【掲載日:平成21年9月9日】
今日もかも 都なりせば 見まく欲り
西の御厩の 外に立てらまし
【越前市 味真野苑 犬養孝揮毫「塵泥の」歌碑】

大赦に漏れた 宅守
ここ越前 味真野の暮らしも
身に沿ったものになっていた
娘子との 別れての暮らし
何時しか 諦観の境地
あらたまの 年の緒長く 逢はざれど 異しき心を 吾が思はなくに
《長いこと 逢うてへんけど わしの気は 変わってへんで 間違いなしに》
―中臣宅守―〔巻十五・三七七五〕
在りし日への 思い
悔しくも 懐かしくもある 思い出
今日もかも 都なりせば 見まく欲り 西の御厩の 外に立てらまし
《もしも今 都居ったら お前待ち 西の厩舎の 外でおるのに》
―中臣宅守―〔巻十五・三七七六〕
配所での 安気な風に身を置く 宅守
不覚にも 思いが至らなかった
人を傷つけつつ 素知らぬ顔 横行の都
娘子の 心労は積もっていった
孤閨を守り
宅守を 励まし
大赦の噂に 振り回され
気丈と 言われし故の 心の裏表
漏れる 泣きごと
娘子の 精神は もう 耐えられなくなっていた
昨日今日 君に逢はずて する術の たどきを知らに 哭のみしそ泣く
《逢いとうて 堪らんけども ども出来ん 昨日も今日も 泣き暮らしてる》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七七七〕
〔身代わりにと 贈った形見
本当に 形見のなってしまうかも・・・〕
白妙の 吾が衣手を 取り持ちて 斎へわが背子 直に逢ふまでに
《うちの服 しっかり持って 祈ってや あんたと直に 逢う日来るまで》
―狭野弟上娘子―〔巻十五・三七七八〕
人知れず 黄泉の迎えの 娘子
宅守への 知らせは 遅れる

<あぢま野>へ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます