【掲載日:平成21年12月22日】
三香の原 旅の宿りに 玉桙の 道の行き合ひに
天雲の 外のみ見つつ・・・
風はまだ寒いが 心浮き立つ 春三月
お伴の 官人たちの声も 華やいでいる
神亀二年〔725〕三香原への行幸だ
水清く 山青い 三香原
都の佇まいを整えし 平城の京
ここ 三香原は なにか 心安らぐ離宮であった
「金村殿 久方ぶりの 和みの行幸ではないか
都ずれしない 純な娘子の 歓待が 待っていて欲しいものじゃが」
同行の 車持千年が 馬上から 声を掛ける
「そう 願いたいものじゃのう
よしよし 願いを込めて 一首 詠うてみるか」
三香の原 旅の宿りに 玉桙の 道の行き合ひに 天雲の 外のみ見つつ
言問はむ 縁の無ければ 情のみ 咽せつつあるに
《三香の旅 道で出逢うた 可愛らし娘 気にはなるけど
声かけの 切っ掛け無うて 胸詰まり 苦し思いで いたけども》
天地の 神祇こと寄せて 敷拷の 衣手易へて 自妻と
たのめる今夜 秋の夜の 百夜の長さ ありこせぬかも
《なんたる神の 引き合わせ 思いもかけず 話でき 一緒泊まれる この夜は
〔春の短い 夜やけど〕 秋の夜長の 百倍の 夜の長さに 成って欲し》
―笠金村―〔巻四・五四六〕
天雲の 外に見しより 吾妹子に 心も身さへ 寄りにしものを
《一目見て 惚れて仕舞うた あの娘 身ィも心も 取られてしもた》
―笠金村―〔巻四・五四七〕
今夜の 早く明くれば すべを無み 秋の百夜を 願ひつるかも
《この夜は 早よに明けたら あかんがな 秋の長夜の 百倍欲しい》
―笠金村―〔巻四・五四八〕
「これは これは
いい娘子に 逢える気がしてきた」
「もし 出逢うたら 籤引にいたそう」
駒を並べる ふたり
背を 春の日が 暖かに包む
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