【掲載日:平成22年1月14日】
大夫の 手結が浦に 海未通女
塩焼くけぶり 草枕 旅にしあれば・・・
【「たゆひが浦」田結崎付近】
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石上乙磨一行の 後追い旅
笠金村は 越前へ向かう 近江 伊香山
草枕 旅行く人も 行き触れば にほひぬべくも 咲ける萩かも
《萩の花 色の着くほど 咲いとおる 旅で行く人 ちょっと触れても》
伊香山 野辺に咲きたる 萩見れば 君が家なる 尾花し思ほゆ
《咲く萩を 伊香の山で 見かけたら あんたの家の 尾花が浮かぶ》
〔乙麿さまの屋敷の尾花・・・〕
―笠金村―〔巻八・一五三二、一五三三〕
金村の足 越前との国境
塩津深坂越えの道を辿っていた
大夫の 弓上振り起し 射つる矢を 後見む人は 語り継ぐがね
《このわしが 弓引き絞り 射た矢見て 言い継ぎ行けよ 後に見る人》
〔高木に矢を射旅の安全祈る〕
塩津山 うち越え行けば 我が乗れる 馬そ爪づく 家恋ふらしも
《わしの馬 塩津越えてて 躓いた 家で心配 してるできっと》
―笠金村―〔巻三・三六四、三六五〕
愛発山を越え 角鹿 そこからは 船が待つ 向かうは 手結の浜
越の海の 角鹿の浜ゆ 大船に 真梶貫きおろし いさなとり 海路に出でて
あへきつつ わが漕ぎ行けば
《越国の 角鹿浜から 大船に 梶をいっぱい 取りつけて 苦労しながら 漕いでくと》
大夫の 手結が浦に 海未通女 塩焼くけぶり 草枕 旅にしあれば 独りして 見る験無み
海神の 手に巻かしたる 玉襷 懸けて偲ひつ 日本島根を
《手結の浦で 海人の児が 塩を焼いてる 煙立つ 面白いなと 思うけど 独りで見ても 甲斐がない
心に懸けて 思うのは 大和の家の ことばかり》
越の海の 手結が浦を 旅にして 見ればともしみ 日本思ひつ
《越の海 手結の浦を 旅したら 珍しけども 大和が恋し》
―笠金村―〔巻三・三六六、三六七〕
都での騒動 長屋王謀反との顛末で幕
なにやら 曰くありげな 結末であった
諸国巡察の船上 静かに語らう 主従
「変の帰趨は われらの感知せざるところ 与えられしお役目 滞りなしの遂行が 第一じゃ」
大船に 真梶繁貫き 大君の 命かしこみ 磯廻するかも
《大船に 梶をいっぱい 取りつけて 任務大事と 磯巡視する》
―石上大夫―〔巻三・三六八〕
「まさに おっしゃる通り 乙磨殿の 行かれる道 私めも ついて参ります」
もののふの 臣の壮士は 大君の 任のまにまに 聞くといふもの
《朝廷に 仕える男子 言いつかる 任務一途に 仕えるべきや》
―笠金村歌中―〔巻三・三六九〕
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