
山口県の妻の実家で連休を過ごし、「おふくろの味」に舌鼓を打っていたが、やはり、3日もしないうちに居酒屋が恋しくなった。
そこで、帰京後すぐに居酒屋に出かけることにした。
ウチに残してきた3匹のメダカと朝顔が心配だったので、羽田空港に着いたら、とりあえず速攻で帰宅し、メダカには餌を、朝顔にはたっぷりと水を与えて、オレは外に飛び出した。
梅雨は果たして明けたのか。
夕刻でも東京はかなり暑い。
この暑さの中、とりあえず一風呂浴びようと電車に乗り、銭湯を訪ねた。
銭湯を探していると、その近所に煙がもうもうと立ち昇っている店舗を発見。
「ほほぅ、焼鳥屋か」などと思いながら近づいていくと、なんとそこは立ち飲み屋だった。
しかも、もう店は開いており、既に飲んでいるおっさんもいる。
時刻はまだ4時前。祝日のまだ5時前に開いている居酒屋があるのにも驚きだが、それがまさか立ち飲み屋とは!
一風呂浴びて、早速店にと飛び込んだ。
もうもうと煙る白煙はなんと店内にまで立ち込めていた。
一応、エアコンはかかっているが、何せお持ち帰り用のコーナーがオープンエアのため、店の中は暑い。しかし、大衆酒場に行って、やれ「暑い」とかやれ「寒い」とかいう奴は冷奴の角に頭をぶつけて死んだほうがいい。全天候型が大衆酒場の基本だからだ。
さて、店のオヤジに生ビールを頼んだ。
ビールはキリン。ジョッキ一杯500円だ。
このビールが断然うまかった。なにしろ、オレは風呂上りのうえ、47℃という熱湯コマーシャル(スーパージョッキー)のような風呂に浸かった後だからだ。
同店を訪れる際は是非、銭湯「玉の湯」とセットで訪問されることをお奨めする。ちなみに「玉の湯」は「ぼくんち」から徒歩10秒の距離だ。
つまみに「煮込み」(350円)をもらった。
これが、実にうまかった。
さすが、「やきとん」の店だ。
最近気がついたことなのだが、「煮込み」のおいしい店は、やはり専門店が多い。「焼き鳥」とか「やきとん」といった肉の仕入れ先がしっかりした店は、やはり「煮込み」もうまいのだ。
専門店という自負もあるだろう。だが、素材がたとえブロイラーであろうが、やはり「煮込み」のおいしさに跳ね返っているような気がするのだ。
「煮込み」を食べながら、ふと目の前にこんな貼紙がされていることに気がついた。
「この度諸般の事情によりやむを得ず値上げに至りました」。
それを見て、世界的な資源高は世の中のしかも極めて末端の大衆酒場にまで波及をしてきたのか、と暗たんたる気持ちにすらなった。
7月に入り、食料費の高騰は目に余るものがあった。特に食用油の値上げが辛い。
7月中旬の夕刊フジも1面で居酒屋チェーンの苦境を訴えた。FCが苦境を呈しているのだから、独立系の店はどれほど、その煽りを受けているか計り知れない。恐らく「ぼくんち」もこれまで自社で吸収してきたコストを支えきれなくなったのだろう。
一方、穀類の値上げも深刻だ。
鶏や豚の飼料は穀類であり、焼き鳥屋は仕入れのコストが上昇している。また、心配なのが豆腐だ。大豆の価格値上げが町の豆腐店を直撃している。新聞報道によると、廃業する豆腐店も少なくなく、流通する安価な豆腐にはGM(遺伝子組み換え)で作った豆腐が市場に出回っているという話しである。
ともあれ、今食べている「煮込み」には、その豚のモツと豆腐が入っているし、味付けの味噌にも、やはり大豆が使われており、これらのひとつひとつがガソリン高の影響を受け、大衆の酒場である末端にも厳しい値上げを余儀なくされていることに戦慄する感じる思いであった。
しかし、それでもまだ、この店のメニューは充分に安かった。
「煮込み」は350円だし、焼き物はだいたいが120円だ。
そこで、オレは「かしら」と「レバー」「しろ」、そして「タン」、飲み物に酎ハイ(300円)を頼むことにした。
この時間になると、今夜のおかずを求め、お持ち帰りのコーナーには主婦やお使いの子供たちが並び始めた。そのため、あいにく「タン」は売り切れとなってしまったようだ。この値段は、まだ競争力の高い値段であることは確かなようだ。
言い換えれば、まだまだこの店はコストを充分に価格へ転嫁していないものと思われ、店主のオヤジの苦労が垣間見られる。
焼き物が焼きあがり、カウンター越しにオーダーしたものを受け取ると、お皿に桜色したタレが添えられているのが見えた。
それを少しつけて焼き物を食べると、ピリリとやや辛くうまみが更に増した。
酢味噌のようだが違う。ニンニクも微妙に入っているようだ。
恐らく、同店のオリジナルであろう、そのタレがまた一段と焼き物を味わい深いものにしているのだった。
時計が5時半を回ると、客がぐんと増えた。
この日は「海の日」で祝日だったが、仕事がはねた運送屋のいでたちのおじさんたちが少しずつ店になだれこんできた。
オレの隣に落ち着いたお父さんに「毎日、来るんですか」と尋ねたら、「ほとんど毎日だな」と豪快に笑っていた。そのお父さん、店のオヤジが忙しいとみると、勝手に厨房に入り、レモンサワーを自らこしらえていた。
頭上のテレビは大相撲名古屋場所。
この日まで全勝の白鵬を1敗で追っていた琴光喜と安馬が相次いで敗れた。その瞬間、この10坪にも満たない小さな酒場もドッとおっさんたちの嬌声に沸いた。だが、多くの者が目頭を押さえているのは、勝ち名乗りをあげた普天王と若ノ鵬の取り口に感動したわけではなく、店の中に充満する白煙にである。
換気扇が壊れているのか、もうもうと白い煙が店内に立ち込め、オレもすこぶる目が痛い。
オレはもう一杯酎ハイをお代わりして店を出た。
会計は僅か1,658円。
腹も喉も、そしてもちろん舌も充分に満足していた。僅かこの金額で。
店を出ると、目の前に北清掃工場の大きな塔が眼前に見えている。
その瞬間、いつか娘が高熱を出した夜、北社会保険病院にタクシーで向かう途中に見た立ち飲み屋の幻はこの店であったことに気付いた。
「そうか、あれは夢でも幻でもなかったか」
などとひとりごちながら、オレは徒歩で帰宅の途についた。
そして、同時に「立ち飲みラリー」の南北線編はまだ続いていることを悟った。
なにしろ、店を東に通り一本隔てると、住所は志茂に変わる。
そう、王子神谷駅を下る次の駅は志茂なのだ。
駅からは、やや遠いが、最寄りは志茂と言っても差し支えあるまい。
「立ち飲みラリー」は続くよ。どこまでも。
そこで、帰京後すぐに居酒屋に出かけることにした。
ウチに残してきた3匹のメダカと朝顔が心配だったので、羽田空港に着いたら、とりあえず速攻で帰宅し、メダカには餌を、朝顔にはたっぷりと水を与えて、オレは外に飛び出した。
梅雨は果たして明けたのか。
夕刻でも東京はかなり暑い。
この暑さの中、とりあえず一風呂浴びようと電車に乗り、銭湯を訪ねた。
銭湯を探していると、その近所に煙がもうもうと立ち昇っている店舗を発見。
「ほほぅ、焼鳥屋か」などと思いながら近づいていくと、なんとそこは立ち飲み屋だった。
しかも、もう店は開いており、既に飲んでいるおっさんもいる。
時刻はまだ4時前。祝日のまだ5時前に開いている居酒屋があるのにも驚きだが、それがまさか立ち飲み屋とは!
一風呂浴びて、早速店にと飛び込んだ。
もうもうと煙る白煙はなんと店内にまで立ち込めていた。
一応、エアコンはかかっているが、何せお持ち帰り用のコーナーがオープンエアのため、店の中は暑い。しかし、大衆酒場に行って、やれ「暑い」とかやれ「寒い」とかいう奴は冷奴の角に頭をぶつけて死んだほうがいい。全天候型が大衆酒場の基本だからだ。
さて、店のオヤジに生ビールを頼んだ。
ビールはキリン。ジョッキ一杯500円だ。
このビールが断然うまかった。なにしろ、オレは風呂上りのうえ、47℃という熱湯コマーシャル(スーパージョッキー)のような風呂に浸かった後だからだ。
同店を訪れる際は是非、銭湯「玉の湯」とセットで訪問されることをお奨めする。ちなみに「玉の湯」は「ぼくんち」から徒歩10秒の距離だ。
つまみに「煮込み」(350円)をもらった。
これが、実にうまかった。
さすが、「やきとん」の店だ。
最近気がついたことなのだが、「煮込み」のおいしい店は、やはり専門店が多い。「焼き鳥」とか「やきとん」といった肉の仕入れ先がしっかりした店は、やはり「煮込み」もうまいのだ。
専門店という自負もあるだろう。だが、素材がたとえブロイラーであろうが、やはり「煮込み」のおいしさに跳ね返っているような気がするのだ。
「煮込み」を食べながら、ふと目の前にこんな貼紙がされていることに気がついた。
「この度諸般の事情によりやむを得ず値上げに至りました」。
それを見て、世界的な資源高は世の中のしかも極めて末端の大衆酒場にまで波及をしてきたのか、と暗たんたる気持ちにすらなった。
7月に入り、食料費の高騰は目に余るものがあった。特に食用油の値上げが辛い。
7月中旬の夕刊フジも1面で居酒屋チェーンの苦境を訴えた。FCが苦境を呈しているのだから、独立系の店はどれほど、その煽りを受けているか計り知れない。恐らく「ぼくんち」もこれまで自社で吸収してきたコストを支えきれなくなったのだろう。
一方、穀類の値上げも深刻だ。
鶏や豚の飼料は穀類であり、焼き鳥屋は仕入れのコストが上昇している。また、心配なのが豆腐だ。大豆の価格値上げが町の豆腐店を直撃している。新聞報道によると、廃業する豆腐店も少なくなく、流通する安価な豆腐にはGM(遺伝子組み換え)で作った豆腐が市場に出回っているという話しである。
ともあれ、今食べている「煮込み」には、その豚のモツと豆腐が入っているし、味付けの味噌にも、やはり大豆が使われており、これらのひとつひとつがガソリン高の影響を受け、大衆の酒場である末端にも厳しい値上げを余儀なくされていることに戦慄する感じる思いであった。
しかし、それでもまだ、この店のメニューは充分に安かった。
「煮込み」は350円だし、焼き物はだいたいが120円だ。
そこで、オレは「かしら」と「レバー」「しろ」、そして「タン」、飲み物に酎ハイ(300円)を頼むことにした。
この時間になると、今夜のおかずを求め、お持ち帰りのコーナーには主婦やお使いの子供たちが並び始めた。そのため、あいにく「タン」は売り切れとなってしまったようだ。この値段は、まだ競争力の高い値段であることは確かなようだ。
言い換えれば、まだまだこの店はコストを充分に価格へ転嫁していないものと思われ、店主のオヤジの苦労が垣間見られる。
焼き物が焼きあがり、カウンター越しにオーダーしたものを受け取ると、お皿に桜色したタレが添えられているのが見えた。
それを少しつけて焼き物を食べると、ピリリとやや辛くうまみが更に増した。
酢味噌のようだが違う。ニンニクも微妙に入っているようだ。
恐らく、同店のオリジナルであろう、そのタレがまた一段と焼き物を味わい深いものにしているのだった。
時計が5時半を回ると、客がぐんと増えた。
この日は「海の日」で祝日だったが、仕事がはねた運送屋のいでたちのおじさんたちが少しずつ店になだれこんできた。
オレの隣に落ち着いたお父さんに「毎日、来るんですか」と尋ねたら、「ほとんど毎日だな」と豪快に笑っていた。そのお父さん、店のオヤジが忙しいとみると、勝手に厨房に入り、レモンサワーを自らこしらえていた。
頭上のテレビは大相撲名古屋場所。
この日まで全勝の白鵬を1敗で追っていた琴光喜と安馬が相次いで敗れた。その瞬間、この10坪にも満たない小さな酒場もドッとおっさんたちの嬌声に沸いた。だが、多くの者が目頭を押さえているのは、勝ち名乗りをあげた普天王と若ノ鵬の取り口に感動したわけではなく、店の中に充満する白煙にである。
換気扇が壊れているのか、もうもうと白い煙が店内に立ち込め、オレもすこぶる目が痛い。
オレはもう一杯酎ハイをお代わりして店を出た。
会計は僅か1,658円。
腹も喉も、そしてもちろん舌も充分に満足していた。僅かこの金額で。
店を出ると、目の前に北清掃工場の大きな塔が眼前に見えている。
その瞬間、いつか娘が高熱を出した夜、北社会保険病院にタクシーで向かう途中に見た立ち飲み屋の幻はこの店であったことに気付いた。
「そうか、あれは夢でも幻でもなかったか」
などとひとりごちながら、オレは徒歩で帰宅の途についた。
そして、同時に「立ち飲みラリー」の南北線編はまだ続いていることを悟った。
なにしろ、店を東に通り一本隔てると、住所は志茂に変わる。
そう、王子神谷駅を下る次の駅は志茂なのだ。
駅からは、やや遠いが、最寄りは志茂と言っても差し支えあるまい。
「立ち飲みラリー」は続くよ。どこまでも。
すみません。
明日(11月19日)掲載分から立ち飲みラリーの新シリーズが掲載されます。
お楽しみに!
なお、「ぼくんち」はかなり、いいお見せなので、ティコティコさんも是非行かれてはいかがでしょうか。