ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

坂の上のクラウド:何故、中堅・中小企業への営業体制が必要なのか

2011年06月28日 | ネットワーク
2年近く前にクラウド時代の営業に求められる思考や営業戦略について、「顧社別の対応というよりもセグメント化された「層」をどのように取り込むかという観点で考える必要がある。この切り替えが実は営業部門にとっての難題かもしれない」と書いたことがある。当時はまだ漠然と「クラウド」が叫ばれていた頃だったかもしれないが、この2年でかなり企業システムのクラウド化はかなり具体的な形で進展してきたといえる。

この流れを無視することはできない。実際に営業体制も変更させたSIerなどもあるだろう。

 SaaS、クラウド時代に必要なSIerの営業思考 - ビールを飲みながら考えてみた…

今日は、改めて、この問題について考えてみたい。

前回、このことについて書いたときは、「オンプレミス型」のシステム構築と「SaaS型」のサービス提供とのビジネスモデルの違いから営業戦略の変化の必要性について書いた。今回は、市場環境の側面から書いてみたい。

これまでの法人営業部門というと、お客様毎に担当者を設置し、そのお客様をフォローするという個社別営業体制が中心だった。この個社別営業体制が効果を発揮したのは、パレートの法則、いわゆる「80:20」「70:30」のような法則が有効だったから。全てのお客様を手厚く対応するというよりも、特にICT投資についても積極的で規模も大きいクライアントを中心に手厚く対応するためだ。2~3割の大手クライアントからより多くの収入を得つつ、中堅・中小規模のユーザーに対してはそれなりの対応にとどめ、多数の小規模のユーザーについてはミニマムの対応に終始する。そうすることでコストパフォーマンスを高めたまま、収益を高めることができた。

しかしこの状況が徐々に変わっていくことになる。

1つは、世界規模での競争の激化や不況の影響を受けて、ユーザー自身のICT投資への投資対効果への要求が厳しくなったこと。以前であれば、品質重視だったものがコストパフォーマンス重視へと切り替わっていった。

もう1つはICTのコモディティ化が進み、同じ規模の案件であっても以前ほどの収益が見込めなくなったこと。ホストからC/S、WEBベースのC/Sモデルへと開発環境は変わり、更にはサーバなどH/Wの単価は下がり続ける。仮想化の技術も進み集約率も高まった。またネットワークは専用線からIP-VPNへ、そしてベストエフォート型のBフレッツへと移り変わり、かっては1Mbpsで月額何十万もかかっていたものが、今では数千円というレベルだ。さらにクラウドのようにサービス利用型になれば、個々の顧客ごとシステム開発のボリュームは大幅に減ることになる。

これまでであればより少数の大口顧客でより多くの収益を得てきたものが、同じ規模の案件に携わったとしても、収入そのものは大きく低下することになる。

その一方で新たな収益源になりそうなゾーンがある。それがその下のゾーン。中堅・中小を中心とした「ミドルゾーン」だ。このゾーンは顧客数も多くICT投資もある程度は行なっている。その一方で大手ユーザーほどシステム担当者が十分に存在しているわけでもない。ICTへの投資への興味はあるが、大手ほどの予算も人的リソースも確保できない層なのだ。

「クラウド」はこうした層にパワーを与えるきっかけになる。

オンプレミス型に比べて初期のシステム開発投資が少なくてすむし、プライベートクラウドであれば、オンプレミス型と使い勝手はそう変わらない。パブリッククラウドを利用すれば、そのコストは大幅に下げられる。またサービス利用型となるため、保守や運用に煩わされる手間も少なくて済む。内部稼働を大きく削減することにもなるだろう。

これまでであれば見送られていたICT投資が、クラウド利用することで可能になるかもしれない。

クラウド事業者からすると、ミドルゾーンというのは、1案件1案件の規模は必ずしも大きくないかもしれないが、同じような要件のシステムが多数存在するゾーンということになる。しかもクラウドは一度、導入されてしまえばそこからの乗り換えはかなり面倒だ。囲い込みやすいのだ。

ミドルゾーンの「面」をどれだけ早く押えることができるか――これがこのゾーンをめぐる攻防になる。

そしてそのために必要なのが、セグメント化された層をどのように押さえていくかということになる。個社別のカスタマイズが必要なシステムの受注以上に、どれだけ多くの顧客に「クラウド」を提供していくか。メールシステムを求めている顧客層に対してはメールのクラウドを、グループウェアを求めている顧客層にはグループウェアのクラウドを、PaaSを求めている顧客層にはPaaSのクラウドを、そうやって「面」を押さえていく必要がある。

クラウドの共通基盤を最大限に活かすために、個社別のカスタマイズは最小限にしなければならない。事前に設定されたパラメータ以外のカスタマイズを避け、極論すれば、顧客側で設定できるようにするというのも手だ。その分をサービス利用料を下げればいい。そうすることでより多くの顧客が利用しやすくなり、更なる需要が増えることになる。どうせ全部はとれないのだ、このモデルに合う顧客と合わない顧客との峻別を行い、取るべき顧客を押さえていかねばならない。

クラウドという共通基盤を維持するためには、多くとの先行投資が必要になる。その一方で、ある損益分岐点を超えると、一気に利益率が高くなる。まずは「面」をとること。早期に損益分岐点を超えれば、それを原資に値下げの余地ができたり、付加機能を開発したりと、更なる競争力の強化につながる。こうした「正」のスパイラルが回りだす。

そうなれば「勝ち組」だ。

B2Cを中心としたネットの世界では「パレートの法則」から「ロングテール」へと移行した。B2B市場ではまだそこまでの裾野は広がっていない。しかし確実にその中間層であるミドルゾーンが収益に与える影響は大きくなるだろう。

クラウドをめぐる攻防に勝ち抜くためには、このミドルゾーンを狙った営業体制の構築が求められるのだろう。


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1 コメント

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Unknown (クラウドコンピューティング)
2011-10-27 21:22:54
仮想化進化するのは良いですが、いちばん気になるのは
データ流出ですね。この辺うちではたぶん大丈夫
とゆうか特に機密はないので、活用していますが、
今後益々色々な方面でクラウド化が進んでくると
思います。
そうなると、データ容量の少ないマシンでも使える
チャンスが出てくると期待しています。
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