文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:”喜平さ”がつくった奇跡の村

2018-01-30 11:11:22 | 書評:その他
“喜平さ
クリエーター情報なし
幻冬舎

・峰竜太

 本書の著者はテレビなどでおなじみの峰竜太氏だ。峰氏と言えば、これまで恐妻家というイメージしかなかったのだが(失礼)、故郷の長野県下條村の重要無形文化村長もやっていたようである。なんだかよく分からない肩書だが、要は村の宣伝部長のようなものらしい。

 この下條村というのが凄いのである。今時「村」で生き残っているだけでも大したものなのに、14歳以下の子供比率は長野県内でトップ、財政の健全性を表す実質公債費比率はなんと全国1位だという。

 しかし、最初からこの村が凄かった訳ではない。峰氏の義理の姉の兄だという伊藤喜平氏(以下本書に倣い「喜平さ」と書く)が村長に就任してから村は大きく変わったのだ。

 喜平さは、村会議員だった52歳の時に胃がんに侵され胃の4分の3を取ったという。しかしそこから立ち直り、その後村長となり、6期24年も務めたという。既に2016年に引退したというが村に大きな置き土産を遺したことは間違いないだろう。

 喜平さのやったのは、親方日の丸といった村役場の職員の意識改革だ。例えば企業への出向研修である。今は、やっている自治体も多いが、この時は県の担当者から地方自治法に触れる恐れがあるといちゃもんがついたらしい。喜平さは自分の責任でやると押し切ったという。その他役場の縦割り組織の改革も行った。下水道整備も自分たちの村にふさわしい方式でコストをかけずに行ったという。

 自前の資金で若者専用の住居も作った。これは国などから補助金をもらって建てると色々な縛りもついてくるかららしい。金も出すが、口も出すというのが、中央集権化の大きな弊害だと思う。

 住民にも、資材を提供するから簡単な工事は自分たちでやってくれと言って、住民の意識改革も進めていった。 

 とかくお役人というものは、経営感覚やコスト意識に乏しい。国や県の指導と言っても上手く行くはずがない(「民活」という言葉が存在するのがその証拠だ)。上手くいかなかった場合にも国や県は誰も責任を取らない。しかし、喜平さは中小企業のオヤジ感覚で村の改革を進めていったのである。

 このような改革は、喜平さの強力なリーダーシップがあったからこそやりとげられたのではないだろうか。全国の過疎に悩んでいる自治体関係者には是非読んで欲しいと思うが、書かれていることを無批判にやるということだけはやめて欲しい。

 どこにもその土地ならではの特徴があり、やることもそれに合わせてモディファイしていかなければならない。どのようにモディファイするかは、自分達の頭で考えなくてはならないのだ。

☆☆☆☆

※初出は「本が好き!」です。
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