すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

ジョニー・デップとジュード・ロウ―― 「かっこいいけど性格俳優」の系譜

2005-04-13 00:47:45 | 映画


 ジョニー・デップの爆発ぶりを見ていると「かっこいいけど性格俳優」な時代がきたんだなあ、と実感させられる。

 その系譜を紐解くと、ここ10年~20年の範囲なら元祖はまちがいなくカイル・マクラクランだ。デヴィッド・リンチが好んで彼を使ってることでもそれは証明されている。

 カイル・マクラクランは「Dune 砂の惑星」(1984年)で印象に残り、当時ひそかに脳内メモしておいた役者だった。

 その後、彼のややこしいキャラをそっくりそのまま映画にしたような作品である「ブルー・ベルベット」(1986年)、バツグンの出来だった「ヒドゥン」(1987年)と続き、世間的には「ツインピークス」(1990年)で人気が一気に炸裂することになる。

 ところがこの人の最高なところは、売れたからといってヒュー・グラントが出るような一般ウケするラブコメあたりに出たりしないところだ(いやヒュー・グラントもすばらしいよ。「すばらしさ」の切り口がちがうだけで)。

 や、実際、「ツインピークス」で当てたあとのカイル・マクラクランの作品が、リブ・タイラーあたりと組ませてこんなふうになっていたってちっともおかしくはない。

 マクラクラン&タイラーが恋人たちに贈るハートウォーミング・コメディ「恋のチャンスは電話から――いつもあなたにダイヤルイン」

 ところがカイルは決してそうならない。するとそこから導かれる法則は……。

■カイル・マクラクランの定理

「カイル・マクラクランはヘンな作品にしか出ない」

 彼はヘンな作品、もとい、おかしな作品、ううん、「個性的」な作品にしか出ない。いや単に話がこないだけかもしれないが、私の勝手な想像では彼はポリシーをもってるんだと思う(んー、ハリウッドはそんな甘い世界じゃないかなあ)。

 映画俳優がダメになるパターンってのは厳然と存在する。なんかの作品でイッパツ当てると、本人のキャラとは無関係に2匹目、3匹目のどじょう狙いな企画が殺到する。その典型が大向こうウケする売れ筋狙いのラブコメだ。

 で、やってくる企画を次々に受けてるうちに、もともとの持ち味がなんだったのかワケわかんなくなっちゃう。自分自身も、観客も。かくて業界はその俳優を使って一定の利益をあげて、えっへっへ。一方、すっかり消費された俳優本人は、擦り切れてあえなく消えていく。

 業界から見たら、彼が消えようがどうしようが利益さえあがりゃ、んなこたカンケーない。代わりはいくらでもいるんだから。

 カイル・マクラクランはこのパターンに、はっきり「No」と言ってるのである(勝手な想像)。

「おれはシナリオを読んで、自分がおもしろいと思った作品にしか出ないぜ。金? そりゃいったいどこの世界の話だい?」(私の「脳内マクラクラン」)

 いいねえ、あんた。いいよぉ。かっこよすぎだよ。

 私はそんな彼を、地獄の底まで支持するつもりだ。このブログの1回目で書いたジョン・ウェットンがあんなふうにフヌけていったのに対し、彼は好対照であるといえる。

 とにかく私はマクラクランが出た作品はもれなく観るし、おヒネリも投げる。機会さえあれば、何かに書いて微力ながらパブリシティもしちゃう。みんなぁ、「ルート9」(1999年)を観てやってくれよ。たのむよ。絶対ソンしないからさ。

 ああ、また前フリがすっかり長くなっちゃった。

 で、そんな「かっこいいのに性格俳優」な系譜を継ぐのが、ジョニー・デップなんである。

 みなさん、彼のデビュー作ってなんだか知ってます? 「エルム街の悪夢」(1984年)ですよぉ。

 まあデビュー作というのは「とにかく何でもいいから出たい」ってのがあるだろうから、参考にはならない。が、彼のその後の出演作を見ていると、やっぱり本人の意図が感じられる。象徴的なのは初ブレイクした「シザーハンズ」(1990年)だろう。

 彼は超メジャーになったため、いまやファン層がはっきり2分している。パターンその1は、「きゃー、かっこいぃぃ。ステキ。ジョニー好きぃ♪」な方々(もちろん他意はない。楽しみ方は人それぞれだ)。

 かたやパターンその2は、「おれは屈折した役を演じるジョニーが好きなんだ」って偏屈な人たちである。

 たとえば私の場合、彼の出演作でいちばん好きなのをひとつあげると、圧倒的に「エド・ウッド」(1994年)だ。

 1950年代に“史上最低の監督”といわれたエドワード・D・ウッド・ジュニア。彼はいつも「ヘンな思いつき」にこだわり、熱をあげている。

 で、そんな自分の思いを人々に伝えようと、「自分がおもしろいと思うこと」をまんま映画にするんだが、さっぱりウケない。だってヘンなんだもん。

 それを理解できる人ってね、地球人口の20%しかいないんだよ。残りの80%はごくごく平凡で当たり前な人たちなの。で、この80%に支持されることを俗に「売れる」という。そして平凡な80%にウケるてっとり早い方法が、前述の通り「ラブコメ」である。

 ただし方法はある。エド・ウッド本人みたいに剛球一直線な方法じゃなく、ティム・バートンが「シザーハンズ」で使った手法だ。根っこになってるのは「ヘンな思いつき」ではありながら、人をひきつけるための切り口を工夫し、わかりやすい味つけをする。

 すると一部の人にしか支持されない剛球じゃなく、80%の人たちにもおもしろいと思わせる「大リーグボール」(古いよ)になる。

 ヘンなことを思いつくのは「才能」だ。だが加えてティム・バートンみたいに、それを売れる物にアレンジする手腕はプロの「技術」といえる。プロはどっちも兼ねそなえてなきゃだめなのだ。

 それはともかく。

 この「エド・ウッド」が熱いのは、製作者の思い入れが感じられるからである。監督のティム・バートンは、「こいつ(エド)はまったくおれ自身だよ」って思ってる。そう考えたのが製作の動機だ。

「あんたの気持ちはよくわかるよ、エド」

 そしてジョニー・デップもおそらく同じことを感じてる。

 スクリーンを通してそんなヤツらの熱さと思い入れ、エド・ウッドに対する愛が伝わってくる。映画でも文学でも音楽でもなんでもそうだけど、こういう「念」は作品を通して届くんだよね。それが人の心に刺さるんだ。

 たとえば人と同じようにピアノの鍵盤を叩いてるんだけど、グレン・グールドはあきらかにほかのピアニストとはちがう。

 使ってる楽器はもちろんただのピアノだし、音を出す道具が「指」なのもほかのピアニストと条件は同じ。でもグレン・グールドが鍵盤をなでる1打、1打には、平凡な表現だけど魂がのっかっちゃってる。だから彼のCDはいまこの瞬間にも、衛星に載って宇宙を飛んでいるのである。

 ん、また話がそれてるな。こんなふうに書いてるうちに第2、第3のポイントが湧き上がってきて、それをまんま書くから私の原稿はいつも長くなっちゃう。そこで頭のいいヤツは「2回に分ける」んだよ、2回に。そしたら原稿料が2倍もらえるじゃないか。

 なんの話だっけ? ああ、デップの出演作だ。

 ほかには「ニック・オブ・タイム」(1995年)にも参った。この作品はとにかくシナリオが抜群にいい。ただしデップはごくふつうの「おとうさん」を演じてて、別に彼じゃなくてもこの映画は成立するわけではあるが。

 てなわけでハジからあげたらキリがないけど、カンタンに私が観ておもしろかった彼の出演作を開陳しよう。

 かつてマフィアを摘発しまくった実在のFBI潜入捜査官、ジョー・ピストーネを題材にした実録物「フェイク」(1997年)。こいつもピカイチだった。このピストーネはいまもマフィアに50万ドルの懸賞金を掛けられたまんま、引退し隠れて生きてる。映画のモトになってる実話自体がとんでもないのだ。

 映画では分厚い「物語エネルギー」で人間ドラマに仕立てているが、この物語エネルギーはちょっと前に私がツボったソダーバーグ監督の「トラフィック」(2000年)にも共通している。第73回アカデミー賞で最優秀監督賞を取った作品だ。とにかくベニチオ・デル・トロが最高です。トロけます(おい)。

「ラスベガスをやっつけろ」(1998年)は、マイフェイバリット監督のベスト5に入るテリー・ギリアムだったんで期待したものの、見事にコケました。ええ。

 が、続く「GO! GO! L.A」(1998年)はすばらしい出来だった。監督は同様にマイフェイバリット監督ベスト5のカウリスマキだ。たのむからみんなコレを観てくれよ、って感じ。作品全体はもちろんだが、ヴィンセント・ギャロがめちゃんこいい味出してて、あの演技だけでも観る価値はある(とキッパリ断言)。

「ショコラ」(2000年)もハートウォーミングでまあ印象に残った。ただしこれは映画そのものより音楽がよかった。あの映画でデップがジプシー音楽を演奏するのを観て、「これいいなあ」と角度のちがうハマり方をしちゃった。

 で、第2のジャンゴ・ラインハルトとか言われてるらしいチャボロ・シュミットのCD「ミリ・ファミリア」を買ってきて、一時は毎日ずっと流してました(このCD、マジおすすめです)。

 ちょっと変わったところでは、ギリアム好きじゃなきゃおもしろくもなんともないであろう「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(2001年)も感慨深かった。

 これはギリアムが作るつもりだった映画が流れ、ボツになるのを刻々と記録したドキュメンタリーだ。大雨でセットが流されるシーンを見て、「ギリアムの夢が流れていくなあ」と無性に悲しかった。ああ、いとしの我がギリアムは立ち直れるんだろうか……。非常に心配だ。

 最後に「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」(2003年)も理屈抜きに楽しめるエンターテインメントである。この映画でもデップはふたクセある海賊を演じ、実にいい味を出している。

 さて駆け足でデップの作品群にふれたが、このうちデップじゃなきゃ成立しない映画は実はそれほど多くない。それだけ彼がメジャーになり、ふつうの役どころも演じてるってことだ。

 じゃあ、マクラクラン、デップと続く「かっこいいけど性格俳優」の系譜を継ぐ者はだれか? もちろんジュード・ロウに決まってるじゃないか。

 彼は「真夜中のサバナ」(1997年)みたいなクソにも出てたりして、デップほど「ハズさない度」は高くない。けど、この人、役にハマると観てる人間がフリーズしちゃうほど鬼気せまるモンがある。

 出演作で3本だけおすすめをあげると、「ロード・トゥ・パーディション」(2002年)、「イグジステンズ」(1999年)、「スターリングラード」(2000年)だ。

 クローネンバーグ監督の「イグジステンズ」は、彼お得意のヘンてこりんな小道具を主役にした作品である。

 人間の脊髄にイグジステンズって呼ばれるゲームを接続し、バーチャルリアリティな悦楽的遊戯に興じる世界に引きずり込まれる主人公を描く。シナリオがよく、一気に物語世界にひっぱりこまれてラストまで突っ走っちゃう。

 お次の「スターリングラード」は、「薔薇の名前」「セブン・イヤーズ・イン・チベット」のジャン=ジャック・アノー監督作だ(どっちもサイコーの映画だったでしょ? この監督さん、優秀だよ)。

 主人公は、第二次大戦中に実在した伝説の狙撃手(スナイパー)である。ヨーロッパ最大の激戦地だったスターリングラードを舞台に、極限状況に置かれた人間はいったい何を考え、どうなってしまうのかをテーマにした戦争ドラマだ。

 さてトリは真打、「ロード・トゥ・パーディション」である。この作品、ジュード・ロウはホンの脇役でちょいと出る程度なんだが、これがいいんだなあ。あのジュード・ロウのガイキチぶりには、まったくシビレさせられた。

 彼は暗殺者を演じてるんだけど、これがタダの悪役じゃない。でっかいカメラを持ち歩き、人を殺すたんびに射殺現場を写真に撮るのを無上の楽しみにしてる。ま、異常者ですな。で、この破綻した人格を表現するロウの演技がとびきりいい。死に方まで最高だった。

 これまであげた3作の中では、彼の真骨頂がいちばん出てるのがこの作品だと思う。ジュード・ロウでなきゃ絶対、こんなふうにはならないもの。

 私の個人的希望では、彼は「コールド マウンテン」(2003年)みたいな映画に出るのはもうやめて(笑)、こういう役ばっかりやってほしいな。カイル・マクラクラン風にね(傍観者だから勝手なことばっかり言う)。

 さて。はたしてジュード・ロウは今後、マクラクラン系の割り切り方をするのか? それともジョニー・デップみたいにいろんな作品群に出ながらも、それぞれに自分の味を出していくのか?(でもこれってかなりむずかしい芸当だ)

 あるいは人気が出ちゃってもうどうでもいいような売れセン作品に出まくったあげくに、堕ちていくのか? 映画ファンとしては大いに気になるところだ。

 ジュード・ロウよ、ハリウッドの罠にかかって自分を見失うんじゃないぞ。しっかりやれ(命令)。

-----------【本文中に使った作品のデータ集】--------------

※「★」は、私の独断と偏見によるおすすめ度。
取り上げるに値する作品しか出してないから当然平均点は高い。
5段階評価でござんす。

●「Dune 砂の惑星」(1984年) ★★★★ 

監督:デヴィッド・リンチ
出演:ホセ・ファーラー、マックス・フォン・シドー

●「ブルー・ベルベット」(1986年) ★★★

監督:デヴィッド・リンチ
出演:イザベラ・ロッセリーニ、デニス・ホッパー

●「ヒドゥン」(1987年) ★★★★

監督:ジャック・ショルダー
出演:マイケル・ヌーリー、エド・オロス

●「ツインピークス」(1990年) ★★★

監督:デヴィッド・リンチ
出演:マイケル・オントキーン、シェリル・リー、ジョアン・チェン

●「ルート9」(1999年) ★★★★

監督:デヴィッド・マッケイ
出演:ピーター・コヨーテ、エイミー・ロケイン

●「シザーハンズ」(1990年) ★★★★

監督:ティム・バートン
出演:ウィノナ・ライダー、キャシー・ベイカー

●「エド・ウッド」(1994年) ★★★★★

監督:ティム・バートン
出演:マーティン・ランドー、サラ・ジェシカ・パーカー

●「ニック・オブ・タイム」(1995年) ★★★★

監督:ジョン・バダム
出演:クリストファー・ウォーケン、マーシャ・メイソン

●「フェイク」(1997年) ★★★★★

監督:マイク・ニューウェル
出演:アル・パチーノ、マイケル・マドセン

●「ラスベガスをやっつけろ」(1998年) ★★

監督:テリー・ギリアム
出演:ベニチオ・デル・トロ、キャメロン・ディアス

●「GO! GO! L.A」(1998年) ★★★★★

監督:ミカ・カウリスマキ
出演:デヴィッド・テナント、ヴィネッサ・ショウ

●「ショコラ」(2000年) ★★★

監督:ラッセ・ハルストレム
出演:ジュリエット・ビノシュ、ヴィクトワール・ティヴィソル

●「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(2001年) ★★★

監督:キース・フルトン
出演:テリー・ギリアム、ジャン・ロシュフォール

●「パイレーツ・オブ・カリビアン」(2003年) ★★★★

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ

●「イグジステンズ」(1999年) ★★★★

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジェニファー・ジェイソン・リー、

●「スターリングラード」(2000年) ★★★★

監督:ジャン=ジャック・アノー
出演:エド・ハリス、ジョセフ・ファインズ

●「ロード・トゥ・パーディション」(2002年) ★★★★

監督:サム・メンデス
出演:ポール・ニューマン、タイラー・ホークリン
コメント (10)
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