「ある男」
平野啓一郎 著
弁護士である城戸章良。
以前に関わった女性、里枝から相談を受ける。
夫の谷口大祐は谷口大祐ではないと。
名前とは不思議なもの。
そのひとを表す固有名詞として、
明らかに存在するのだから。
そしてひととの出会いによる、関わり。
関わりもまた不思議なもの。
すれ違うだけの人、ふれあう人。
愛。過去、いま、を経てそのときをふれあう。
美涼という女性が印象的だった。愛し直す。
女性の明るさと素直さ、そして率直さに
掬われていく。
心の声と口から出てくる言葉。
心の拠り所と体のふれあい、心体のつながり。
匿名の善意と生きる過程、
月光で浮かび上がる仮面からみえる、
マスクをとった素顔。
あの時から足の痺れはちらほらとある。
癖になったのか。
分からない感情は居座って言葉にできず、
訳も分からない涙は止んだけれど。
思索はラビリンスを作ってやまない。