【掲載日:平成21年9月8日】
帰りける 人来れりと 言ひしかば
ほとほと死にき 君かと思ひて
【越前市 味真野苑 犬養孝揮毫「塵泥の」歌碑】

都に 噂が流れていた 大赦の勅が 出るらしいという
天平十二年〔740〕春
勅は 六月頃か
心騒ぐ 娘子
果たして 宅守の名は・・・
味真野に 宿れる君が 帰り来む 時の迎へを 何時とか待たむ
《味真野で 暮らすあんたが 戻る言う 知らせ来るのん 何時になるんや》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七七〇〕
家人の 安寝も寝ずて 今日今日と 待つらむものを 見えぬ君かも
《眠れんと 今か今かと 帰るんを 待って居るのに あんた来えへん》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七七一〕
宅守の配流先
役所勤めの 元上司から 密かな伝えが届く
《わしの計らい 尽力
大赦の勅への尊名登載 違いなし》
〔なんと あやつが
わしに罪を被せ
今の憂き目を負わせし あやつ・・・
そうか そうか
あの方も 心を痛めておられたか〕
帰りける 人来れりと 言ひしかば ほとほと死にき 君かと思ひて
《赦されて 帰る人来る 聞いた時 心臓止まった あんたや思て》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七七二〕
大赦の勅への 期待は 糠喜びであった
〔それにしても あやつ
名簿削除の 画策までしおったか・・・〕
さす竹の 大宮人は 今もかも 人なぶりのみ 好みたるらむ
《役人は 奈良の都で 懲りもせず 今もやっぱり 人嬲るんか》
―中臣宅守―〔巻十五・三七五八〕
〔うかうかと 信じた わしが お人好か〕
世間の 常の道理 かくさまに なり来にけらし 据ゑし種子から
《世の中は こんなもんかい しょうないか 元々言たら わしアホなんや》
―中臣宅守―〔巻十五・三七六一〕
〔気を許した分 辛さ一入・・・〕
旅といへば 言にそ易き すべもなく 苦しき旅も 殊に益さめやも
《配流言たら 辛いもんやが 苦し配流 言い直しても 辛さ一緒や》
―中臣宅守―〔巻十五・三七六三〕
気落ちを 思いやり 必死の励ましが届く
わが背子が 帰り来まきむ 時のため 命残さむ 忘れたまふな
《知っといて あんたの帰る その日まで うち長らえて 生きてくさかい》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七七四〕

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