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「夜の蝉」 北村薫 創元推理文庫

2015-06-03 | 読書

第44回日本推理作家協会賞受賞(連作短編賞)




さて北村さんの第二巻「夜の蝉」、日本推理作家協会賞も肯首できる出来上がりだった。読み取ったテーマは「愛」かな、一巻と同じく特に変わりない暮らしの中からの不思議を解決してくれる、円紫さん。三人の友達に加え、お姉さんが出てくる。

朧夜の底
「私」は二年生になった。フランス語で挫折した江美ちゃんと一緒に、正ちゃんのサークル「吟」の発表会に来ている。「吟」は漢詩、和歌、俳句を朗々と吟じる、集まりである。

「観たいか」
もともと言葉遣いの乱暴な正ちゃんだが、これは照れているのである。
「見たい、見たい、顔がみたい」
「こいつめ」 という次第。

サークルが終わって、重いパイプイスを運ぶあんどーさんがカッコイイとひらめいた、探していた露文の小説を持っていた、待ち合わせて借りたら、返すときに「無気力と憂鬱、グロテスクとエロチィシズム」とい歌い文句に血の気が引くほど恥ずかしかった。その上アンドーさんは餡ドーナツ好きから来たニックネームだった。

不思議は正ちゃんが誕生日や血液型を教えない。その理由を円紫んはすらすらと解いてくれた。

六月の花嫁

しとしと、
しとしと、
しとしと、
と小休みなく、無数の白い線が天から地へと降りそそぎ、柔らかに柔らかにこの世を包む。
六月の午後。
円紫さんとのとりとめのない話 落語の題目「雑俳」「西行」「和歌三神」三題噺の「鰍沢」について。

友人の峯さんたちと軽井沢の別荘にいくことになった。車で乗り合わせ簡単に着いた。
そこでおかしなことが起きる。まずチェスのクイーンがなくなり、冷蔵庫のタマゴケースで見つかる、代わりに卵が消えバスルームの棚に。そこにあった小さな鏡が消えて、クーンをしまうはずの箱から見つかる。
なくなったものはないが誰がなぜこんな面倒なゲームを仕掛けたのか。恵美ちゃんが謎解きをしたが何か含みがあった。

そこで恵美ちゃんが一緒に行った吉村さんと将来の約束が出来ているのを知る。


夜の蝉
「私」の姉は凄い美人で、服装も化粧も完璧に仕上げてでかけていく。だが、となりのトコちゃんを自転車の荷台に乗せてお祭りに行った帰り、暗い顔して歩いてくる姉とすれ違った。
姉は好きな人がいた、それが「お化け」に邪魔されて、離れつつあった恋人から誤解を受けたという。
芝居のチケットをめぐる、姉の失恋の謎を縁紫さんが解く。

二人には今まで見えない拘りがあって、打ち解けて話すことがなかった。
だが姉は急に優しくなった。それまでの父親を挟んでのいきさつも、忘れたようだった。
姉と新潟に旅をする。良寛さんの住んだ庵を訪ね、年老いても恋の歌を初々しく読んだことに感激する。
年下の貞心尼に「あづさゆみ春になりなば草の庵を早く訪いませ逢ひたきものを」まっすぐな恋の歌から、二人は気づくことがある。
二人の姉妹が、話すこともなく、お互いに抱いてきた思いが、旅に中でゆるゆると溶けていく
扉の
―― 時の流れに
テーマ色濃く出て、特にこの「秋の蝉」が果たした役割が熱く暖かく浸みてきて感動する。


人は皮や肉では立てない、骨がなければ。そんなごく当たり前のことを確認して、17歳の私はいたく感動した。ふと私が気づいたこと。面白い。

北村さんの柔らかい自然描写と、円紫さんの謎解きの鮮やかさ。時とともに私も大人になっていく。優しく豊かな言葉の重なりが心地いい。

高校の古文の先生が、突然吟じ始めて驚いたことがある。二度目からはみんなも慣れたが、この吟詠というのも、発声や伸ばし方などの系統(派)があると言う。聞きなれるとだだの朗詠ではなく、百人一首の読み上げとも違う声には何か深い思いに届く、先生の声の響きを思い出した。

コメント
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