セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「淵に立つ」(ラストに触れてます)

2016-10-19 00:47:08 | 映画日記/映画雑記
 「淵に立つ」(2016年、日・仏)
   監督 深田晃司
   脚本 深田晃司
   撮影 根岸憲一
   音楽 小野川浩幸
   出演 浅野忠信
       筒井真理子
       古舘寛治
       太賀
       真広佳奈  篠川桃音

 好きな作品じゃなかったので記事にしないつもりでしたが、主演女優の筒井
真理子さんが素晴らしかったので書いてみます。
 この作品、事件と8年後を描いてるのですが筒井さん、その為に撮影中に
13kg増量したとか、「ブルーバレンタイン」で主演の二人もやってたけど、
見上げた役者根性。
 実際、8年前は比較的スリムだったのが現在になると幾らかぽっちゃりして
屈んだ時、Gパンからはみ出た贅肉の弛みがはっきり映るですよね、演技が
上手く清潔なエロスも感じる、本当に良かったです。

 金属加工所を家族経営で続けてる鈴岡利雄・章江夫婦、10歳になる娘・蛍
もいて、外見上、普通の家族だが、夫婦の会話は少なく仮面家族気味でもあ
った。
 そんな或る日、殺人で服役していた八坂が訪ねてくる。
 利雄は昔馴染みで仕事が見つかるまでだからと、章江に諮らず住み込み
で働いてもらう事を決めてしまう。
 直ぐに蛍が懐き、不服だった章江も敬虔なキリスト教徒として「赦し」の実
践と思うようになる。
 やがて実直な八坂に章江の心が乱れ出す・・・。

 仮面家族だった鈴岡家に八坂が侵入した事で亀裂が入り、事件の為、一
旦は結束するも、その影によって今度は完全に崩壊する。
 その過程をまざまざと描いてる作品。
 赤いドレス、赤いTシャツ、「赤」が不吉の前兆として描かれてるのが特徴。
 中盤、ピクニックで自撮りした4人の写真とビフォア・アフターのようなラス
トの4人の無残な姿。
 ホントに観てる間も観終わった後も、味の悪い作品だけど、決して悪い作
品ではない。
 只、僕の嗜好に合わないだけで、キネ旬の評論家達にはウケが良いと思
います。

 一つ気になったのがラスト、川で溺れる章江、蛍、助けに入る利雄と山下
(新入社員)。
 何とか章江を助け上げる利雄、山下は蛍を川岸まで運んだ所で倒れ込む。
 ここで利雄が行う蘇生順が章江→山下→蛍なんですよね。
 自分が担ぎ上げたから一番手近な章江からというのは理にかなってるよ
うだけど、そうでない。
 普通、親なら子供からでしょう、水中で蛍の昇天を暗示するカットがあるけ
ど、例えそうでも親なら娘の蘇生を真っ先にすると思うんですよね。
 利雄にとって事件で変わり果てた娘は重荷でしかなく、愛情の対象ではな
かったという事なのかもしれません。
 そして章江も八坂と利雄に人生を狂わされ、結局、利雄が言い放った罰を
受けた形になり、利雄と同じ罪を背負って生きていく事になる。
 もはや夫婦でいる事は不可能だけど、二人は死ぬまで崖っぷちを歩いて
いかないとならない。
 あ~ぁ、ほんとウンザリするくらいドンヨリした話だわ。

 miriさんにカンヌの「ある視点」ではねと言われましたが、どうも僕は’70年
代からカンヌの作品とは相性が悪いんですよ。(笑)

※現時点で今年の僕の主演女優賞はこの作品の筒井真理子さんと「ブルッ
 クリン」のシアーシャ・ローナン が並立、3番手に「世界一キライなあなたに」
 のエミリア・クラークと「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華さんが並ん
 でる状態かな。

 H28.10.8
 有楽町スバル座
 
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5 コメント

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おはようございます☆ (miri)
2016-10-21 08:31:48
この映画にはご縁がなさそうなので、読ませて頂きました。。。

>miriさんにカンヌの「ある視点」ではねと言われましたが、

本当に申し訳ないです。
私の偏見なので、どうかお許しください。。。

>普通、親なら子供からでしょう、水中で蛍の昇天を暗示するカットがあるけど、例えそうでも親なら娘の蘇生を真っ先にすると思うんですよね。
>利雄にとって事件で変わり果てた娘は重荷でしかなく、愛情の対象ではなかったという事なのかもしれません。

映画を見たわけではないので、ハッキリとした情景は目に浮かびませんが、
鉦鼓亭さんの書かれたように、親なら、そうするのが当然だと思いますし、

私はいろいろな意味での普通ではないお子さんを遠目で拝見したことも何度もありますが、
お父さんはそれはそれはお世話していらしゃる方が多かったですよ。
異形になっても、可愛い子供ですので・・・でもその半面、母子を棄てた男も何人も知っていますが。。。

監督さんどういう人なんでしょうね~?
どこかでチラッとブレッソン監督のようなこと書いてあってそれこそギョッとしました(笑)。

>筒井さん、その為に撮影中に13kg増量したとか

それにしても筒井真理子さんとは、懐かしいお名前で・・・
私の思っている人と同一人物か調べたくらいです(笑)。

昔は普通のトップではない女優さんでテレビドラマでよくお見かけしましたよね~!
そうですか、そんなに努力なさって・・・素晴らしいですネ☆


.
ちょっと体調が (鉦鼓亭)
2016-10-21 22:14:59
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

昨晩から断続的に寒気を感じ節々の痛みも強いので、すいませんがレスは明日以降にさせて下さい。
熱は無いのだけど、時限爆弾を抱えてる感じです。

本当に申し訳ないです。
私の偏見なので、どうかお許しください。。。
>(カンヌへの)偏見と言えば僕も全く同じですよ。(笑)
気になさる必要はありません。

今日は、ここで「おやすみなさい」とさせて頂きます。
(日曜、「七人の侍」を観に行く予定でチケットも予約済み、何とか明日中に治さないと(笑))
大体、回復しました (鉦鼓亭)
2016-10-22 21:10:55
 miriさん、こんばんは
 遅くなりました!

どこかでチラッとブレッソン監督のようなこと
>う~ん、ブレッソンは「やさしい女」しか観てないので何とも言えないです。
敢えて「やさしい女」との共通点を探せば、人間関係への絶対的不信でしょうか。

それにしても筒井真理子さんとは、懐かしいお名前で・・・
>完全に知らない人でした。(汗)
浅野忠信 も、白いYシャツ、きちっとした身なり、礼儀正しい、けれど完全に異質で悪魔の化身のように不気味。
そんな異形の人物を大好演してるのですが、そういう特徴ある役でない普通の主婦の変化を、さりげなく、それでいて観てる者にしっかり印象付ける演技。
素晴らしかったです。
filmarksを見ると浅野さん推しも多いけど、僕と同じ筒井さん推しも相当多いですね。

今日、もう一日早寝してしっかり休養とる積りです。
何せ明日は200分超えの作品ですから。
どうやら途中の休憩時間は有るようなので少し安心。(笑)

おはようございます☆ (miri)
2022-12-08 08:58:47
この映画をとうとう見てしまいました!
明日アップしますので、お時間頂けたらよろしくお願いします。

ホントに仰るように最初から最後まで嫌な作品でしたね!
誰が何を学ぶというのか??? 「ある視点」ね(笑)。

>普通、親なら子供からでしょう、水中で蛍の昇天を暗示するカットがあるけど、例えそうでも親なら娘の蘇生を真っ先にすると思うんですよね。
>利雄にとって事件で変わり果てた娘は重荷でしかなく、愛情の対象ではなかったという事なのかもしれません。

まあ、ああいう場合は冷静にはなれないし、多分あの父親にとっての娘は「以前の可愛い我が子」とは違うのと、

昇天のイメージが「ある種の安心」というか、もうこれで娘は苦しまなくて良い的な?感覚を持ったのかも?

一度疲れて寝転んでから、今度はしゃっきり冷静になって、娘への蘇生を繰り返し・繰り返しして・そこでエンドなので

あの父親としては寝ころんだあとで自分を取り戻し、寂庭さんの仰る「普通の親」を取り戻したような気がします。

もともと殺人共犯で平然と暮らしていたり、相手を騙して結婚したり、刑務所に一度も行かなかったり、不明な描写なので父親の心は私には分かりません。

あんまり思い出したくない作品だったら、今ごろになってコメントしてごめんなさいね☆


.
寒くなりました (寂庭)
2022-12-09 10:30:43
 miriさん、おはようございます
 コメント、ありがとうございます!

作品の内容、流れは覚えてたのですが「はて、あの河原シーンの次のシーンが思い出せない」と調べたら、あそこでENDだった。(笑〜やっぱり、どこか忘れたいような作品だったのでしょう)

「普通の親」
いつまでも蘇生を試みていた所がそうなのかもしれない、でも、誤魔化して生きるのが習い性にってますからねぇ(誰もが程度の差こそあれ誤魔化しながら生きてるけど)、一段落するとイマドキの言葉「無敵の人」になってしまうような気がします。
奥さんに告発されるかは判らないけど、
「この人殺し!」と罵られても
「お前だって娘を殺したのも同然じゃないか」と開き直るかもしれない。
潔癖で自他に厳しく黒か白か曖昧を嫌う奥さんにとって、「自分が娘を殺した」という自責は彼女の最大の弱みになるでしようから。

どちらにしても明るい未来はこれっぽっちも見つけられない気分の悪い作品でした。

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