【掲載日:平成22年7月16日】
忘れ草 わが下紐に 着けたれど
醜の醜草 言にしありけり
〈可哀想をしたが いまが千載一隅やも知れぬ
この時期
いかな家持 他への妻問いもなかろう
早速に 呼び出さねば〉
坂上郎女の 勘気に触れ
出入り差し止めとなっていた 竹田の庄
大嬢との逢瀬は 途絶えていた
家持とて 大嬢を厭うていた訳ではない
妾との同棲
多くの女との 恋の遍歴
若気の至りと云えば それまでであるが
家持なりの 人成り道ではあった
坂上郎女からの 誘い
心躍る 家持
足は 自ずと軽くなる
玉桙の 道は遠けど はしきやし 妹を相見に 出でてぞ吾が来し
《遠い道 苦にもせんとに 愛おしい 叔母に逢いに 出かけて来たで》
―大伴家持―〈巻八・一六一九〉
あらたまの 月立つまでに 来まさねば 夢にし見つつ 思ひそ吾がせし
《ひと月が 経ってもあんた 来んよって 夢にまで見て 待ってたんやで》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一六二〇〉
大嬢との 交情復活
大嬢は 喜びを 稲穂の蘰に託す
わが業れる 早稲田の穂立ち 造りたる 蘰そ見つつ 思はせわが背
《家の田の 早稲穂で編んだ 鬘です 見る度うちを 思い出してや》
―大伴坂上大嬢―〈巻八・一六二四〉
吾妹子が 業と造れる 秋の田の 早穂の蘰 見れど飽かぬかも
《お前ちゃん 作ってくれた 秋の田の 早稲穂の鬘 見飽きんこっちゃ》
―大伴家持―〈巻八・一六二五〉
秋風の 寒きこの頃 下に着む 妹が形見と かつも思はむ
《秋の風 寒いよってに 貰た下衣 あんたや思て 着てみよ思う》
―大伴家持―〈巻八・一六二六〉
止む無く裂かれた仲
家持は その間の苦渋と 二人しての喜びを詠う
忘れ草 わが下紐に 着けたれど 醜の醜草 言にしありけり
《恋心 消す云う草を 着けたけど 名前倒れや このアホ草は》
―大伴家持―〈巻四・七二七〉
人も無き 国もあらぬか 吾妹子と 携ひ行きて 副ひてをらむ
《人誰も 居らへん国が 在ったら良 お前連れ立ち 一緒行こかな》
―大伴家持―〈巻四・七二八〉
初めての 歌交わしから
六年が 経っていた
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