♦️737『自然と人間の歴史・世界篇』世界で進む経済格差の拡大

2017-09-04 08:23:54 | Weblog

837『自然と人間の歴史・世界篇』世界で進む経済格差の拡大

 2014年に発刊されたトマ・ピケティの『21世紀の資本』により、経済格差の拡大を示す、この数百年の歴史的データ(推計)が明らかにされた。まずは、結論部分から述べよう。そこで、データからいえる「資本主義の基本法則」とは何であるか、つぎの二つがあるという。
(1)第一法則としては、次のとおり。
α(資本分配率)=r(資本収益率)×β(資本所得比率)
 ここでα(アルファ)は資本収益(資産ストックから得られる利益)の国民所得に対する比率であって、通常これは「利潤シェア」ないし「資本分配率」と呼ばれるものに近い。しかし、ピケティのいう資本(資産ー負債)とは、「企業や政府機関の使う、各種の不動産や、金融資産、専門資産(工場、インフラ、機械、特許など)を指す」ものの合計額から、当該主体の負債を差し引いたもので積算した。これは、経済学の通常の資産、資本の概念と異なる。ついては、資本をそうした幅広の概念としてデータ処理するが故に、この資本収益としては、そうした資本から得られる様々な利得や家賃収入なども含め集計することになっていることに、留意しておこう。
 一方、r(ガンマ)は資本収益の資本ストックに対する割合をいう。β(ベータ)は資本ストックの国民所得に対する割合をいう。
 この法則によって、β(資本所得比率)が一定の場合、r(資本収益率)が上昇するとα(資本分配率)が上昇する反面、労働分配率(労働所得の割合)が低下するという資産家優位の構造を統計的に明らかにした。
(2)第二法則としては、次のとおり。
β(資本所得比率)=s(貯蓄率)/g(経済成長率)
 ここでg(ジー)は経済成長率をいう。s(エス)は貯蓄率)をいう。
 この法則により、g(経済成長率)が低下し、s(貯蓄率)が増大するにつれ、β(資本所得比率)が上昇する、その分資産家優位の構図を統計的に明らかにした。
 第二には、経済格差拡大の要因は何かを考える。
 次に、以上で得られた2法則を前提に、ピケティは不平等をもたらす根本的な要因を、r(資本収益率)>g(経済成長率)にあると捉えた。r(資本収益率)がg(経済成長率)より高ければ、資産保有者は資産からの所得を投資に回すだけで経済成長率を上回る所得を手にすることができる、というわけだ。
 そこで、ピケティがこれら二つの法則を導くにいたった諸国別のデータの分析結果の中から、その結論部分のみを紹介してみたい。提供のあったのは、主として税務データであって、これに様々な統計なり、諸家による研究なりが付加された。その一つは、ヨーロッパでみられる「世襲中流階級」の出現であって、フランスの分析に続いてこういう。
 「入手可能な他のヨーロッパ諸国のデータを見ると、これは一般的現象だ。イギリスでのトップ十分位シェアは第一次世界大戦直前に90パーセント以上あったものが、1970年代には60~65パーセントにまで減少し、現在は70パーセントだ。トップ百分位のシェアは20世紀中のショックにより崩壊し、1910~1920年には70パーセント近くあったものが、1970~1980年にはかろうじて20パーセントを超える程度にまで激減し、現在は25~30パーセントにまでほとんど持ち直している。スウェーデンでは、資本所有の集中は常にイギリスよりも低いが、全体的な奇跡はかなり似ている。いづれのケースでも、最も止める10バーセントが失ったものの大部分を「世襲中流階級」(富の中間40パーセントと定義されている)が得ていて、人口の最も貧しい半数には渡っていない。
 (中略)大きな構造的変化は、人口のほぼ反芻を湿る中流階級の出現であり、それは何とか自分の資本を獲得できた個人によって構成されているーーその結果、かれらは集団として国府の4分の1から3分の1を占めるにいたった。」(『21世紀の資本』第Ⅲ部第10章)
 こうしたヨーロッパの状況推移に対して、アメリカでのそれはこういわれる。
 「米国での富の格差は、所得の格差同様に、1910年から1950年の間に低下したが、ヨーロッパほどではなかった。これはもちろんもともと格差が小さく、戦争によるショックもそれほど激しくなかったためだ。2010年までには、国富におけるトップ十分位のシェアは70パーセントを超え、トップ百分位のシェアは35パーセント近くになった。(中略)
 ヨーロッパと米国の経験のちがいは明白だ。(中略)米国での認識はまるでちがう。ある意味で、(白人)世襲中流階級は19世紀にすでに存在していた。この階級は金ぴか時代に事態の逆転に苦しんだが、20世紀半ばには再び反映を回復し、1980年以降もう一度逆転に苦しめられた。(以下、略)」

(続く)

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