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「ツナグ」 辻村深月 新潮社

2012-12-28 | 読書




ベストセラーで吉川英治文学賞新人賞受賞作。
一週間ほど前に借りて、期待して読み始めたが、気力が最低のときで、死者と繋がれたくないわ、と読むのを止めてしまった。
今日になって、そうだ「死神の精度」という面白い本を読んだなと思い(別に題名がそこはかとなく似た印象だったに過ぎないけど)読むことにした(笑)

この本は知識不足で、後回しにしてしまっていた。現実離れのしたフィクションではないかと思い直して読了。
映画化もされていたのに、これも知らなかったが。
映画紹介で、作者の「この小説が、必要にしている人のもとに、きちんと届いたらいいな」とメッセージがあった。

私には最初はどうもまっすぐに届かなかったけれど、力のある、感動的ないい作品だった。

ジャンルを問わず本好きの多くの方々にお勧めする。

図書館の本は、『待っている人が多いので出来るだけ早く返してください』に弱い。
そうでしょうそうでしょう、いつもより遅くなったが、メモしてすぐに返しに行くことにする。

* * *

短編集。
主人公は死者と生きている人をつなぐ使者<ツナグ>で、代々受け継がれてきた役目である。
高校生の渋谷歩美は祖母から頼まれて、後継者になる。

祖母からの教え、使者のマニュアル。
「こんにちは、僕がツナグです。」
「使者は生きている人間から依頼を受けます。物理的にはすでに,会うことが不可能になった、死んでしまった人間の誰に会いたいか受け、持ち帰って、対象となった死者に交渉します。」


引き継がせる祖母にはさまざまな理由があるが、それは最終章「使者の心得」に詳しい。


「アイドルの心得」
突然死したアイドルにファンのOLが会う。
沢山の志願者がいると思ったアイドルに思いがけなく会えることになるが。

「長男の心得」
山を売ることにした長男は、権利書のありかが分からない。
場所を知るために,亡くなった母に会いに行く。

「親友の心得」
高校生の二人は親友だった、お互いに半身ずつで一人のような深い付き合いだったが、演劇部で主役の座を巡って、亀裂が入り始める。
一方が自転車の事故で死んでしまった。残った一人は通学路に細工をした覚えが有り慙愧の念に縛られている。
二人は<ツナグ>を通して会うことになる。

「待ち人の心得」
7年前に失踪した女と結婚の約束をしていた。だが偶然道で出会ったその女は偽名で、故郷に帰るといったまま行方が分からなかった。<ツナグ>に頼んで会うということは、男女ともに、生きているかもしれないというかすかな望みを打ち砕き、現実を確かめることだった。

「使者の心得」
<ツナグ>を継ぐと決めた歩美は両親が亡くなっていた。
殺人か、心中か。
幼い記憶では、其の頃の出来事はおぼろげに覚えているだけだった。
祖母は彼の将来のため、<ツナグ>を継がせようとする。
今彼が会いたいのは両親だろうか、歩美の選択は。

* * *

それぞれの章は、人生の暗部を照らし出す光でもあり、不明だった過去の闇を明るみに出すことであったりする。
<ツナグ>ことで、人は救われたり、自分の本性と向き合ったりすることになる。
作者の温かい目に覆われた、よい作品だった。
その上、こういった世界に現実感を持たせる仕組みがうまく処理されて、納得できる作品になっている。面白い。


ネタバレになるかもしれないし、ならないかもしれないが、祖母が<ツナグ>のシステムを説明するシーンは、米ドラマの「ボーンズ」でアンジェラが作り出すPC映像を思い出した(^^)



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