ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

坂の上のクラウド:ターゲットとなるポートフォリオをどのように組むか

2012年07月30日 | ネットワーク
クラウドを提供するということ、それはお客さんがクラウドに期待する部分を満たすということと、提供者としての利益を追求するということとの両方を満たすということでもある。この当たり前のことが、提供者の内部でも理解されないこともある。

先日、社内で打ち合わせをしている際に某部長があるお客さんからの要望に対して、「季節変動の激しい(システムの)稼動状況だからといって、オンプレミスで賄いきれない時だけクラウドを使いたいと言われても、それじゃぁ、こっちが損するだけじゃないか。せめて全部をクラウドに移行してもらわないと…」とごねていた。確かにその部長の言うこともわかる。提供者側として考えれば、そういう側面も確かにある。だが、はっきり言おう。そういう発想が既に「クラウド」提供者のそれではない。

例えばお客さんのシステムの稼動状況が半年に一度、決算期の9月と3月にピーク(100%)がありそれ以外はあまり稼動していない(20%)としよう。1年という期間でみると、

期間:稼動
4月~8月:20
9月:100
10月~翌年2月:20
翌年3月:100

全てをオンプレミスで構築する場合には、100+αの稼動に対応できるシステム容量で作らねばならない。しかしということは、80×10ヶ月分の空き稼動が発生するということでもある。つまり無駄が多い。そこでお客さんが考えたのが、20の稼動でシステムを構築し、9月と3月については、80の稼動分をクラウドを利用することで賄えないかということだ。

確かにクラウドだといってもシステムを構築する/投資する必要があるわけで、この80×2ヶ月のためにクラウド事業者は80の設備を用意しなければならない。稼動=収入として考えるならば、160(80×2)の収入のために960(80×12ヶ月)の投資が必要になるということだ。だったら全部クラウドにしてくれよ(収入400、投資1200)という気持ちもわからなくもない。

しかしそれはこの一社だけを考えるからだ。こうした個社別戦略はクラウドには合っていない。そうではなく、利用それてない空き稼動をどのように/どのお客さんで埋めていくかを考えなければならないのだ。

例えばこれに毎月30の稼動が必要なお客さんが加わったとする。

収入:30/月×12ヶ月=360/年
投資:30/月×12ヶ月=360/年

クラウド事業者からすると、80/月の追加投資が必要となる。

さらに四半期の内で最初の2ヶ月に50の稼動が集中するお客さんがいるとしよう。

4月~5月:60/月
6月:10
7月~8月:60/月
9月:10
10月~11月:60/月
12月:10
1月~2月:60/月
3月:10

収入:60×9ヶ月+10×3ヶ月=570/年

しかし投資については、9月と3月を除くと既に80/月の空きがあるわけで、それを充当すれば

投資:10×4ヶ月=40

の投資ですむ。40の投資で570の収入が得られることになるのだ。

つまりクラウド事業者としては、個社別の対応で損得を考えるのではなく、全体のポートフォリオをどのように構築するか、設備の稼働率をどのように高めるか、いかにして収入全体を高めていくかという発想で考えなければならないのだろう。

そう考えるならば、日本の商習慣・生活のリズムに縛られがちな日本企業だけを相手にするのではなく、生活パターンが違う海外の企業に対しても積極的に提案していかねばならない。クリスマス商戦に影響を受ける欧米企業とクリスマス~正月にまで分散する日本、さらにはクリスマスとは全く無縁なイスラムの企業という具合に。

クラウド事業者として勝ち抜いていこうとするならば、グローバルな市場を意識しなければならないし、競合もまた国内企業だけではなく、アマゾンやGoogle、salesforceといったところとも闘わねばならないのだ。



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