ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

スマートフォンが変えるIP電話の新しいあり方

2011年11月13日 | ネットワーク
これまでもネットを使った電話サービスというのは「Skype」が存在していたわけだけれど、それはあくまで既存の電話会社に対するネットの世界のベンチャー企業が行なっていたサービスで、電話会社からすれば品質も不安定だし、ユニバーサルサービスでも何でもない、自分たちの築いてきたビジネスモデルを破壊するだけの「鬼子」のような存在だったのだろう。しかし本格的なスマートフォンの時代はこれまでのあり方をそもそも覆す可能性のある様々な「音声サービス」を産み出そうとしている。

今、日本の携帯キャリアはレッドオーシャンのまっただ中。勝者のないまま血眼でユーザーの囲い込みに走っている。iPhoneを巡る割引合戦はもちろん、同一キャリア内の通話料金に対する割引サービス合戦も激しさを増している。

ソフトバンクのホワイトプランでは月額980円を支払えばソフトバンク同士の通話を1時から21時までの間無料となるし、KDDIもiPhone4Sの投入に合わせて同様のプランを開始した。docomoはXiユーザーを対象に月額700円でドコモユーザー間の国内通話が24時間無料になる「Xiカケ・ホーダイ」の提供を開始した。どのキャリアもまずはシェアの確保のために「キャリア内無料」を推し進めている。

しかしスマートフォンの普及は「音声」をただの「データ」の1形式と見做すことを推し進める。Skypeのようなサービスをより「電話」に近い形で提供することを可能にした。その1つがNTTコミュニケーションズが提供する「050plus」だ。

これまでもOCNなどを通じて050番号のIP電話は提供さていたが、この「050plus」ではスマートフォンにアプリケーションをインストールすることで携帯キャリアが提供する「電話」機能とは別に、050番号のIPフォンに変えてしまう。月額315円がかかるとはいえ、050番号同士の通話料は無料。docomoのスマートフォンだろうが、iPhoneだろうが、あるいは会社に導入されている050のIP電話だろうが全て通話は無料となる。スマホユーザーのほとんどはデータ定額制プランに入っているだろうから、それに315円追加することで、キャリアをまたいで定額電話サービスを利用できることになる。

しかもこれはWiFi環境でも利用できるため、iPad、iPod touch、Windows PCからも対応可能とのこと。本来「電話」機能をもたない端末をも「IP電話」の端末にしてしまうのだ。通信キャリアであるNTTコミュニケーションズがこのサービスを始めたことの意義は大きい。すでに通信キャリア自体がこれまでの「電話」という概念から飛び出そうとしているということだろう。

 IP電話サービス『050 plus』がiPod touch/iPadで利用可能に - NTTコム | iPhone | iPad iPhone Wire

しかし現在はソーシャルメディアの時代だ。電話番号はもちろん、メールアドレスさえも知らない友人だってFacebookやTwitterを通じて「繋がっている」。面白法人カヤックが提供している「Reengo(リンゴー)」を使えばFBを通じて電話番号の知らない友達にも通話できる。あるいはライフツービッツとウタリが提供している「OnSay」を利用すればTwitterで相互フォローしている友人や知人と通話することができる。

 facebookアカウントがあれば電話番号は必要なし――カヤック「Reengo」公開 - ITmedia +D モバイル

 「電話番号、覚えなくなった」――3日で登録9万人、Twitter通話アプリ「OnSay」にみる通話の未来 (1/3) - ITmedia プロフェッショナル モバイル

これらのともにスマートフォンにVoIP用のアプリケーションをインストールすることで成り立っている。つまりデータ定額制プランに入っていれば通話料金は無料だ。

電話というのは典型的な「ネットワーク効果(ネットワーク外部性)」が期待できる分野だ。ネットワーク効果とは、同じ財・サービスを消費する個人の数が多ければ多いほど、その財・サービスから得られる便益が高まる効果のことを言う。電話サービスに加入している人が1人しかいなければその人は誰にも電話をかけられない(便益0)。しかし友人1人も加入していればその友人と通話できる(便益1)。101人が参加していれば100人の人と電話をかけられる(便益100)。このように利用者が増えれば増えるだけ魅力が高まっていくのだ。

その一方で実際に個人が利用する相手の数は限られている。日本の携帯電話の契約数は1億以上存在するが、実際に個人がかけることのある相手というのは、友人だったり、同僚だったり、親や兄弟だったり、取引先だったりと意外と決まっている。

そうした親しい関係性がFBで網羅されているのであれば、必ずしも電話番号を交換する必要はないのかもしれない。あるいはTwitterを利用することでもう少し幅広い範囲までカバーできるのであれば、それで事足りるのかもしれない。

FBやTwitterがソーシャルグラフの起点となることで、それに基づいた友人たちとは無料で通話できるようになる。一昔前であればこうした「近しさ」が従量課金のARPUを押し上げていたのに、今やこうしたものこそ「無料」となるのだ。

スマートフォンという存在はこれまでの「電話」サービスのあり方を大きく変えてしまうのかもしれない。通信キャリアのネットワークを通じて多くのサービスが提供されているとはいえ、「AGEphone」などのアプリをインストールすればスマートフォンが「ひかり電話」の子機になってしまうし、「050plus」を使えば別なIPフォンとして機能する。「Skype」や「Reengo」、「OnSay」などのVoIPアプリを利用すれば無料のIP電話としても利用できる。

これまでのように携帯キャリア主導で音声サービスが提供されていくのか、ソーシャルグラフという新しいネットワークのあり方をもとにした音声サービスへと移っていくのか、「電話」という枯れた分野のあり方が大きく揺れているのだろう。


 iPhone、Android端末を「ひかり電話」の子機に――SIPソフトフォン「AGEphone」に新機能 - ITmedia プロフェッショナル モバイル

 坂の上のクラウド:企業クラウドとソーシャルをつなぐもの - ビールを飲みながら考えてみた…

コメントを投稿