ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

「光の道」構想・「アクセス網分離会社」の4つの論点

2010年05月25日 | ネットワーク
「政治主導」という言葉がいつからこう勘違いを助長させるための大義名分となったのだろう。自分で起こした会社のワンマンオーナーであればともかく、選挙で選ばれただけの政治家が自分の思い込みと勘違い、願望だけで好き放題するというのは、あまりにも無責任というかセンスがなさ過ぎというか…そんな状況の続く民主党政権なわけだけれど、原口大臣もどうやらその1人のようだ。

政治主導の名の下でゴリ押し 原口大臣と孫社長の「光の道」|inside|ダイヤモンド・オンライン

この記事を読むと、「光の道構想」の原型となったアイデアはソフトバンクが民主党に持ち込んだものであり、「NTTを弱体化させると同時に、ソフトバンクは新たなインフラ投資から免れる」という巧妙な仕掛けだとする。そしてその孫正義に「親友」と呼ぶツイートするほど乗ってしまったのが原口大臣ということになる。

その結果、自身が組織したICTタスクフォースの作業部会が、(NTTグループの再編という)結論ありきはよくないという意味で「再編の見送りやむなし」としたことに対して、原口大臣は、5月14日に開かれた公聴会の資料に「(来年の夏まで)1年後をメドに判断」と期限を明記した文言を入れるように注文をつけ、さらには孫正義が「せめて半年で結論を出すべき」と発言すると今度は年内決着を目指すといい始めた。

まぁ、それでもこれが適切な決断であればそれはそれでいい。ただしこの「光の道構想」「NTT再編」については、肯定的な意見というのは多くないだろう。佐々木俊尚氏は「ソフトバンクの「光の道」論に全面反論すn」との記事を書いているし、池田信夫氏も「ソフトバンクの「アクセス回線会社」案への疑問」を指摘している。

この「光の道構想」「アクセス網分離」議論の論点は大きく4つに分けられる。

1)日本でICTの利活用が進まないのは、「インフラの整備」の問題ではなく、「サービス・レイヤー」「プラットフォーム・レイヤー」が不十分だからであるというもの

2)インフラの整備を考えた時に「光」の普及だけを考えるのではなく、「無線系」を含めたトータルでの取り組みで考える必要があるとするもの(つまり「光」は既に中心課題ではないとするもの)

3)ソフトバンクが提示した「光アクセス分離構想」「一括工事方式」の試算があまりにもいい加減だとするもの

またこうした論理的な話とは別に

4)国益と称して自社の利益のことしか考えない態度に対する不信感

これらはいずれもその通りだろう。

1)については、日本のブロードバンド環境は普及率でも価格面でも世界でもトップクラスだ。しかしそれでも「光」ではなく「ADSL」で十分と思っている人も多いし、更にはケータイがあればそれでいいと思っている人も多い。結局は「PC」を立ち上げて使うことの面倒臭さや、そこで楽しむためのアプリケーションやサービスの不足や、あるいは利用するための手続きや開発環境の分断といったプラットフォームが整備されていないためだ。

このあたりのことは、「NTT再編、光回線敷設会社構想にみる政府の勘違い」にも書いたとおり。結局のところ、100Mbpsの(あるいはその1/10でも)速度が必要なサービスなどなく、むしろアプリケーションやサービスの開発・普及のためには「誰もが使える環境」を用意することの方がはるかに大切なのだ。

2)についてもそのとおりで、NTT東西のフレッツ光の販促努力や総務省の「地域イントラネット」施策などで、申込さえすれば「光」の使える地域は拡大してきている。が、同時に現状提供されていない地域というのは採算性として厳しい地域と言えるだろう。

そうしたエリアについては、「戸」へ光ケーブルを敷設するのではなく、面に対して設備投資を行いより多くの「戸」と無線で接続した方が効率的である。HSDPA(下り14.4Mbps)、LTE(下り100Mbps)、WiMAX(70Mbps)、XGP(20Mbps)、フェムトセル(固定と無線の融合)といった新しい「無線」技術が普及期に入っており、何も「光」中心に考える必要はないのである。本来であれば「光」と「無線系」とを組み合わせて効率的なインフラ整備を図らねばならないのだ。

2010年問題「NTT再編」、原口総務大臣は何を目指すのか - ビールを飲みながら考えてみた…


3)については、そもそも「一括工事方式」という、地デジ以上の国策的かつ私有財産権制を制限するような取り組みを前提にすることの是非からはじめねばならない。この「一括工事方式」というのは、現状のNTTのように申込のあった「家」に対して個別に工事を行っていては無駄も多いので、エリア単位で全戸いっせいに(強制的に)光ケーブルを引いてしまおうというもの。確かに1度の工事で隣近所何軒かをまとめて工事をすれば効率的だ。しかしこれはあまりにも乱暴な議論。

しかもこの試算で出された数字の根拠は曖昧だし、比較対象も条件があっていなかったりする。オール「光」化の議論がいつの間にかNTTからの「アクセス網分離」の話にすりかえられている。「電子教科書」をやたらアピールしているものの、結局は大事なのはコンテンツであり何故「電子教科書」なのか(PCでないのか)の説明はない。(しかも電子教科書だと無線じゃん!)

ソフトバンク案に対する疑念は残ったままなのだ。

4)は3)の疑念や不信感、これまでの孫正義氏の態度などからだ。「スピードネット」は早々に撤退し、新事業者として携帯免許を申請していたかと思うとVodafoneを買収し、一種事業者にもかかわらずMVMOを利用し投資を抑制しようとしたり、SIMロックには賛成する。bフレッツ普及期には「ADSL」の優位性を説き、自社での光展開をしていたからと思うとフレッツ光との提携に切り替える。その態度は常に「自分に都合のいいように」と言われても仕方ないだろう。

まぁ、こうした状況を考えると、「光の道構想」議論というのはもう一度きちんとやり直した方がいいのでは、と思うのだが…


「光の道」実現にむけて(ソフトバンク)

ソフトバンクの「光の道」論に全面反論する(上):佐々木俊尚 ジャーナリストの視点 - CNET Japan

ソフトバンクの「アクセス回線会社」案への疑問 - 池田信夫 blog

ソフトバンク孫社長が仕掛ける 「NTTの構造分離」への疑問  原口総務相の「光の道」構想を礼賛 | 町田徹「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

目的地にたどり着かない「光の道」 - ビールを飲みながら考えてみた…

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