【掲載日:平成23年4月12日】
・・・真澄鏡 直目に見ねば 下ひ山 下行く水の 上に出でず・・・
〔今度は 相聞か
田辺福麻呂殿も 人の子
相手は どんな女児であろう
おお 名前は 白玉と申すか
いやいや 白玉の如き 可愛げな名か〕
白玉の 人のその名を なかなかに 言を下延へ 逢はぬ日の 数多く過ぐれば
恋ふる日の 重なりゆけば 思ひ遣る たどきを知らに 肝向ふ 心砕けて
《真珠玉 大事に思う 児の名前 心に秘めて 口せんと 逢わん日長う 経って仕舞た
焦がれる日ィが 重なって 気分を晴らす 術も無て 心は萎えて 凋んでる》
玉襷 懸けぬ時なく 口息まず 我が恋ふる児を
玉釧 手に取り持ちて 真澄鏡 直目に見ねば
下ひ山 下行く水の 上に出でず 我が思ふ心 安きそらかも
《ずっと気に懸け 思うてて 名前呼ぶんも 胸の中
わしの可愛児 手に取って 直に見ること 出けんので
山の木の下 潜る水 表に出せん この気持ち 安らぎせんで 鬱々してる》
―田辺福麻呂歌集―〔巻九・一七九二〕
垣ほなす 人の横言 繁みかも 逢はぬ日数多く 月の経ぬらむ
《周り皆 噂五月蝿う 言うもんで 逢えん日続き もう一月や》
―田辺福麻呂歌集―〔巻九・一七九三〕
たち変り 月重なりて 逢はねども さね忘らえず 面影にして
《月変わり もう何月も 逢わんけど 顔ちらついて 忘れられんで》
―田辺福麻呂歌集―〔巻九・一七九四〕
微笑ましく読む 家待の胸に 大嬢が浮かぶ
〔そう云えば 大嬢め
『越は 海辺の国 さぞかし 美しい白玉が 沢山に』と 申しておった
早速に 手に入れ 送ってやるとするか〕
〔ん? 父と云い 書持と云い
今度は 大嬢?
まさか
田辺福麻呂殿の 思惑?
まさか まさか・・・〕