ほのぼのお徒歩日記 (新潮文庫) | |
宮部 みゆき | |
新潮社 |
宮部さんが新潮社の関係者と徒歩で色々なところを回った記録だ。小説新潮の企画としてやられたらしい。タイトルのとおり、一緒に回る人たちにニックネームを付けてほのぼのとした書きぶりである。実は本書は、宮部さんの小説以外では最初となる「平成お徒歩日記」(新潮文庫)に、令和になって歩いた番外編を収録した新装完全版だということだ。
さすがは、宮部さん。選ぶコースが尋常じゃないのだ。例えば、市中引き回しコースとか、関所破りコース、八丈島遠島コースなど。
最初のやつは、時代劇でお奉行さまが言うあれ。「市中引き回しの上、獄門に処す」というやつだ。本書によれば、実はこの市中引き回しには2コースあるらしく、一つは伝馬町の牢屋敷裏門から出て、江戸城の周りを引き回されて、老屋敷裏門に戻ってくるもの。もう一つは5カ所引き回しといって、江戸5カ所を引き回されて刑場に行くやつ。宮部さんが回ったのは後者。本書では鈴ヶ森と小塚原の二つの刑場だけしか触れていないが、実は江戸時代の刑場はもう一つ、他の二つほど有名ではないが、大和田刑場というのがあったらしく、これを含めて、三大刑場と言われていたようである。
書き下ろしで加えられた令和版は、宮部さんが尊敬する岡本綺堂の「半七捕物帳」の舞台を歩くのだが、全六十九話分を踏破するのは無理ということで、シリーズ中で名作の誉も高い「津の国屋」の舞台を回ろうというものだ。よくアニメなどの聖地巡礼ということを聞くが、これは半七捕物帳の聖地を歩いてみようというもの。そもそもこの企画が始まったころは30代だった著者も昔のメンバーも、今はアラカン。今回参加した元気な若手編集者には流されずにのんびりと歩いたようだ。
宮部さんとくいの、深川7不思議も入っている。私は、宮部さんは現代ものよりは時代ものの方がいいと思うのだが、このチョイスに、なんだか宮部さんの時代ものが面白い秘密がありそうだ。とにかく宮部さんらしく、ゆるゆるで、ユーモラスなのだ。
☆☆☆☆