ICTタスクフォースからの指示もあってNTT東西がPSTNのマイグレーションスケジュールを発表した。PSTNとは、要は「公衆電話網」のこと。企業などで使われる「専用線」や「IP-VPN」、インターネット接続で利用される「フレッツ網」とは異なり、利用したい時に「回線交換方式」によって接続するネットワークだ。
現在使われているPSTNというとアナログ電話とISDNが代表的。携帯電話やIP電話に押されているとはいえ、未だに3,750万回線が利用されている。
ICTタスクフォースが何故、このマイグレーションを問題としたかというと、1つにはこれらの多くが「メタル回線」を通じて提供されていること。「光の道」を提唱したタスクフォースからすると、これらをどう「光」に置き換えていくかということは重要なテーマだ。
もう1つはこのPSTNは設備的にいずれ寿命が来ることが分かっているからだ。そうなれば否が応でも新しいネットワーク―IPをベースとしたネットワークへの置き換えが必要であり、それが「いつ」になるのか、あるいは本当にそれができるのかは、「光の道」の進め方にも大きな影響を与えるからだ。
NTT東西がPSTNマイグレーションに関する概括的展望を発表、ISDNは終了へ - ニュース:ITpro
NTT東西、2025年メドに固定電話網のIP化完了へ、INSネットは廃止 - ニュース:ITpro
発表された内容からいくつかポイントをピックアップすると、
・光ブロードバンドの世帯カバー率:90%(韓国の67%、アメリカは13%)
・光ブロードバンドの世帯普及率:38%(韓国は44%、アメリカは3%)
カバー率というのは、申込があれば「光」が提供される率、普及率というのは実際に「光」を使っている率と考えればいいだろう。つまり韓国では2/3の世帯しか「光」を利用できないが、そのエリアの66%の人が実際に使っているのに対し、日本では9割の世帯が利用できるにも関わらず、実際には4割未満の世帯しか利用していない。「光」を利用したいと思っていないのだ。
この問題に対し、孫正義は「アナログ電話を全廃して、「光」経由でしか電話を提供しなければ、「光」の普及率は上がる」と提案している。つまりインターネットに興味がない人たちも家庭に「電話」は引いているわけで、その「電話」を「光」専用のアプリケーションにしてしまえばいい、というのだ。
この考えに従い、アナログ電話を「強制的」に「光」に乗り換えさせるならば、「光」普及率は「光」カバー率に限りなく近づくだろう。日本の世帯の9割が「光」を利用することになる。
これを前提に「光の道」を実現するためには、以下のような国策が必要だろう。
1)残り10%エリアへのインフラ投資
2)メタル廃止→光新設にともなう工事費への補助金の提供
そしてなによりも
3)強制的にメタルを廃止するための法整備
1)については、これまでも総務省の地域イントラネット基盤整備事業などを通じて光ファイバー網の整備を実施してきたし、2)についてはエコカー減税・補助金のような施策や地デジ化推進のための「エコポイント」のような施策があったわけで、現実味が無いわけではない。
しかし問題は何よりも3)の取り扱いだろう。
これには2つの点で整理しなければいけない問題がある。1つは「私有財産」との絡み。もともと加入電話やISDNには「設置負担金」が必要だった。これは一般には「電話加入権」として理解されており、税法上も「無形固定資産」という扱いになっている(NTT側の解釈は違う)。
しかし「フレッツ光ネクスト」にしろ「ひかり電話」にしろ、これらには「加入権」に該当する概念がない。仮に「加入電話」から「ひかり電話」に乗り換えるのだとすると、技術的には大したことはないが、制度的には「財産」の一部を国策として没収することになる。これは私有財産の侵害だと言われても仕方がない。
もう1つは、メタル回線でしか提供していない対応していないものが存在するということ。
アナログ回線を使っているのは何もアナログ電話だけではない。企業のバックアップ回線としてISDNを利用しているところも多いだろうし、セキュリティ関連や遠隔検針、交通信号機などでもアナログ回線は利用されている。これらも「強制的」に切り替える必要に迫られる。
もちろんデータコネクトなど代替サービスに切り替えられるものもあるだろうが、これらの中には単にI/Fを変換すればいいというだけではすまないものもある。
アナログ電話であればNTTの交換局からの給電だけで利用できることから、災害対策用として利用しているところも多い。また屋外のセンサーや機器との通信線として使われている場合、アナログ線であれば不用なメディアコンバーターの電源対策や防水・防塵対策が必要となったり、通信速度の調整が必要になったりなど、特殊な用途だけにその対策が必要となる。
その負担も決して少なくない。
またADSLユーザーも「強制的」に光への乗り換えが求められる(当然、Y!BBユーザーも光に乗り換えてもらう)。その結果、現状よりも通信費用がかかることもありえるだろう。
とはいえ、今回のPSTNマイグレーションというのは、あくまで「コアネットワーク」を「PSTN(交換機網)」から「IP網」に切り替えるというものだ。つまりアクセス回線の話ではない。
極論すれば、現在Y!BBユーザーがADSLモデム上でIP電話を利用しているように、メタル回線を残したままIP電話やIPサービスを提供していくという手もあるのだ。
果して「光100%」という理念のために、経済合理性を無視してまで推し進めるべきなのか。今回の発表は「光の道」の課題をあらためて浮き彫りにしたというところなのだろう。
「光の道」構想・「アクセス網分離会社」の4つの論点 - ビールを飲みながら考えてみた…
目的地にたどり着かない「光の道」 - ビールを飲みながら考えてみた…
現在使われているPSTNというとアナログ電話とISDNが代表的。携帯電話やIP電話に押されているとはいえ、未だに3,750万回線が利用されている。
ICTタスクフォースが何故、このマイグレーションを問題としたかというと、1つにはこれらの多くが「メタル回線」を通じて提供されていること。「光の道」を提唱したタスクフォースからすると、これらをどう「光」に置き換えていくかということは重要なテーマだ。
もう1つはこのPSTNは設備的にいずれ寿命が来ることが分かっているからだ。そうなれば否が応でも新しいネットワーク―IPをベースとしたネットワークへの置き換えが必要であり、それが「いつ」になるのか、あるいは本当にそれができるのかは、「光の道」の進め方にも大きな影響を与えるからだ。
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発表された内容からいくつかポイントをピックアップすると、
・光ブロードバンドの世帯カバー率:90%(韓国の67%、アメリカは13%)
・光ブロードバンドの世帯普及率:38%(韓国は44%、アメリカは3%)
カバー率というのは、申込があれば「光」が提供される率、普及率というのは実際に「光」を使っている率と考えればいいだろう。つまり韓国では2/3の世帯しか「光」を利用できないが、そのエリアの66%の人が実際に使っているのに対し、日本では9割の世帯が利用できるにも関わらず、実際には4割未満の世帯しか利用していない。「光」を利用したいと思っていないのだ。
この問題に対し、孫正義は「アナログ電話を全廃して、「光」経由でしか電話を提供しなければ、「光」の普及率は上がる」と提案している。つまりインターネットに興味がない人たちも家庭に「電話」は引いているわけで、その「電話」を「光」専用のアプリケーションにしてしまえばいい、というのだ。
この考えに従い、アナログ電話を「強制的」に「光」に乗り換えさせるならば、「光」普及率は「光」カバー率に限りなく近づくだろう。日本の世帯の9割が「光」を利用することになる。
これを前提に「光の道」を実現するためには、以下のような国策が必要だろう。
1)残り10%エリアへのインフラ投資
2)メタル廃止→光新設にともなう工事費への補助金の提供
そしてなによりも
3)強制的にメタルを廃止するための法整備
1)については、これまでも総務省の地域イントラネット基盤整備事業などを通じて光ファイバー網の整備を実施してきたし、2)についてはエコカー減税・補助金のような施策や地デジ化推進のための「エコポイント」のような施策があったわけで、現実味が無いわけではない。
しかし問題は何よりも3)の取り扱いだろう。
これには2つの点で整理しなければいけない問題がある。1つは「私有財産」との絡み。もともと加入電話やISDNには「設置負担金」が必要だった。これは一般には「電話加入権」として理解されており、税法上も「無形固定資産」という扱いになっている(NTT側の解釈は違う)。
しかし「フレッツ光ネクスト」にしろ「ひかり電話」にしろ、これらには「加入権」に該当する概念がない。仮に「加入電話」から「ひかり電話」に乗り換えるのだとすると、技術的には大したことはないが、制度的には「財産」の一部を国策として没収することになる。これは私有財産の侵害だと言われても仕方がない。
もう1つは、メタル回線でしか提供していない対応していないものが存在するということ。
アナログ回線を使っているのは何もアナログ電話だけではない。企業のバックアップ回線としてISDNを利用しているところも多いだろうし、セキュリティ関連や遠隔検針、交通信号機などでもアナログ回線は利用されている。これらも「強制的」に切り替える必要に迫られる。
もちろんデータコネクトなど代替サービスに切り替えられるものもあるだろうが、これらの中には単にI/Fを変換すればいいというだけではすまないものもある。
アナログ電話であればNTTの交換局からの給電だけで利用できることから、災害対策用として利用しているところも多い。また屋外のセンサーや機器との通信線として使われている場合、アナログ線であれば不用なメディアコンバーターの電源対策や防水・防塵対策が必要となったり、通信速度の調整が必要になったりなど、特殊な用途だけにその対策が必要となる。
その負担も決して少なくない。
またADSLユーザーも「強制的」に光への乗り換えが求められる(当然、Y!BBユーザーも光に乗り換えてもらう)。その結果、現状よりも通信費用がかかることもありえるだろう。
とはいえ、今回のPSTNマイグレーションというのは、あくまで「コアネットワーク」を「PSTN(交換機網)」から「IP網」に切り替えるというものだ。つまりアクセス回線の話ではない。
極論すれば、現在Y!BBユーザーがADSLモデム上でIP電話を利用しているように、メタル回線を残したままIP電話やIPサービスを提供していくという手もあるのだ。
果して「光100%」という理念のために、経済合理性を無視してまで推し進めるべきなのか。今回の発表は「光の道」の課題をあらためて浮き彫りにしたというところなのだろう。
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