セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「風立ちぬ」(2013年)

2013-10-06 16:39:36 | 邦画
 「風立ちぬ」(2013年・日本)
   監督 宮崎駿
   原作・脚本 宮崎駿
   作画監督 高坂希太郎
   音楽 久石譲
   主題歌 荒井由美「ひこうき雲」
   アニメーション製作 スタジオ・ジプリ
   声  庵野秀明
       瀧本美織
       野村萬斎 

 予め、この項を書く前に「おことわり」しておきます。
 僕は、それ程、宮崎さんの作品を観ていません。
 好きなのはTVで初代の「ルパン三世」、「未来少年コナン」、映画で「ルパン
三世 カリオストロの城」
 「風の谷のナウシカ」以降の宮崎さんが描く世界は、僕にとって「遠い世界」
の事だと感じています。
 (「魔女の宅急便」、「となりのトトロ」、「千と千尋の物語」はTVで観ています)
 だから「よく知りもしないで」と言われるだろう事は承知の上で、この項を書き
ます。

 「風立ちぬ いざ生きめやも」
 本作は堀辰雄の小説からヒロインを借り出し(名前は別作品)、百恵&友和
の「風立ちぬ」の時代へ移して、そこへ実在の人物「堀越二郎」と共演させた
作品です。
 その融合性に、さほど無理はないと感じました。
 人物の掘り下げは深く無いと思います、その為、ニ郎と奈穂子を通して大正
から昭和初期への「「時間のスケッチ」という側面が色濃く出ていました。
 ともすれば、全編を覆う、この「時代のスケッチ」に目を奪われてしまうのです
が、その陰に隠れるように展開される次郎と奈穂子の「純愛物語」は、宮崎監
督が持つロマンティズム、センチメントが綺麗に出ていて胸を打つものがある
と思います。
 実際、この作品が良くなるのは、ニ郎と奈穂子が再会する1時間を過ぎた辺
りから。
 でも、この二人の「純愛物語」にしても「スケッチ」である事に変わりはありま
せん。
 時代の変動、夢の追求、純愛。
 テーマが分散して、視点が定まらない感じもしますが、だからこそ、スケッチ・
タッチで統一したのではないでしょうか。
 その成果は、完全に成功したとは思わないけど失敗では無かった、と僕は
思います。

 この映画を観て一番感じた事は、宮崎監督が描く世界の到達点であり、こ
れまでの「集大成」、でした。
 その点で、僕の好きな黒澤監督の「赤ひげ」と似てると思います。
 これ以上創るなら、新たな世界へ進むしかない・・・。
 宮崎監督が描く世界の到達点。
 「日本が美しかった時代」、「飛鳥の昔より自然を大事にし、共存してきた人
達」、「貧しくても心が豊かだった頃」、「そして夢を持つ事」それを忘れないで
欲しい!
 一種の「遺言」とも言えるような映画。

 でも、監督。
 「貴方の描く世界」は、トロイやポンペイと同じで時代の塵に埋まってしまった
のです。
 例え発掘したとしても、普通の人達には「見学」でしかない。
 「今の時代」を生きていくには、今仕様をズタズタになりながら、嫌でも身に付
けて暮らしていくしかないんですよ。
 勿論、「忘れる」訳ではないのだけれど、電話が普及したら電報の世界へ戻
れないのです。
 それと、監督は以前、当時の多くの人が持っていた「左翼系思想」の持ち主
と理解してたけど、それなのに、いつも、ヒロインが王女様みたいな高貴な身
分の人とか、食うに困らない裕福な人達、身の回りは「召使」がやってくれる人
達、ご自身の「考え方」と正反対の人達が多いんですよね。
 僕は「左翼嫌い」だけど、宮崎監督の「四民平等」の世界って、上からの「下
げ渡し」に感じて、いつも抵抗感がありました。
 庶民なら、絵に描いたような誠実で真面目な一家だし。
 児童文学の最良の作者だと思うけど、現実との妥協点を拒絶してる気がし
ます。(「児童文学」を馬鹿にしてる訳ではないので、誤解しないで下さいね、
他文学と対等の世界です)
 「疲れちまった、この俺に、今日もホコリが降り積もる」~そんな自分が悪い
のは重々承知。(汗)

 ここに書いた事は、あくまで個人的「好き嫌い」を土台にして書きました。
 「風立ちぬ」という作品自体は、高い評価を得るべき作品だと思います。
コメント (2)
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