半七捕物帳といえば、最初はホラー風味で始まり、事件が解決した暁には不思議なことは何もなかったというパターンが多いが、これは珍しくホラー要素が残るような作品だ。このタイトルは半七の好きな狂言のタイトル「忍逢春雪解(しのびあうはるのゆきどけ)」からの連想からきているらしい。
内容の方だが、按摩の徳寿は、廓の辰伊勢の寮に呼ばれると君が悪くてゾッとするというのだ。花魁の誰袖(たがそで)に呼ばれていくと、花魁の傍に誰か来て座っている気がするというのである。この時代の按摩は目が不自由な人が多かった。恐らく視覚の代わりに別の感覚が発達していたのだろう。
これに挑むのが半七親分という訳だ。実は、その裏にはトンデモない事件が潜んでいたのである。しかし徳寿の感覚は解き明かされずに不思議なこととして残ったままだ。
本作から読みとれることは、次のようなことかな。
1.女の嫉妬は恐ろしい。
2.悪銭身につかず。
3.世の中には、どうしようもないような人間がいる。
☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。