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「あなたが消えた夜に」 中村文則 毎日新聞出版

2016-01-05 | 読書




図書館に予約したのがやっと来た。
著者のあとがきでこれが16冊目の本だと書いてあった。好きで読んだつもりだったが数えてみると、まだ4冊目なので驚いた。
「スリ」「なにもかも憂鬱な夜に」「去年の冬、きみと別れ」そしてこの「あなたが消えた夜に」。
ただ」「教団X」は読みきらなかった。
主人公の心理についていけなかったし、ストーリーの粘着性につかれた。

それまで読んできたのは、異質な暗部を探るようなテーマ、それを現実に結びつける文章力があり、反面ユニークなユーモアにも興味があった。


前置きはこれくらいで、この作品について。

書き出しの部分は、中村さんらしい表現で、現実と乖離した過去の幻想と夢を今でも引きずっているらしい男、これは面白そうだと楽しみだった。

一転、通り魔の連続殺人が起き、それを捜査する警察官の話になる。目撃者の証言は「コートの男」。これが犯人だろうか。
連続殺人なので被害者も多くそれぞれ何かしら陰のある過去があり、性的な繋がりがある。

似たような名前の女が出てきて整理しながら読まないと少し混乱する。そこで読者のためにうまく登場人物と事件のメモがある。
新聞小説なので、このあたりで整理するのは読者に親切だ。

連続殺人の様であり、模倣犯らしい事件もあり、事件同士繋がりがあるようなないような、話の進展は整理できない段階に入り、捜査中の二人は、地元警察官のため地どりに回されて地道に歩き回り、それぞれの被害者の過去に迫っていく。

この二人の会話が、事件の重さと対照的に軽くユーモラスで気が利いている。

中村さんに珍しい警察物だが、このミステリも納得が出来る。
犯人の動機や、そんな方法を選んだ人間の暗い現実が独特の世界を感じさせる。

こういう心の部分に興味がある読者には面白い作品になっている。
だが、連載小説のためか、密度にむらがあり傑作だとは思えなかった。

登場人物のそれぞれの背景は書きこまれているが、生活の分野としてはそんなに多岐にわたるものではない。だとしたらもう少し整理できないだろうか。

警察機構にも少し触れてるが、溢れている警察小説に比べて、それが重要な部分でないにしても味が薄い。

最終的な印象では少し詰め込みすぎて、逆に読後感の重厚さにかける感じがした。

特殊な環境で隔離されたような生活観が、煎じ詰めれば人間の持つ心理の一部として共感を持ち、重い作品はそれなりに重く、軽妙なリズムもこなす作家なので、この作品はそのどちらともいえない未整理な部分を感じた。

ただ、小理屈をはかなければ、エンタメ小説としては読んでよかった、味わい深い部分ではお得感もありさすがだと思わせてくれた。


「あの人のこと、私尊敬してるんです」
「何で独身なんだろう、モテそうなのに」
「モテるからですよ」
小橋さんはそう言い不適に笑う。



「フロイトが言ってることだけど」
「”錯誤”は人間の単純な過ちではない可能性があるって。その無意識による行為かもしれないって」



ア痛! 面白いフロイトさんをまた読んでみようかな。






  歳が明けた、今年はどのくらい本が読めるだろうか、崩れそうな未読の山を見ながら、日常の時間は整理できても、気分の向きまではなんとも難しいものだと思う。
  それを知った友人がコンサートに誘ってくれた。  
ウィーン・ヨハン・ショトラウス管弦楽団。新装なって初めてフェスティバルホールに入った。階段横にはエスカレーター完備、ついでに歩いてみたお店も明かるく食事もおいしかった。
  ワルツやポルカに少し気分も軽くなり、今日は中村作品の感想を書く元気も出てきた。
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