まろの公園ライフ

公園から世の中を見る

小さき命への賛歌

2012年04月10日 | 日記

東京・下石神井の「ちひろ美術館」に来ている。

美術館というと妙にしゃちこばったり敷居が高かったりすることが多いが
ここはアットホームな雰囲気でそういう「排他性」がない。
スタッフの誰もが「ちひろ」の絵が好きで仕方がないというような
フレンドリーさが館内にはあふれている。


実はこの企画展が見たくてやって来た。
二人はほぼ同世代ではあるが直接的な面識や接点はない。
しかし、ともに息子を持つ母として、父として
子供の命を危機に晒す「戦争」というものに激しい憎悪を燃やした画家だ。
サブタイトルに「母のまなざしと父のまなざし」は
まさにその思いの表現だろうか。

画家いわさきちひろが描く少女は「平和」の象徴でもある。
「小さきもの」への限りない愛情があふれている。
その小さき命を容赦なく奪う「戦争」の悲惨さに激しい怒りを覚え
戦後、日本共産党員となった彼女は反戦活動にも積極的に参加していく。

小さな「命」の輝きと、その健やかな成長を見守る母のまなざし・・・
ちひろの絵の底流にはつねに「命」の尊厳である子供への慈しみと
それを奪う「戦争」への憎しみが流れている。

画家・香月泰男は1911年、山口県三隅町に生まれる。
東京美術学校(現・東京芸術大学)を卒業後、美術教師として北海道に赴任。
1943年に召集を受けて満州へ、戦後、シベリア抑留を体験する。

多くの戦友を失い、自らも過酷な体験を強いられたシベリア抑留。
その記憶を描いた作品は暗く、重く、沈鬱で「地獄」を思わせる。

戦後、山口県の郷里に引き揚げた香月は
一男二女の子供の成長を慈しみながら再び創作活動を続け
生涯、この小さな町を離れることはなかった。

香月が描く子供の絵にも「戦争」への静かな怒りがこめられている。
ある意味、彼自身も戦争の犠牲者ではあったが
だからこそよけいに「平和」な時代への憧憬を作品にこめ続けた。
そこには深く、やさしく、切ないほどの「父のまなざし」があふれている。

展覧会を観終わった後、オープンカフェで瞑想にふけった。
と言うか、ちょっと疲れて座りこんだ。
私自身は父親として息子に何を残してやれるだろうか・・・
どういう生き方を見せてやれるだろうか・・・などと考えた。

ミュージアムショップで
この企画展のために出版された「母のまなざし父のまなざし」を購入。
とてもいい本だからゆっくり読んでみよう。

帰り道、公園の池ではオタマジャクシがゆらゆらと泳いでいた。
ちいさき命が無事に育ってくれることを祈る。