古今相聞往来（下）編（49）飽（あ）き足（だ）らねこそ

【掲載日：平成26年3月11日】

草枕　旅行く君を　荒津あらつまで　送りぞ来きぬる　飽あき足だらねこそ



旅題材の　問答歌うたは
旅先恋を　詠うたった歌か
舟出ふなで遅らせ　焦こがれてみても
所詮しょせん旅恋　別れが運命さだめ

【　問答】
豊国とよくにの　企救きくの長浜ながはま　行き暮らし　日の暮れゆけば　妹をしぞ思ふ
《企救きくの浜　日がな一日いちにち　歩き来きて　日ィ暮れてくと　あの児が恋し》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一九）
豊国とよくにの　企救きくの高浜たかはま　高々たかたかに　君待つ夜よらは　さ夜更よふけにけり
《まだ来こんか　もう来くるかなと　背伸びして　あんた待つ夜よる　更ふけて仕舞しもたで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二二〇）
【　問答】
十月かむなづき　時雨しぐれの雨に　濡れつつか　君が行くらむ　宿やどか借るらむ
《十月じゅうがつの　時雨しぐれ降ってる　あんたさん　濡れて行くんか　宿借かりとんか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一三）
十月かむなづき　雨間あままも置かず　降りにせば　いづれの里の　宿か借らまし
《十月じゅうがつの　晴れ間もなしに　降る雨に　どこの里さと宿やど　借かりたら良えんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一四）
【　問答】
玉の緒をの　現うつし心ごころや　八十やそ楫か懸かけ　漕こぎ出でむ船に　後おくれて居をらむ
《一生懸命いっしょけめ　楫かじ多数よけ並べ　沖向むけて　漕ぎ出だす舟に　遅れてなるか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一一）
八十やそ楫か懸かけ　島しま隠がくりなば　我妹子わぎもこが　留とまれと振らむ　袖見えじかも
《漕ぐ舟が　島隠かくれたら　お前振る　留とまれ云ゆう袖　見えん様よなるで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一二）
【　問答】
白栲しろたへの　袖そでの別れを　難かたみして　荒津あらつの浜に　宿りするかも
《どうしても　別れ出来んで　荒津あらつ浜はま　舟出ふなで遅らし　宿取ったんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一五）
草枕　旅行く君を　荒津あらつまで　送りぞ来きぬる　飽あき足だらねこそ
《旅に行く　あんた送って　荒津あらつまで　来て仕舞しもたんや　名残なごりが惜おして》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一六）
【　問答】
荒津あらつの海　我れ幣ぬさ奉まつり　斎いはひてむ　早はや帰りませ　面変おもがはりせず
《荒津あらつ海うみ　幣ぬさを祀まつって　祈り仕様しょう　早よ帰ってや　旅たび痩やせせんと》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一七）
朝あさな朝さな　筑紫つくしの方かたを　出いで見つつ　哭ねのみぞ我あが泣く　甚いたも術すべなみ
《毎朝に　遙はるか筑紫つくしを　望のぞみ見て　どう仕様しょも無のうて　泣くのんやろな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二一八）