文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:青年のための読書クラブ

2014-12-23 11:39:37 | 書評:小説(その他)
青年のための読書クラブ (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社


 可憐な乙女の花園たる聖マリアナ学園に、ぽつんと特異点のように存在する「読書クラブ」。そこは、学園の異形の少女たちが集まる場所。そのクラブに伝わる「読書クラブ誌」 。それは、決して正史には記されることのない珍事を綴った、学園の裏の年代記(クロニコル)だ。「青年のための読書クラブ」(桜庭一樹:新潮社)は、その「読書クラブ誌」に綴られた5つの物語として展開される、連作短編集である。

 本書に収められているのは、聖マリアナ学園と読書クラブに関わる100年の歴史。各章が、読書クラブにおける一つの時代に対応している。ほぼ時代順に並んでいるが、第2章「聖マリアナ消失事件」のみは、いったん過去に戻り、修道女マリアナがフランスからはるばるの日本にやってきて聖マリアナ学園を開いたいきさつと彼女の秘密、読書クラブに関することなどが語られる。他の章で描かれているのは、読書クラブ員が関わった事件。登場人物はいずれも、異形を抱えた少女たち。まさに桜庭ワールド全開である。その他の章についても、簡単に紹介しよう。

 第1章「烏丸紅子恋愛事件」に登場するするのは、ノーブルな美貌に貧乏の臭いを兼ね備えた烏丸紅子と、学園一の才媛でありながら、小太りで醜い妹尾アザミ。アザミは、学園支配を目論み、紅子をプロデュースして、「王子」に仕立てようとするのだが。

 第3章「奇妙な旅人」は、巨乳のお母さんタイプの高島きよ子と、長身、リーゼントヘアでボーイッシュな長谷部時雨が主人公だ。この章では、読書クラブに、学園政治に敗れた、新興勢力の扇子組3名が亡命してくる。

 第4章「一番星」は、成績優秀、知的で神経質な少年のような加藤凛子と凛子になついて読書クラブに入った、英国人の血をひく赤毛の美少女・山口十五夜の物語。十五夜は、突然軽音楽部でロックスターとして活動を始める。

 そして、第5章「ハビトゥス&プラティーク」では、とうとう読書クラブ員は、五月雨永遠一人になってしまう。学園では、少女たちが持ち物検査で取り上げられた携帯や音楽端末をいつの間にか取り戻してくれる謎の人物、「ブーゲンビリアの君」が人気を博していた。この章では、第1章で登場した妹尾アザミが国会議員に出世して登場する。

 タイトルが、「読書クラブ」だけあって、それぞれに文学作品が一つモチーフに使われている。第1章からそれぞれ、シラノ・ド・ベルジュラック」(エドモン・ロスタン)、「哲学的福音南瓜書」(作者不詳)、「マクベス」(シェイクスピア)、「緋文字」(ホーソン)、「紅ハコベ」(バロネス・オルツィ)となっている。いかにも読書家の桜庭さんらしいが、どうも第2章の「哲学的福音南京書」だけは、架空の書物のようである。他の章と比べても驚くような展開を見せるこの章には、架空の本が相応しいということか。それとも、読書家として知られる桜庭さんをもってしても、ふさわしい本が見つからなかったのだろうか。

 桜庭調の特徴的な文体で綴られる、コミカルながらも独特の存在感を持った世界は、突っ込もうと思えば、いくらでも突っ込める。しかし、知らぬ間に、あの不思議な桜庭ワールドにどっぷりと浸かって、抜け出せなくなってしまう。そんな桜庭一樹の魅力が良く出た作品だ。

☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログで同時掲載です。


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