セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「イヴの総て」と「サンセット大通り」

2015-12-03 22:44:39 | 外国映画
 「イヴの総て」(「All About Eve」、1950年、米)
   監督 ジョセフ・L・マンキーウィッツ
   脚本 ジョセフ・L・マンキーウィッツ
   撮影 ミルトン・クラスナー
   美術 ライル・R・ウィラー   ジョージ・W・デイヴィス
   音楽 アルフレッド・ニューマン
   出演 ベティ・デイヴィス
       アン・バクスター
       ジョージ・サンダース
       セレステ・ホルム

 スタッフ関係者が何の気なしに声を掛けたスターの追っかけ、彼女はそれ
を執念深く待っていたのだ。

 「サンセット大通り」(「Sunset Boulevard」、1950年、米)
   監督 ビリー・ワイルダー
   脚本 チャールズ・ブラケット   ビリー・ワイルダー 
       D・M・マーシュマン・ジュニア
   撮影  ジョン・サイツ
   美術 ハンス・ドライヤー   ジョン・ミーハン
   音楽 フランツ・ワックスマン
   出演 グロリア・スワンソン
       ウィリアム・ホールデン
       エリッヒ・フォン・シュトロハイム
       ナンシー・オルソン
       
 売れない脚本家が借金取りに追われ偶然逃げ込んだ家、そこはサイレン
ト時代の大スター ノーマ・デズモンドの屋敷だった・・・。

 「サンライズサンセット」というミュージカルナンバーが有りますが、「イヴの
総て」が日の出なら「サンセット大通り」はタイトルのままで日没でしょう。
 しかし描かれるのは美しい景色ではなく、イヤな一日が始まりイヤな一日
が終わったというゲンナリしたもの。
 それでも、人が持つ「業」の厭らしさをスターの光と影を使って描いた秀作
だとは思います。
 奇しくも同じ年に公開されアカデミー賞で激突した作品。
 どっちも「うっかり、子泣きジジイを拾ってしまった」顛末を描いています。(笑)

 映画として観易いのは「イヴの総て」でした。
 それは僕にとって想定の範囲だったという事でしょう。
 どんなに厭らしく描いていても限度内で突き抜ける事はなかったし、二つ
程、引っ掛かる所もありました。
 一つはカレンがガソリンを抜いたのを何故イヴが知ってるのかという事(僕
が気付かなかっただけかも、知ってる人がいらっしゃいましたら教えて下さい)、
二つ目はアディスンに図星を差されたイヴが泣き崩れる所。
 特に二つ目、イヴのような強かで機転と目はしの利く女が首根っこ掴まれ
たくらいで(得意のポーズにせよ)泣き崩れる違和感。(これは時代のセイで
しょうが、観ていてちょっとシラけた)
 確かにアカデミーに値する作品ではあるけど、内幕モノの秀作止まりとい
うのが僕の印象です。

 「サンセット大通り」
 毒まみれの作品、後でWikを読み余計にそれを感じました。
 G・スワンソン自身はノーマ・デズモンドのように零落せず、舞台や実業に
勤しんでいて映画と正反対、活発でしたが他がね。
 最早、「鬼畜の所業」と言っていいくらい。
 いつも軽妙洒脱で親しみ易い作品を作ってるB・ワイルダーも、作品を良く
する為には何でもする芸術家の暗黒面を持っていたんだなと、ちょっと安心
しました。
 この作品、毒気の強さに観てるのがシンドクなる所も有るけど、万事ソツ
無く作ってる「イヴの総て」より印象に残ります。
 特にラストの階段シーン、あれ、もう殆どノーマ・・・と言うよりマックスの精
神的心中でしょう。
 DVDで観たからよかったけど、大きなスクリーンで観たら多分、夜中にう
なされます。(笑)

 故・淀川長治さんは「サンセット大通り」派でアカデミー賞の結果に激怒し
たらしいけど、この作品、パラマウント社長も激怒したように映画界に対して
トコトン後ろ指差してますからねぇ。
 「イヴの総て」は冷笑だけど、「サンセット~」は、そっと忍び寄り人のケツ
にいきなり指突っ込むような厭らしさに満ちてる。(下品な例えですいません)
 アカデミー会員の「受け」は悪いと思いますよ。
 「イヴの総て」のラストの多面鏡、イヴのような女(男も)は幾らでも居ると
いう示唆に大した驚きはないけど、「サンセット大通り」のノーマ、マックスの
狂気は背筋に来るものが有りました。
 僕は淀長さんと同じでサンセット派になると思います。
 (どちらも余り再見したくはない(笑))

※ガソリン>多分、旦那が後でピンときて、それを「女房は君の味方でね」と
 か、うっかりイヴに喋った。
 それ以外、想像つかない。
※「サンセット大通り」を元ネタにした手塚治虫氏の「ブラック・ジャック」読ん
 でたから、ファンレターのカラクリ他、既視感が有って、そこは、ちょっと残
 念でした。
※イヴは疲れてたから「あの子」を置いたけど、朝、目覚めたら叩き出すと
 思いますよ。
 たった1年前の自分なんですから。
※G・スワンソンは本作でアカデミーにもノミネート、出演依頼が山のように
 来たそうですが、いずれもノーマの同工異曲。
 「バカにしないで!」とばかり全部蹴っ飛ばしたそうで、性根の座った大ス
 ターと尊敬してしまいます。

 「サンセット大通り」
 H27.10.18
 DVD
 「イヴの総て」
 H27.11.23
 DVD 

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 踏み入れば 出るに出られぬ 芥子(ケシ)畑 甘き香りに 身は腐りゆく

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (宵乃)
2015-12-04 14:08:37
おぉ、ごめんなさい。「サンセット大通り」は未見なので、飛び飛びにしか読めませんでした。

>二つ目はアディスンに図星を差されたイヴが泣き崩れる所。

ここはなんとなくしか覚えてないけど、私もちょっと考えてしまった覚えがあります。
彼女も内心いっぱいいっぱいだったのか、それともプライドが高すぎて耐えられなかったのか、いちおう納得させましたが。

>※イヴは疲れてたから「あの子」を置いたけど、朝、目覚めたら叩き出すと思いますよ。

それを上手く切り抜けられるか、モンローの腕の見せ所ですね。
そしてハイエナのように集まってくるライバルたちとのご機嫌取り合戦が始まる…(笑)
返信する
コメントを有難うございました☆ (miri)
2015-12-04 17:10:19
やっぱり「イヴの総て」は、もうすっからかんで何も出てきません・泣笑。
こちらの記事では主に「サンセット大通り」についてお話したいと思います☆

その前に「イヴの総て」ですが、覚えている場面に出て来るのは女性ばかりなのですよね~。
自分の感想文を読んでもその重要な男性出演者の事が目にも浮かばなくて・笑。
モンローは中盤に出てきますよね? ラストは別の方だと思います。
このくらいです・・・。

> 「サンライズサンセット」というミュージカルナンバーが有りますが、

「屋根の上のバイオリン弾き」ですよね? 何故ココに? ビックリ仰天!

> 「サンセット大通り」 毒まみれの作品、後でWikを読み余計にそれを感じました。

毒まみれ・・・笑。

> G・スワンソン自身はノーマ・デズモンドのように零落せず、舞台や実業に
>勤しんでいて映画と正反対、活発でしたが他がね。 最早、「鬼畜の所業」と言っていいくらい。

鬼畜・・・笑。

> いつも軽妙洒脱で親しみ易い作品を作ってるB・ワイルダーも、作品を良く
>する為には何でもする芸術家の暗黒面を持っていたんだなと、ちょっと安心しました。

私が この作品をよく覚えているのは、監督のことで、それまでは あまり良い印象を持っていなかった方なので
やっぱ名監督なんだな~って、初めて知った的で、その年にあと5作品くらい見て良い作品ばかりで、
本当に良いきっかけをくれたと感謝している作品だからなのです☆
映画を見ないでいた長い間にBS2でオンエアしたのを録画だけしてあったのです・笑。

> この作品、毒気の強さに観てるのがシンドクなる所も有るけど、

あとは、撮影所のシーンで、大好きな監督のセシル・B・デミルさん本人が出ていた事です♪
この毒まみれの鬼畜の暗黒映画の中で、あのシーンだけ(私的には)ピカッと光っていました☆

> 特にラストの階段シーン、あれ、もう殆どノーマ・・・と言うよりマックスの精神的心中でしょう。

そうなんですか~! そうかもしれませんね~?
いつか再見したらそこのところ注意して見たいです☆

> DVDで観たからよかったけど、大きなスクリーンで観たら多分、夜中にうなされます。(笑)

仰る通り!!!

> 僕は淀長さんと同じでサンセット派になると思います。 (どちらも余り再見したくはない(笑))

私も「サンセット大通り」の方が好きです☆ いつか再見しても良いと思いますが
「イヴの総て」はもう再見する事はないと思います。 

やはり名作でも・初見直後に感激していても、
自分のこころに響かない作品は忘れてゆくのですよね・・・
そしていくら嫌な作品と分かっていても、響く作品は、いつかは再見したいと思えますよね~♪


.
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2015-12-04 22:54:09
 宵乃さん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

彼女も内心いっぱいいっぱいだったのか、それともプライドが高すぎて耐えられなかったのか
>いっぱいいっぱい、だったでしょうね。
でも、猫の皮を被ったライオン。今の感覚からすると、あんなにわんわん泣くのは違和感がありました。
あの女なら、相手の懐に飛び込んで、こっちも首根っこ捕まえてやる!と泣く振りして「あの手この手」を考えそうなんですけどねぇ。(笑)

そしてハイエナのように集まってくるライバルたちとのご機嫌取り合戦が始まる…(笑)
>全く、そのとおり。
スポットライトと拍手、名声、そして女王様扱いしてくれる取り巻き・・・。
麻薬ですよね。
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2015-12-04 23:43:30
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

重要な男性出演者の事が目にも浮かばなくて
>演出家と脚本家は顔はちがっても雰囲気似てて、存在感も女性陣に較べると(マーゴの付き人にさえ~「裏窓」のアノ人)薄いですから。
でも、アディスン(J・サンダース)だけは忘れそうもないです。

本当に良いきっかけをくれたと感謝している作品だからなのです☆
>僕は陽気な作品ばかり観ていたから、かなり吃驚しました。
本当は翌週か翌々週に「イヴの総て」を観るつもりだったのですが、毒気に当てられて1ヶ月以上、間が空いてしまいました。(笑)

この毒まみれの鬼畜の暗黒映画の中で、あのシーンだけ(私的には)ピカッと光っていました☆
>デミルさんとシュトロハイム だけがノーマに優しかったですね
かなり困り顔だったけど。
(でも、デミルとシュトロハイム って昔は同格の監督だったんですよね、それが片や相変わらず一流監督、片や執事兼運転手ですから、やっぱり鬼畜(笑))
作品ではノーマの車がパラマウントの入り口で立ち往生しますが、撮影(スチール写真)で久しぶりにG・スワンソンがパラマウントに来た時は名誉会長(創業者)だったA・ズーカーが直立不動で出迎えたそうですよ。

そうなんですか~! そうかもしれませんね~?
>後追い心中みたいなものですが。(笑)
あの後も、彼がノーマの財産管理や裁判、入院、ずっと面倒をみるんでしょうが、あの階段シーンの後は二人とも「生きる幽霊」みたいな感じになるんじゃないでしょうか。
(それまでも「生きる幽霊」だったけど)

私も「サンセット大通り」の方が好きです☆ いつか再見しても良いと思いますが
そしていくら嫌な作品と分かっていても、響く作品は、いつかは再見したいと思えますよね~♪
>僕も、そうなる気がします。

今年中に、あと何本観れるか。
何とか予定してる3本は観てみたいと思っています。
お互い、健康に気をつけて新年を迎えましょう。
治りかけ、ご用心ですよ。
お大事に。

 
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