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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

坂上郎女編(15)むささびそこれ

2010年04月02日 | 坂上郎女編
【掲載日:平成22年5月11日】

大夫ますらをの 高円山たかまとやまに めたれば
           里にる むざさびそこれ



宮中の見知りの女官から  便りが届く
《光明皇后お付きの女官  
 賀茂神社かものやしろ 四月第二のとり祭礼におもむく手筈
 よしみつなぎの好機とするは如何いかが
ねての手配が 功を奏す

お付き女官は 郎女かつて参内さんだい懇意こんい
渾身こんしんの作を ことづける
橘を 屋前やどおほし 立ちてゐて のちゆとも しるしあらめやも
《高級な 橘庭に 植えたんで 上手じょうず育てな 悔いが残るで》 
吾妹子わぎもこが 屋前やどの橘 いと近く ゑてしからに 成らずはまじ
貴女あんたはん 植えた橘 うち身近 きっと一緒に 実のらせましょや》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻三・四一〇~一〉 
昨天平八年〈736〉十一月  
臣籍降下を許され 橘宿禰すくねの氏姓称し 
橘諸兄たちばなのもろえとなった 葛城王への 献歌である

宿願を終え 郎女の足は 近江を目指す
近江  
かの壬申の乱で  敗れた近江朝旧都
この乱で 逼塞ひっそく大伴家が 息を吹き返した
吹負ふけい 馬来田まくた 御行みゆき 安麻呂の活躍である
今またも  衰運漂う 大伴家
これの  立て直しに力をと
乱ゆかりの湖水に  盛運を祈願すべく 
手向たむけの山の峠を越える
木綿畳ゆふたたみ 手向たむけの山を 今日けふ越えて いづれの野辺のへに いほりせむ我れ
木綿布ゆうぬのを 畳み手向ける 手向け山 越えて泊まりは どこの野辺やろ》 
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・一〇一七〉 

余勢をっての 策は続く
昔の 首皇子おびとのみことのえにしを頼りに 
聖武帝へと里苞さとづとに思いを託す
あしひきの 山にしをれば 風流みやびなみ 我がするわざを とがめたまふな
《山里で 無粋ぶすいな暮らし してるんで つまらんもんで 御免なさいね》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・七二一〉 
にほ鳥の かづ池水いけみづ こころあらば 君に我が恋ふる こころ示さね
《にほ鳥の もぐる水さん 知ってたら うちの気持ちを 天皇きみに伝えて》
よそに居て 恋ひつつあらずは 君がいへの 池に住むといふ 鴨にあらましを
《宮中の 外で恋しと 思うより 天皇きみ住む池の 鴨なりたいな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・七二五~六〉 

やがてのこと  
郎女に 高円たかまどの野の遊猟みかりの誘いが届く
大夫ますらをの 高円山たかまとやまに めたれば 里にる むざさびそこれ
狩勇士ますらおが 高円山で 追うたので 里逃げりた むささびやこれ》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・一〇二八〉 
郎女の快哉かいさい 歌ににじみ出る