文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

ほのぼのお徒歩日記

2019-12-13 08:31:38 | 書評:その他
ほのぼのお徒歩日記 (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社

 宮部さんが新潮社の関係者と徒歩で色々なところを回った記録だ。小説新潮の企画としてやられたらしい。タイトルのとおり、一緒に回る人たちにニックネームを付けてほのぼのとした書きぶりである。実は本書は、宮部さんの小説以外では最初となる「平成お徒歩日記」(新潮文庫)に、令和になって歩いた番外編を収録した新装完全版だということだ。

 さすがは、宮部さん。選ぶコースが尋常じゃないのだ。例えば、市中引き回しコースとか、関所破りコース、八丈島遠島コースなど。

 最初のやつは、時代劇でお奉行さまが言うあれ。「市中引き回しの上、獄門に処す」というやつだ。本書によれば、実はこの市中引き回しには2コースあるらしく、一つは伝馬町の牢屋敷裏門から出て、江戸城の周りを引き回されて、老屋敷裏門に戻ってくるもの。もう一つは5カ所引き回しといって、江戸5カ所を引き回されて刑場に行くやつ。宮部さんが回ったのは後者。本書では鈴ヶ森と小塚原の二つの刑場だけしか触れていないが、実は江戸時代の刑場はもう一つ、他の二つほど有名ではないが、大和田刑場というのがあったらしく、これを含めて、三大刑場と言われていたようである。

 書き下ろしで加えられた令和版は、宮部さんが尊敬する岡本綺堂の「半七捕物帳」の舞台を歩くのだが、全六十九話分を踏破するのは無理ということで、シリーズ中で名作の誉も高い「津の国屋」の舞台を回ろうというものだ。よくアニメなどの聖地巡礼ということを聞くが、これは半七捕物帳の聖地を歩いてみようというもの。そもそもこの企画が始まったころは30代だった著者も昔のメンバーも、今はアラカン。今回参加した元気な若手編集者には流されずにのんびりと歩いたようだ。

 宮部さんとくいの、深川7不思議も入っている。私は、宮部さんは現代ものよりは時代ものの方がいいと思うのだが、このチョイスに、なんだか宮部さんの時代ものが面白い秘密がありそうだ。とにかく宮部さんらしく、ゆるゆるで、ユーモラスなのだ。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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カラー図解 古生物たちのふしぎな世界 繁栄と絶滅の古生代3億年史

2019-12-11 09:10:40 | 書評:学術教養(科学・工学)
カラー図解 古生物たちのふしぎな世界 繁栄と絶滅の古生代3億年史 (ブルーバックス)
土屋 健、(協力)田中 源吾
講談社

 地球の地質学的な時代は、大きく、先カンブリア時代と顕生累代に区分される。そのうち顕生累代は、さらに新生代、中生代、古生代から成り立つ。そして古生代は、現代に近い方から、ペルム紀、石炭紀、デボン紀、シルル紀、オルドビス紀、カンブリア紀に分けられる。

 本書は、この古生代に生きた生物に焦点をあてて、紹介したものである。この時代には、面白い生物が多く生息していた。その代表で、スーパースターとでも言えるのが、アノマロカリス類だろう。アノマロカリス類はカンブリア紀に現れた最初の最強種と言われている。要するに、古代のエビのようなものなのだが、これをおいしそうだと思う人はいないだろう。

 三葉虫類は古生代の代表種と言うべきもので、古生代の初めに現れ、古生代末まで命脈を保ったが、その形はとても同じ仲間だとは思えないほど様々に変化している。三葉虫類は化石も多く、持っている化石ファンの方も多いだろう。

 これらの古生物は、今は化石としてしか見ることができないのだが、面白い生物が満載だ。本書は、そんな古生物をたくさんカラーイラストと文章により紹介しており、見ているだけで楽しい。

☆☆☆☆

初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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難しいことはわかりませんが、統計学について教えてください!

2019-12-09 08:07:58 | 書評:学術教養(科学・工学)
難しいことはわかりませんが、統計学について教えてください! (SB新書)
小島寛之
SBクリエイティブ

 本書の特徴は、数式を使わないで、統計学のさわりを分かりやすく解説していること。 面白いと思ったのは、遅れずに学校につくためには、何時何分のバスに乗ればいいのかを統計学的に検討した話。これは、バスの到着する平均時間と、標準偏差を求めて、いつのバスに乗ればいいかを検討するものだ。

 この他に、ミスキャンパスのファイナリストのプロポーションを統計学的に見てみたり、年齢不詳の女性の年齢を推定してみたりと、統計の意外な使いかたが書かれている。

 ただ、平均、標準偏差とくれば、あの数字だけ独り歩きしてる「偏差値」というやつにも触れて欲しかった。そして、いかにナンセンスな使われ方をしているかということを言って欲しかった。

 偏差値とは、特定の母集団の中でどの位置にいるかを示すものなので、母集団が変われば意味をなさない。例えば国立A大学の偏値が60、私立B大学の偏差値が65と、ある受験産業が言っているとする。一見B大学の方が、難しそうなのだが、私などはそうは思わない。

 そもそも、受験生の母集団も試験科目も全く違うA大学とB大学を比較することなどできないと思ってしまうのだ。しかし普通の人は、偏差値の意味も分からず、数字だけを比べてしまう。統計的なことを解説するのなら、この数字のナンセンスさをもっと伝えて欲しかった。

 この他、仮説検定の話や、相関関係、回帰分析(単回帰、重回帰)の話を数式を使わずに説明しており、あまり、この方面になじみがないものでも、本書を読めば、基本的な概念を理解できるようになるだろう。

 これはよくあるのだが、相関関係があれば、いかにも因果関係があるように報道されることがある。しかし相関関係はあっても因果関係があるとは限らない。相関関係は因果関係と違うということは、もっとはっきり書いた方がいい。

☆☆☆☆


 

 

 

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金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件

2019-12-07 11:41:29 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件 (角川文庫)
横溝 正史
KADOKAWA

 

本書は、3つの中編から構成されている。表題作の「本陣殺人事件」は、金田一耕助シリーズの第一作目となるものだ。舞台は岡山県の農村にある一柳家。一柳家は江戸時代には本陣だった旧家だ。一柳家の長男・賢蔵と女学校の教師久保克子が婚礼の夜に無残な死体となる。その現場は密室の状態になっていた。果たして誰がどのようにして犯行に及んだのか。そして不気味な三本指の男の影が。

 この作品では、金田一のパトロンで、岡山で果樹栽培をした久保銀造に呼ばれて登場する。銀蔵は、克子の叔父にあたる。金田一はアメリカで銀造としりあったのだが、その当時、金田一が麻薬の常習者だったという設定はシャーロック・ホームズを意識したようだ。

 しかし、意外な真実が金田一によって明らかにされる。だが、これが事件の動機なら、現代ではちっと考えにくい。

 私も岡山県出身ではないが、倉敷に住んでいたこともあり、馴染みのある地名が出てくるのがうれしいもっとも地名は昔のものが出てくるうえ、例えば川ー村といったように、真ん中の文字が隠してあるのだが、岡山の地名になじみがあればなんとなくわかってしまうのだ。

 二作目の「車井戸はなぜ軋る」は、K村の名主の家柄である本位田家で起こった事件描いたをものである。この村は本位田、秋月、小野の3家が3名といわれて、江戸時代には年番で名主を務めていたのだが、他の2家は没落して、本位田家のみが栄えていた。

 本位田家の長男大助と秋月家の長男伍一は、どちらも本位田大三郎を父に持ち、二人は驚くほどよく似ていた。大助が二重瞳孔の持ち主であることを除けば。そして大助と伍一が押収され、大助のみが帰ってきた。戦傷で目をやられ義眼となって。伍一は戦死したという。そして大助とその妻梨枝が殺される。描かれるのは、人間の妬みと疑心暗鬼の恐ろしさか。

 一応金田一は出てくるのだが、事件を見通したのは鶴代という本位田家の娘。生まれつき心臓弁膜症で体が弱いという設定の薄幸の少女だ。

 三作目の「黒猫亭事件」では、探偵小説のトリックの三典型が示される。「密室の殺人」型と「顔のない屍体」型、「一人二役」型らしい。もっとも、DNA鑑定が進んだ現代では、後ろの二つは難しいだろうから、ミステリー作家は「密室の殺人」型のトリックを考えるのに頭をひねることになるだろう。

 G町の黒猫亭という酒場の庭で、隣接する寺・蓮華院の日兆という若い僧が女の腐乱死体を掘り出したところを、長谷川という巡査が見つける。黒猫亭の主人だった糸島夫婦は1週間前に店を閉めて転出していた。

 一作目の「本陣殺人事件」が密室の殺人なら、この作品は「顔のない屍体」型、と「一人二役」型の二つを組み合わせたような作品だ。これは金田一が事件解決にだいぶ働いている。

 時代的なものもあるので、少し文体が古いかなという気がするが、ファンには十分楽しめるものと思う。いずれも横溝作品の魅力であるおどろおどろしさが良く出ているのではないだろうか。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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台湾市場あちこち散歩

2019-12-05 09:10:16 | 書評:その他
台湾市場あちこち散歩
池澤 春菜
KADOKAWA

 

 昔、会社勤めをしていたときに、台湾から来られた方々の対応をしたことがあるが、皆礼儀正しかった。私は、欧米人の対応をしたこともあるが、彼らは、態度のでかい人間が多く、雲泥の差である。

 言葉にしてもそうだ。台湾の方は、ある程度日本語を勉強して来られる。一方欧米人は世界中で英語を始めとする欧米語が通じるのが当然と言う態度だ。皆がそうとは限らないのだろうが、それ以来台湾に対してよい感情を持っている。

 台湾も対日感情はいいと聞く。政治的なこともあるだろうが、こういう国は大事にしていくべきだと思う。

 さて本書は、声優や舞台女優などでも活躍している著者の3冊目の台湾本である。もう本自体から著者の台湾愛が伝わってくるようだ。エネルギー溢れる台湾の市場の写真を見ていると、思わず引き込まれそうになる。

 圧倒的に食べ物の紹介が多いが、それ以外のものもある。そして、台湾元が3.6円くらい(注:書評執筆時)だから、値段も安くどれも美味しそうなのである。これを見ただけで台湾に行きたくなる人も多いと思う。

 読んでいると次の一文が眼に入った。

「トイレには紙を流さず、ゴミ箱へ捨てましょう。」(p007)



 「台湾の水洗トイレにはトイレットペーパーを流せないのか?」と思って色々調べてみると、今現在も流せないところの方が圧倒的に多いようだが、2017年以降、少しずつ流せる方向にシフトしているようである。日本だと、水洗トイレにトイレットペーパーを流すのは当たり前だが、こういったところにも文化の違いを感じてしまう。

 ともあれ、台湾旅行を計画している人には参考になることも多く、おススメである。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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迷惑メール返事をしたらこうなった。

2019-12-03 09:14:59 | 書評:その他
迷惑メール、返事をしたらこうなった。 詐欺&悪徳商法「実体験」ルポ (文庫ぎんが堂)
多田文明
イースト・プレス

 本書は、送られてきた迷惑メールのURLをクリックしたらどうなるのか、そこに何が待ち受けているのかということに著者がチャレンジした記録である。

 迷惑メールには詐欺が多い。有名サイトを騙って、偽の画面にログインさせてパスワードを盗むフィッシングはその最たるものだが、出会い系サイトへ誘導するようなものもある。架空請求もあるし、コピー商品などは、知財関係の法令違反のものも多いと思う。

 おかしいと思ったら、そのタイトルや文面で検索を掛けてみることだ。詐欺メールは、不特定多数に同じ文面で送っていることが多い。だから、同じ文面の詐欺メールが引っかかってくる。

 また、サイトに埋め込まれたURLをクリックするのは非常に危険だ。自分が取引しているところがあれば、きちんとしたアドレスをブックマークしていることも対策になるだろう。

 実は私も迷惑メールが良く来る。すぐ削除しているのだが、いっこうに収まる気配がない。おそらく、誰かが騙されてくれればラッキーということで、自動的に何度も送っているのだろう。

 これだけ迷惑メールが多い背景には、罰則と収益がアンバランスなことがあると思う。個人的には死刑にでもして欲しいが、少なくとも、やる人間が確実に減るだけの厳罰化は必要だと思う。

 とにかく詐欺師はあの手この手で攻めてくる。本書にはその事例が沢山書かれているので、騙されないために大いに参考になると思う。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……

2019-12-01 08:55:16 | 書評:その他
非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……(1) (ドラゴンコミックスエイジ)
滝沢 慧,睦茸
KADOKAWA
非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……(2) (ドラゴンコミックスエイジ)
滝沢 慧,睦茸
KADOKAWA
非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……(3) (ドラゴンコミックスエイジ)
滝沢 慧,睦茸
KADOKAWA
非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……(4) (ドラゴンコミックスエイジ)
滝沢 慧,睦茸
KADOKAWA

(1)~(4)のレビューになります。

 同名のラノベのコミカライズ版。エロゲに嵌っている男子高校生の小田切一真。そんな小田切君に彼女ができた。彼女は水崎萌香といい、無口な才色兼備の優等生。普通なら絶対に彼女になんてできないところだが、実は、中学のころ電車の中で痴漢にあっていた萌香を小田切が助けたということから、萌香の方から小田切に告白。もちろん小田切君に否はない。

 要するに、才色兼備の優等生だが、食いしん坊で、時々ポンコツな彼女との間に繰り広げられるラブコメなわけだが、これに小田切君のことを好きな幼馴染の四ノ宮瑠璃が絡んできて、小田切君両手に花状態。瑠璃は、ちょっと派手な感じだが、コミュ力が高く、なかなか可愛らしい。いやこんな可愛らしい女子たちに迫られたら、普通の男はどちらにしようか迷うと思うのだが、そこは真面目な小田切君、萌香一筋。ちょっと瑠璃には辛いかな。

 ちなみにサブカルチャー研究部(実態はエロゲ部)の部長は笹井結奈という女子。姉はオタ向けエロ小説家。どちらも結構可愛い。

 この4巻でちょうどいい区切りとなっているので、これで完結かと思っていたら、続きが出ていた。さて、ここからどのように展開していくのか楽しみだ。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

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