セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「新幹線大爆破」

2015-11-02 22:53:39 | 邦画
 東映嫌いが災いして見逃してた作品。

 「新幹線大爆破」(1975年、日本)
   監督 佐藤純彌
   脚本 小野竜之助   佐藤純彌
   原案 加藤阿礼
   撮影 飯村雅彦
   美術 中村修一郎
   音楽 青山八郎
   出演 高倉健
       宇津井健
       山本圭
       千葉真一

 工場の倒産で全てを失った沖田(高倉)、ふと知り合った学生運動家のなれ
の果て・古河(山本)、売血で命を繋いでた所を沖田に拾われた大城(織田)。
 その3人が国家相手に大博打に出る・・・。 

 探せば疵は幾つも有るけど、エンタティーメント作品として合格点ラインは軽
く超えてると思います。
 何よりハリウッドの大ヒット作「スピード」を20年先取りしてるのが痛快。
 
 主犯・高倉健と共犯・山本圭、織田あきらの回想シーン、緩急の付け所となっ
ていて僕は上手いと思います。
 この関係性を最小限の描写で効果的に描いてるのが好き、例えれば「冒険
者たち」における3人の冒頭の描写でしょうか。
 まぁ、共犯者の心理は解るけど主犯・沖田の動機付けは若干弱く、高倉健の
個性に頼りすぎてますが。
 (この作品、意図の有る無しに関わらず「冒険者たち」からリリシズムを抜き、
その替わりに日本的湿り気と泥臭さを加えた感じ、その意味で「冒険者たち」や
「明日に向かって撃て」の系譜に連なる作品、そんな気がします)

 僕は面白かった。これは間違いないので強調しますが、それでもラストシーン
がねぇ。(笑)
 ラストは、その一つ前のカットじゃないかな。
 沖田の上を飛んで行く飛行機、そこに○○。
 「明日に向かって撃て」より「みじかくも美しく燃え」のように主役を映さない方
が効果的だと・・・。
 そこが一番残念。
 他にも「一人も殺さず国から金を奪う」目的なのに、そう言ってる沖田が田坂
都の死産と重篤にリアクションを見せない(犯人側に犠牲が出てたにしても、そ
れは自業自得で乗客には何の罪もない)のは気になったし、元女房が写真を全
て焼却したので顔が不明というのは相当苦しい。
 山本圭の北海道の実家にはすぐ刑事が行くのに、沖田に実家は無いのか。
(笑)
 名前・住所が割れた時点で、運転免許更新申請書が警察に写真付きで有る
でしょ。 
 何かというと「私が行きます」と刑事役の青木義朗がフル回転するのも、ちょ
っと・・・。
 これ犯人側(高倉)、国鉄側(宇津井)の軸は定まってるのに、警察側の軸が
定まってないのが遠因。
 人を出し過ぎてアイドルグループの4人という美味しい素材を無駄にしてるし。
 僕だったら名古屋を通過する時、
 ア「通過しちゃったよ、でも、これで少しは眠れるな」
 マネージャー「バカ、ずっと目が開かなくなってもいいのか!」
 ア「それも、いいじゃない、なァ」
 くらいの台詞を入れちゃう。(笑)
 (田坂都にしても、死産・重篤という台本上の要件を満たした後、一切出てこ
ない。どうもドライとウェットのバランスが悪い)
 他にもいろいろ有るけど、話の推進力の馬力が大きいから致命傷にはなって
ないし、限られた時間内という切迫感が上手く疵をスルーさせてると思います。

 役者陣、高倉健は思ってたより随分良かった。
 でも一番印象に残ったのは過激派くずれのインテリを演じた山本圭。
 第一候補は原田芳雄だったらしいけど、山本圭の方が断然適役。
 あの位置は情念ではなく知性の方がいい、原田芳雄だと知能犯グループに
ならず単なるアナーキーになってしまい、知力vs知力というこの作品の面白見
が半減してしまう。
 宇津井健は上手いと思った事のない人だけど、この作品では嵌ってました。
 後、東映の気風なのか官房副長官の人が軽すぎ。
 お陰で政府、国鉄、警察、犯人のバランスが崩れてしまってる、力作だけに勿
体ない。

 欠点ばかり言い募った記事になりましたが、最初に書いたようにスケールの
大きなエンタティーメント作品に仕上がってると思います。
 僕は充分に楽しめました。

※wik見ても出てないけど、乗客のワンサの中に若山富三郎居るよね。
※僕の世代だと「特別機動捜査隊」+「Gメン75」+「ザ・ガードマン」な感じ。(笑)
※冒頭、貨車に仕掛ける素振りを見せながら、実際はキューロク(9600型蒸気
 機関車)のテンダー(機関車に付いてる炭水車)後部に仕掛けられたとはこれ
 如何に? (国鉄非協力だけど撮影は私営炭鉱線、何とかなる)
※品とセンスをまるで感じないクレジット、酷い。
※古河(山本)の住所が隣町の東○○5丁目、何処かと思ったら小学校(母校)の
 坂の下、同級生の住まいはあの辺りがメインで、あのアパートから50mくらい
 奥に初恋?の子が住んでた。(笑)

 2015、11.1
 TOHOシネマズ日本橋
 
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5 コメント

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こんにちは☆ (miri)
2015-11-03 13:57:22
> 探せば疵は幾つも有るけど、エンタティーメント作品として合格点ラインは軽く超えてると思います。

仰るとおりですね~!

> まぁ、共犯者の心理は解るけど主犯・沖田の動機付けは若干弱く、高倉健の個性に頼りすぎてますが。

まぁ主演ですし、その名前で人を呼ぶので仕方ないか?とも思います(笑)。
 
>他にもいろいろ有るけど、話の推進力の馬力が大きいから致命傷にはなってないし、
>限られた時間内という切迫感が上手く疵をスルーさせてると思います。

そういう作品ですよね~。

> 宇津井健は上手いと思った事のない人だけど、

ほーほほほほほほっ!!!

>この作品では嵌ってました。

宇津井さんも浮かばれる事でしょう!

あんまり覚えていなくてお話も出来なくて申し訳ありません・・・。
11月なのであちこちで健さんのオンエアがあるのですが、映画館もそういう意味合いでしょうか?
スクリーンであの模型の新幹線を見たらどんな感じかしら?(笑)


.
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2015-11-03 19:50:04
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

疵、粗の方から見ると「新幹線大爆笑」になってしまうかも。
(突然の柔道部、突然の火事etc)

宇津井さんも浮かばれる事でしょう!
>TVで見る分ならいいけど、ちょっとクサイ感じが・・・。
でも、この作品は大仕掛けでパワーがあるから上手く欠点が隠れた気がします。

スクリーンであの模型の新幹線を見たらどんな感じかしら?(笑)
>僕も(笑)
でも70年代、特撮の苦手な東映を考慮すれば目を瞑ります。
(東宝だって50歩100歩だけど)
セットで作った車内は見事だったと思います。
コメント&TBありがとうございました (宵乃)
2015-11-04 14:59:03
>これ犯人側(高倉)、国鉄側(宇津井)の軸は定まってるのに、警察側の軸が定まってないのが遠因。

ホント、ライバルがしっかりしてくれないと締まらないですよね。この作品の警察は、マヌケだったという印象しか残ってません(汗)

急いで仕上げたのかわかりませんが、じっくり練って作っていたら、邦画の歴史に残る大作になってたかもしれませんね。健さんのおかげで、最近は知られるようになってきたみたいですが…もったいない!
お身体、大丈夫ですか (鉦鼓亭)
2015-11-04 22:37:33
 宵乃さん、いらっしゃいませ!
 コメントありがとうございます

ホント、ライバルがしっかりしてくれないと締まらないですよね。この作品の警察は、マヌケだったという印象しか残ってません(汗)
>東映ヤクザ映画の警察は権力振り回すだけのマヌケで、いつも烏合の衆。
マトモな作品でも、そのクセが抜けなかったようで。
最初は割とマトモだったけど、後にいくほど「何じゃ、そりゃ」(笑)

健さんのおかげで、最近は知られるようになってきたみたいですが
>1975年度キネマ旬報、専門家7位、読者投票1位。
当時の映画ファンは皆知ってたけど、女子供を相手にしてなかった東映がツケを払わされた感じ。
(miriさんも仰ってたけど、当時、東映(&日活)の直営って女性は入りにくい感じだったんです)
映画ファンだけ知ってても20年すれば忘れられちゃうんですね。

体調よくない中、ありがとうございます。
治りかけは大事ですから、お気をつけて!
追伸 (鉦鼓亭)
2015-11-04 22:41:48
この作品や「天国と地獄」は模倣犯が出やすいから、地上波じゃオンエアしにくく、それも認知度に影響したと思います。
「太陽を盗んだ男」も、そうかも。

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