新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカは輸出に依存する国なのか

2018-04-22 08:35:21 | コラム
アメリカとの貿易を考えると:

私は22年有余の米国の大手紙パルプと林産物メーカーでの対日輸出担当の経験からして、アメリカは基本的に輸出に指向している国ではないと思うに至っていた。その為に中国を筆頭とする輸出に重きを置いてくる東南アジア諸国からの貿易赤字が増大する一方だったのに何ら不思議はないと見てきた。いや、寧ろそれを容認しているのかとすら考えた時期もあった。

ところが、トランプ大統領は早くからこの貿易赤字の削減を重要な公約として採り上げられ、先ずはメキシコに進出した米国の製造業の会社からの輸入にボーダータックスをかけても削減していくと固い決意を表明された。それがNAFTAの改定交渉にも現れたかと思えば、我が国が現地生産に大きく舵を切った自動車にさえ、輸出ばかりしてアメリカ車を輸入しないのは不当であるとまで堂々と言い出したのだった。

私はこのような自国の側に厳然として存在する問題点を度外視してまでも他国のせいにする手法は如何に大目的があったにせよ、好ましくないと思っているし、対アメリカの輸出国は断固して言うべき事を主張して対抗する必要があると考えてきた。ところが、トランプ大統領は決然として「アメリカファースト」の旗を掲げた以上、譲ることなく政策を着々として実行する段階に進み、鉄鋼とアルミへの関税賦課を切っ掛けにして、保護主義の姿勢を明確にして中国との貿易戦争をも辞さずとすら見える強硬な姿勢に出た。

一方では強硬派として知られているUSTRのライトハイザーを表面に立てて、TPP11を纏めた茂木担当大臣と我が国を相手にするFTAの折衝に入る意向をも明確にした。私には二国間交渉に持って行けば7兆円に達している我が国とも貿易赤字が瞬く間に雲散霧消するのか、TPPに復帰する方が赤字解消の早道なのか否かなどは見えてきていない。

だが、明らかに見えることは、トランプ大統領は「貿易赤字削減」の公約という大目的の為にはこの手段を選択されたのである以上、我が国や中国が激しい抵抗を見せても容易く一歩も引くまいと私は予測している。中には「アメリカは世界のこれまでの国際間の取引の方法を改革して新た体制を構築する意志を示した」と見る高名なジャーナリストもおられる。それはそれで立派な見識であると思う。。

だが、私はその方法で大統領自身が某大だと指摘された7兆円に垂んとする対日赤字が短期間に大幅に減少するものだろうか。我が国には対アメリカ輸出に依存している製造業者も輸出専業者も数多く存在する。そういう企業は「はい、そうですが」と明日から輸出の手を休める訳には行くまいと思う。合理化や人員削減等に工夫を凝らして隘路を打開することに懸命の努力をして、輸出を維持しようと努めるだろう。

一寸古い話になるが、昨年の4月18日に専門商社の知人Y氏と懇談した時のことだった。彼はカリフォルニア州とオーストラリアに駐在の経験がある長年輸出入を担当してきた専門家である。その時はペンス副大統領が来日中で麻生副総理と日米間の経済についての会談が行われていた。彼も私と同意見で「アメリカは基本的に考えて輸出国ではないにも拘わらず、何が故に我が国との貿易不均衡をここまで問題にするのか」と主張した。

彼は、これは私が繰り返し述べてきた「アメリカ政府はむざむざと自国の産業の空洞化を許した為に非耐久消費財等では中国を始めとする東南アジア諸国からの輸入にあれほど依存する態勢となり、自動車等の高度工業製品等では我が国やドイツを主体とする輸入に市場をあそこまで制覇させてしまったことを忘れて、他国のせいにするのは全く筋が通っていない」と同じ意見を述べていた。我々は我が国がトランプ様に現時点では譲歩する必要はなく、トランプ大統領の主張の根拠は正確ではないとの点でも意見が一致した。

私はこういう対アメリカ政府との交渉事や駆け引きを離れて、具体的に、経験上からアメリカから我が国に向けて輸出することの困難な点を挙げていこうと思う。基本的なことは「アメリカ経済はロッキー山脈を境にして西と東に別の経済圏を為している。経済の規模では西海岸は全体の30%しかなく、その東側即ち東海岸が70%であることを忘れてはならない」という事実だ。そのロッキー山脈がある為に、そこを超えて東西海岸間で製品でも何でも移動させことには高額な輸送費がかかるので、賢明な策ではないのだ。

また、西海岸の最北端のワシントン州からカリフォルニア州の南端までにはこれという大規模な産業がなく、非耐久消費財でも何でも輸入かコストをかける東側からの輸送に依存するか太平洋沿岸の諸国からの輸入に依存せざるを得ない状態にある。では西海岸からの輸出品に何があるかと言えば、往年は林産物、紙パルプ製品、資料用の干し草、農産物(アイダホ州からのフライドポテト類も含め)が主たる製品で、一次産品に依存していた。

では、内陸というか東海岸からの輸出入はどうかと言えば、政治家もマスコミもあまり具体的に指摘してこなかった問題があった。それは内陸からロッキー山脈を避けて何も我が国向けだけではなく輸出をする為には、製品を東海岸のニューヨーク港や南部のジョージア州のサヴァナ港まで貨車やトラック輸送をせねばならないという問題があった。また、より西海岸に近い州からは貨車輸送で長い時間をかけて南部のガルフの港に運ぶか、カリフォルニア州の港まで輸送せねばならなかった。これ即ちコスト面での不利となる。

「それならばそうすれば良いではないか」という議論が出てくるだろう。だが、事はそう簡単にはいかないのだ。それは、輸出をする為には製品を積み込むコンテイナー(私はカタカナ語の英語を不正確に読んだ「コンテナ」は採らない)が必要になる。例えば、クリントン元大統領のアーカンソー州からの輸出を考えてみよう。そこまで西海岸の港などから何か他国からの輸入品があって大量の箱が入ってくれば良いのだが、そうは話が旨く進むことは希で、大量の空の箱に運賃をかけて運び込まねばならなくなってしまうのだ。

これは非常に不経済な輸送手段だが、それ以外に方法がなく国際市場におけるコスト競争力を失う事態となる。言葉を換えれば、あまり合理的な対策とは言えないのだ。しかも、貨車輸送に要する日数も納期に大きな悪影響を及ぼし、しかも内陸輸送の分だけコストも増えてますます競争力を削ぐ結果となる。食料品などにとっては長期間コンテイナーの中に閉じ込めておくのは得策ではないのは当然だ。
我が国の需要家や最終消費者の神経の過敏なことは、経験してみなければ知り得ない難しさがある。粗雑な感覚での対応は許されないのだ。それを知らずして、ただ単に「買え」と喚くのは筋が通らない。

ここまでに掲げた通りというか、非経済的な条件を知る東部の産業界が、対日輸出に積極的に取り組んでいなかったのだったらどうする。ここに対日輸出不振の一つの原因があると言える。現に、私の得た印象では東海岸の産業界の顔は大西洋を隔てた欧州に向かっていた。しかも、そちらに指向する方が色々な意味で合理的ではないのか。

アメリカの輸出が不振だった理由の一つである「自国の規格と製造基準を押しつけること」等々をここに今更論う必要はあるまい。私が指摘したかったことは「アメリカの対日輸出不振の原因と言うべきか、それ阻む目に見えない輸送問題もあること」をトランプ大統領以下の政府要人が何処まで意識か認識出来ているのかが問題だという点だ。よりハッキリ言えば、東海岸からパナマ運河を越えて航海日数を増やすか、あるいはロッキー山脈のようなどうにもならない自然の条件をどうやって克服して輸出するかであって、自動車のように自国の至らざる為に入超となっていることを非難するのは如何なものかということだ。

トランプ大統領はその通りのことを安倍総理に告げて「こういう条件を背負っている同盟国アメリカに協力して輸入を増やし、7兆円の赤字削減に協力と努力願いたい」と申し出られるの deal を穏やか且つなめらかに進める一つの手段ではないのかなと考えている。

私はそれほど間違ったことを言っているとは思っていないのだが?因みに、私はトランプ大統領が母液赤字削減を強調されるのはごく普通のことだと思っている。問題はその手法にあると見ているが。