11日と12日なわけでしょ? てことは彼らが来日したのって……。
DVDをプロモーションするためじゃんよ。
で、さらにアマゾンにアクセスし、くだんのDVDについて調べてみると……。驚愕の事実が発覚した。
日本でリリースされるDVDは4月27日付で、「予約受付中」になっている。人間、「まだ買えない」ってわかると逆に「どうしても欲しくなる」ものだ。で、実際、私も「予約しちゃおかな」とか考えてたわけ。
ところが笑ったのは、アマゾンが宣伝のためにやってる「仕組み」が私の熱をさましちゃったことだ。どういう意味か?
私はアマゾンにユーザ登録してある。だからブラウザでサイトにアクセスすると、(たぶんクッキーを使って)私がアマゾンで最近検索した履歴がぜんぶ出る。
一方、アマゾンはこれらのデータをもとに「コイツはこういう商品に興味があるんだな」と目星をつけ、類似の商品を「おすすめ商品」として自動的に画面に出して宣伝する仕組みになっている。
で、例の4月末に日本で発売されるDVDの「類似商品」として、すでに海外では発売されてる「まったく同じDVDの輸入版」まで画面に表示されちゃったんだ。自動的に。いやあ、驚いたねえ、まじで。なんでかって? だってさ、
日本版は定価が「4,935円」なのに、輸入版はなんと「1,708円」なんだぜ(価格は4/12現在)
しかも輸入版はすでに発売されてるから、中古だと「1,393円」(同)で買えちゃったりするわけだよ。
俺をなめてんのか? >音楽業界
音楽業界の流通の仕組みはよく知らないけど、どこをどうやったら「1,708円」で買えるモンが「4,935円」になっちゃうわけ? 日本の消費者をバカにしてるだろおまえら(誰に言ってるんだ?)
これじゃあさ、「ファイル交換ソフトによる商品の流通は著作権侵害行為だ」とかいくら言っても、ぜんぜん説得力ないじゃん。や、だから著作権侵害してもいいって意味じゃないよ。けど、心情的に「冗談じゃないよ」ってなるでしょ、ふつう。「まあ、ファイル交換するヤツの気持ちもわかるわな」で終わりだ。だって「サギ」じゃんよ、こんな値段は。
輸入版との差額が、「3,000円以上」もあるんですよ?
おまけにもうひとつ追加すると(まだあるのか?)
「これを機会に儲けよう」ってんで、東芝EMIが例のアルバム「アクアラング」をどうやらリバイバル発売しようとたくらんでるらしい。で、こっちは「4月13日発売予定」になっている。もうね、みーんな、セットになってるわけ。「アレを買ったら、コレも買わせて」って業界側の仕掛けが。
業界から見たら、そざかしハマった人を笑ってるんだろうなあ。「またバカが食いついたよ。入れ食い状態で笑いが止まらねえぜ。へっへっへ」とか言って。
ん? まてよ。
おいおい、ひょっとしたら5月12日の公演だけ特別に、ジェスロ・タルが「アクアラング」の収録曲を全曲、演奏するのって……。
ひょっとしたら東芝EMIと、なんかウラ取り引きがあったんじゃないのか?
東芝EMI「イアンさん。いやね、今度ウチで『アクアラング』を売り出そうと思ってるんですがね。へへ。でね、モノは相談なんですが、来日したら1日だけ『アクアラング』DAYみたいな日を作るってのはどうですかねえ? ほら、たとえばその日だけは、このアルバム中心の選曲にするとか。や、もしやってもらえたら、ウチとしては宣伝になっていいんですがねえ、へっへっへ」
イアン・アンダーソン「ふむ。それ、僕たちのアルバムの宣伝にもなっていいよね。バンドもトクするし、お宅らもウハウハ、と? 東芝EMIはん、あんさんもごっつうワルでんなあ。ふぉっふぉっふぉっ」
イアン・アンダーソンがそのとき果たして大阪弁を使ったかどうかは定かじゃない。だがこんな会話を妄想し、すっかりトドメを刺されました私は。業界のどす黒さに。「俺の青春が日本に来る」ってんでせっかく有頂天になってたのに。
8,000円も出してコンサートのチケット買ったけど、なんかよろこびが半減しちゃったよ。
どうしてくれるんだ? >ウドー音楽事務所
前にブログでメディア・リテラシーについてふれたとき、すべての情報には「必ず意図がある」と書いた。要はこういうことなのだ。
来日公演にはDVDを売ろうって業界側の意図がある。すでに海外じゃ破格値で売られてるDVDを、日本ではバカ高い値段つけて予約受付するのも、プレミアム性をつけて確実に売ろうてな意図だ。
しかも真偽の程は不明だが、東芝EMIはこの騒ぎに便乗し、CD「アクアラング」をリバイバル発売して儲けようなんて意図をチラチラさせてやがる。
これってさ、コアなファンの人はみーんな買っちゃうよ、まじで。実際、私も買おうとしてたし。消費者はこういうテで乗せられて搾り取られちゃうんだよねえ、なけなしの金を(まあ好きなモンに使うんだからいいんだけどさ)
しかし正直なところ、私自身はDVDの輸入版が「1,708円」で売られてるなんて知りたくなかったよ。
それさえ知らなきゃ、素直に彼らの戦略にハマってすべての商品を買い、ああトクした。幸せだって気分でいられたのに。これについてはアマゾンにすべての責任がある。ぶち壊したのはアマゾンのクッキーだ。
俺の青春を返せよな >アマゾン
【追記】(4/21付)
今日、渋谷のHMVへ行ったら、なんとワイト島のマイルスのライブがモニターに映し出されてた。DVD、出てたのね(^^; びっくりして店員さんに調べてもらったら、やっぱりワイト島のライブでDVD化されてるのはザ・フーとマイルスだけらしい。ジミヘンは出てたけど、廃盤になったとか。意外だ……。でも出せば売れそうなのになあ。フリーとか(笑)
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