セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「七人の侍」その2

2013-01-05 22:16:20 | 邦画
 「腕を磨く、そして戦に出て手柄を立てる、それから一国一城の主になる、
しかしな、そう考えてる内にいつの間にか、ほれ、このように髪も白くなる、
そしてな、その時には親もなければ身内もない」

 今回見直して一番「身に沁みた」台詞。
 大概の男は、このように夢を見て、このような顛末を迎えて一生を終える
んだと思います。

 特に好きなシーン>
・「~人を守ってこそ自分も守れる、己の事ばかり考える奴は、己をも滅ぼ
す奴だ!」のシーン。
・燃える水車小屋をバックに菊千代が「これは、俺だあ!!」と叫ぶシーン。
・勘兵衛が雨の中、弓を射る所。

 企画のお陰で約2年振りくらいに全編通しで見返しました、今回くらい、農
民目線で観れた事は無かったです、百姓達の台詞が解り過ぎるくらい解っ
て、やっぱり自分は侍になりたかった菊千代で、菊千代ほどの根性もない
与平で、せめて利吉ほどのガッツを持っていたかった・・・。(女房を野武士
に盗られるのは勘弁だけど)
 役者達は全てが印象に残り、評価も定まっていると思うので、余り取り上
げられない人を一人だけピック・アップします。
 利吉の女房役・島崎雪子、「この世に一遍の希望も持たない」絶望感を
感じさせる演技は素晴らしいと思います、ヒロインの津島恵子と対でテロッ
プに表示されたのも頷ける演技でした。
 (火傷の代償とも・・・)

 また、今回は今迄で一番、周りに視線が行き届いたと思います、後ろに
居る人達の表情、特に皆の目。
 みんな、本当に役に応じたそれぞれの表情をしていて誰一人いい加減
な事はしていないし、目がそれぞれの思いを台詞以上(例え台詞がない大
勢の役でも)に語っている、やっぱり、これは凄いことだと思います。

 本当にね、この映画の感想は一言しかないんです、繰り返しになるけど。
 「戦国時代に行って来ました」

※「七人の侍」の中では加東大介の演じた七郎次が好きですね、あんな侍
 になりたい。
※利吉を演じた土屋嘉男は完全な新人、俳優座のトイレで出合ったのを連
 れてきたそうですけど、監督の見抜く力には恐れ入ります。
 その土屋さん、黒澤さんに「僕の役はどんな役なんでしょうか?」と聞いた
 ら、「引っくり返せば主役」と言われたとか、「成る程ね」(笑)
 ちなみに、あの利吉役、最初は木村功(勝四郎)の予定だったとか。
※最初の方で勘兵衛に殺される泥棒は初代・黄門さま。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 黒澤明と早坂文雄

 「僕はツンボで、早坂は目盲、そんな二人が懸命にガチャガチャやってここ
まで来たんです、この穴は10年は埋められないですよ」
 「七人の侍」の次作「生きものの記録」の完成を待たずに病没した早坂文雄
氏への黒澤の言葉。
 (実際は、早坂の弟子、佐藤勝が立派に穴を埋めましたが)
 個性の強すぎる二人だから会社も周囲も「絶対、上手くいかない」と思われ
てたのが、最高の結び付きになり、「酔いどれ天使」、「野良犬」、「羅生門」、
「生きる」と傑作を作り出していきます。

 早坂文雄>戦前から活動を初め、伊福部昭氏と共に日本独自の音楽を追
求した人。
 (西洋音楽の模倣ではない、日本固有の音楽を目指した。影響下には武満
徹、黛敏郎、山本直純らが居る)

 「七人の侍」は黒澤明監督の最高傑作であると共に、早坂文雄氏にとっても
傑作だったと思います。
 「60日かけて300枚のデッサンを書いた」と言われる「七人の侍」のスコア
は、その苦労を感じることのない、アッサリ、サッパリした非常にシンプルなも
のです。
 ハーモニーの厚い曲を書いたものの、平安朝の華美がない質実剛健でリア
ルな戦国時代にシックリせず、必要最低限の楽器のみに減らし、言わば「裸の
オーケストレーション」(秋山邦治氏)、むき出しの「メロディ」で勝負しました。
 (「用心棒」で佐藤勝が同じ事をしてます)
 「七人の侍」の音楽構成は、非常に古典的なライト・モチーフで作られていま
す。
 「野武士のテーマ」>タイトルバックにも使われている打楽器主体のメロディ
(最後の方でバシッバシッと鳴ってるのは大弓の弦の音)。
 「農民のテーマ」>男声ハミングのみで作られた重く暗い曲。
 「勘兵衛のテーマ/侍のテーマ」>「七人の侍」といえばこのメロディ、いろん
な形となって演奏されます。
 「菊千代のマンボ」>侍映画にコンガ?憎めないはみ出し者「菊千代」にぴっ
たりな陽気でおどけた音楽。
 「志乃のテーマ」>本線のメロディは、フルートだったりハープだったり、監督
好みのロマンティックで哀しい曲。
 これら5つのメロディが、登場人物達、あるいは場面にに合わせて効果的に
使われています。
 (この他に、刈入れ、田植え、山塞への攻撃の際流れる「西部劇」みたいな
曲もあります)
 僕は、勿論「勘兵衛のテーマ」が大好きですけど、監督が尤も早坂らしいと評
し、出棺の際に流されたという「志乃のテーマ」も大好きです、甘い旋律なのに
淋しくて、たおやかなのに凛とした強さがあって、そして哀しい。
 (ついでに、西部劇」みたいな曲も好きですが~笑)

 今回は無理でも、いつか、語られる事の少ない早坂氏の音楽にも耳を傾け
て映画を観て頂けると幸いです。

※早坂氏の曲では「羅生門」に使われた「真砂のボレロ」が一番好きです。
 ラベルの「ボレロ」の真似と酷評される事の多い曲ですが、「ボレロ」は3/4拍
 子のリズムと反復される主題が特徴の形式で、「真砂のボレロ」は決して物真
 似ではない早坂の「ボレロ」だと思っています。

最新の画像もっと見る

12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (宵乃)
2013-01-06 09:59:47
レビュー一番乗りありがとうございます!
昨日1/3までしか観られなかったんですけど、わたしも勘兵衛が勝四郎に言ったセリフの良さをしみじみ感じてたところですよ~。
みんなの目の演技もホント素晴らしいですよね。百姓が主役だというのも鑑賞二度目にしてやっとわかった気がします。

>「戦国時代に行って来ました」

ですね!
私はこれからまたタイムスリップするつもりですが、利吉の嫁さんと音楽にも注目して鑑賞します。
今回もご参加ありがとうございました♪
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2013-01-07 00:15:00
 宵乃さん、コメントありがとうございます!

「戦国時代へ行って来ました」>演出にしろ、演技にしろ、雰囲気にしろ、何を書いても結局行き着く所はソコなんです。(僕にとっては)

町の木賃宿の片隅で琵琶を弾いていた老人>上山草人という俳優さんですが、彼は戦前のハリウッドで(サイレント時代)フェアバンクスと人気を二分した大スターだったんですよ。
マンガ「ポパイ」のモデルと言われてる人は何人も居るのですが、彼もその一人らしいです。
(サイレント時代の大スターは早川雪舟が有名ですが、全盛時は彼の方が上かも)

今年も企画にはなるべく参加したいと思っています、ありがとうございました。

返信する
こんばんは☆ (miri)
2013-01-07 20:20:40
今日鑑賞して、記事を(初見時に追記)アップしました☆
またお時間頂けたらお願いします☆

こちらの記事を読ませて頂いて、
本当にこの作品や監督を愛していらっしゃる事が伝わってきました。

私は戦国時代ではなく、昭和に旅立った感じでした。
ご一緒できて嬉しかったです。
返信する
いらっしゃいませ (鉦鼓亭)
2013-01-07 22:07:49
 miriさん、コメントありがとうございます!

本当にこの作品や監督を愛して>そうですね、多分、miriさんがJ・ルノワール監督やチャップリンを愛するのと同じくらいだと思います。

この作品について書くのは、本当にシンドイ。(笑)

ご一緒できて>こちらこそ。
今迄、見えてなかったものも見えてきて・・・、とても楽しかったです。
返信する
Unknown (きみやす)
2013-01-09 19:39:32
鉦鼓亭さんこんばんは
連投コメント 申し訳ありません。

お書きになられている通り

>みんな、本当に役に応じたそれぞれの表情をしていて誰一人いい加減な事はしていないし、目がそれぞれの思いを台詞以上(例え台詞がない大勢の役でも)に語っている、やっぱり、これは凄いことだと思います。

ただ、その分、観ているうちに単なる面白さだけでなく
重さやシンドさを感じるようにもなりました。

結局の所、良くも悪くも、勘兵衛の戦は今回も“負け”であった訳でしょうし、菊千代も○でもなく“た”でもなく△で死んでいってしまいました。

侍たち、勝四郎でさえも、ラストでこの村に留まれないことが、描かれます。
“狡兎死して良狗煮らる”とすると少々大げさですが
野武士が存在しない今、侍の存在理由も同時になくなり、むしろ、農民たちからすると後々害とみなされるかもしれませんね。

そこら辺が国民性なのか、『荒野の七人』のチコのように村に残ったり、『シェーン』のように引き止められないところが
勘ぐり過ぎかもしれませんが

黒澤明の容赦なく描きつくす“業”のようなものを感じてしまいました。

それでは。
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2013-01-10 00:06:36
 きみやすさん、コメントありがとうございます。
 3連投でもかまいませんよ

重さやシンドさを感じる>そうですね、全盛時の黒澤監督の作品は例え娯楽作品でも重い剛速球なので、観終わるとグッタリしてしまいます。
だから、観るにはちょっと気構えが要ると思います。
でも、チラッと観ただけで直ぐ引き込まれてしまって、中々、途中で抜けられないんですよ。(笑)

“狡兎死して良狗煮らる”>これは、きみやすさんの仰るとおりだと思います。

国民性>階級世界を逃れてアメリカを作った子孫と、ほんの60年前まで厳格な階級の中で生きてきた日本人の違いなんでしょうね。
どこまで行っても交じり合えない平行線。
そこまで描いてるから厚みが出たんだと思います。
(この辺は、好みの問題かもしれません)

描きつくす“業”>それが有った「酔いどれ天使」~「赤ひげ」までの作品は素晴らしかった。
個人的な考えですけど、「影武者」以降の黒澤監督は現実社会への失望からなのか、人間を描かず観念の世界へ行ってしまった・・・、だから、どうしても僕は「影武者」以降の黒澤監督の世界には馴染めません。
一番の原因は小国英雄さんが居なくなったからだと思います。
(既に二人の乖離が拡がりすぎて、接点を見出せなくなった結果なのかも)
そんな事も「業」の持つ負の側面、なのかもしれませんね。


返信する
コメントの続きです (しずく)
2013-01-23 16:42:32
私のブログのコメントには字数制限がありますので、続きは鉦鼓亭さんのブログへコメントさせて戴きました。前半部は私のブログでお読み下さいね。

>あの利吉役、最初は木村功(勝四郎)の予定だったとか

納得しましたが、利吉を演じた土屋嘉男は完全な新人とは驚きです。巧かったですね。

>勝四郎を演じた木村功も当時30過ぎで、映画を観た奥さんが「詐欺師だわ」と言ったそうです

初々しい演技は見事でしたが、如何せん、年には勝てず、薹が立ち過ぎているように感じられました{{s370}}。

「~人を守ってこそ自分も守れる、己の事ばかり考える奴は、己をも滅ぼす奴だ!」は名言ですよね。

>利吉の女房役・島崎雪子、「この世に一遍の希望も持たない」絶望感を感じさせる演技は素晴らしいと思います

同感です。最近亡くなられた千石さんを見つけられなかったが残念でした。

黒澤監督作品は触れることなく来ていますが、おぼろげな記憶が今甦りました。当地長崎を舞台にした「八月の狂詩曲」で、雨の中、鉦ばあちゃんが傘を挿すラストシーンは忘れられません。
返信する
こんばんは! (鉦鼓亭)
2013-01-23 23:32:36
 しずくさん、コメントありがとうございます

野菊>そうですか、ああいう所には群生しないんですね。
勉強になります。
(勝四郎と菊千代が勘兵衛の後を追いかける街道のシーンでも、両脇に花が一杯~監督、「花は嫌いだ!」って言ってるらしいけど、「黒澤映画に花は付き物」は衆知のコト(笑))

「七人の侍」の面白い所は、人それぞれに好きな侍がいて、それが、観た回数や年齢で変化していくんですよね。
僕は久蔵→勘兵衛→七郎次でした。(今のところ~笑)

土屋嘉男は完全な新人>俳優座の研究生を2年やって正式の劇団員になった日に東宝に呼ばれ、そのまま「七人の侍」に採用されたとか。
舞台経験はあったのでしょうが、映画は初出演。

「七人の侍」は観れば観る程、名言がテンコ盛りだと思います。

島崎雪子の表情>初見の時以来、頭から離れません。

千石規子>勘兵衛が最初に登場する、盗人立て篭もり事件の際、「おにぎり」持って走り出てきた豪農の嫁です。
(千石さんは黒澤監督作品では「静かなる決闘」、「野良犬」(小さな役だけど)の演技が素晴らしかった)

(木村功)薹が立ち過ぎて>それは、言いっこナシ。(笑)

 空澄んで 黄金の原を 吹き渡る
  微笑むような 一陣の風
返信する
添えられた一首に (しずく)
2013-01-25 11:41:42
空澄んで 黄金の原を 吹き渡る
  微笑むような 一陣の風

おお、素敵な歌をありがとうございます。

>「七人の侍」の面白い所は、人それぞれに好きな侍がいて、それが、観た回数や年齢で変化していくんですよね。
僕は久蔵→勘兵衛→七郎次でした。

初回だったからでしょうか、私も久蔵に惹かれました。次点は七郎次あたり。

最近、ラジオで作家・平野啓一郎さんが「分人主義」という言葉を使われていて興味を覚えました。人間は分割不可能な「個人」(in・dividual)でなく、分割可能な複数の「分人」(dividual)で構成されていると捉える考え方です。http://d.hatena.ne.jp/modmasa/20070525

その影響からでしょうか、七人の侍たちの中にそれぞれの私が投影されているようでもありました。
拙い一首を最後に・・・。
  
  久蔵の早く去り逝く展開に心痛みぬ世の習いとて



返信する
拙いなんて、とんでもないです (鉦鼓亭)
2013-01-26 00:18:47
 しずくさん、こんばんは

 久蔵の早く去り逝く展開に心痛みぬ世の習いとて

返歌、ありがとうございます!
やるせない無常観を感じる素敵な歌ですね。
「幸福の黄色いハンカチ」の記事で歌を拝見して、「何ていい歌を書く方なんだろう」と思っていました。
自分のは我流の拙い歌なので、ひと様にお見せするようなものではないのですが、
故・山本夏彦氏によれば江戸時代までは、上は畏き辺りから下は長屋の熊さん、八っつあんまで、多くの人が巧拙にかかわらず挨拶代わりに歌を詠んでいたとか。
ならば、下手でも、さしたる恥ではなかろうと・・・。(汗)
(「歌のやりとり」をしたのは、今日が初めてなんですよ)

「分人」>僕自身、かなりカメレオン的性格ですから(笑)、解る気がします。
返信する

コメントを投稿