【掲載日:平成22年4月27日】
恋ひ恋ひて 逢ひたるものを 月しあれば
夜は隠るらむ しましはあり待て
坂上郎女 稲公 駿河麻呂
郎女の従弟 安倍虫麻呂
居並び 平伏
一同を睨め付ける 亡安麻呂正妻 石川内命婦
佐保大納言家を取り仕切る大刀自
「そなたら 先頃の 神祭り 何という様じゃ
神祭りといえば
天孫降臨をお導きした 家の祖 天忍日命を祀る神事
事もあろうに その席で 拝礼装束での 相聞詠み 如何なる所存じゃ 郎女
その他の者も 同罪じゃ」
「今より 外部男女相聞は法度
歌修練は 一族身内相聞のみとする」
~大伴稲公の田村大嬢への相聞〈郎女代作〉~
相見ずは 恋ひずあらましを 妹を見て もとなかくのみ 恋ひばいかにせむ
《せえへんで 逢わんかったら こんな恋 逢うたこの胸 どう仕様もない》
―大伴坂上郎女―〈巻四・五八六〉
~大伴駿河麻呂と坂上郎女との相聞~
大夫の 思ひ侘びつつ 度まねく 嘆く嘆きを 負はぬものかも
《侘しゅうに 男嘆くか 何べんも 女のあんた どうなんやろか》
―大伴駿河麻呂―〈巻四・六四六〉
心には 忘るる日なく 思へども 人の言こそ 繁き君にあれ
《いついつも 心に掛る あんたはん 他人うるそうて 逢われへんがな》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六四七〉
相見ずて 日長くなりぬ この頃は いかに幸くや いふかし吾妹
《この頃は 長う逢わんと 居るけども あんたどしてる ちょっと気になる》
―大伴駿河麻呂―〈巻四・六四八〉
夏葛の 絶えぬ使の よどめれば 事しもあるごと 思ひつるかも
《絶えず来た 使いこのごろ 来えへんな あんたに何か あったん違うか》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六四九〉
~安倍虫麻呂と坂上郎女との相聞~
向ひ居て 見れども飽かぬ 吾妹子に 立ち別れ行かむ たづき知らずも
《一緒居て 見飽きん お前別れるて そんな方法 思い着かんで》
―安倍虫麿―〈巻四・六六五〉
相見ぬは 幾久さにも あらなくに ここだく我れは 恋ひつつもあるか
《この間 逢うたとこやに なんでまた 逢いたなるんや 恋しなるんや》
恋ひ恋ひて 逢ひたるものを 月しあれば 夜は隠るらむ しましはあり待て
《久し振り 逢うたんやから ゆっくりし 夜明けまだやし 道暗いから》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六六六~七〉
一族内の身内相聞
恋心の 昂りは無いが ほのぼのと 心は通う