
坂道の下にある小さな喫茶店。
注意していなければ、つい通りすぎてしまいそうな小さな喫茶店である。
きっと何十年も何百年も、この坂道は人が往来して、その度に小さなドラマを生んできたのではないだろうか。
例えば、中島みゆきさんの佳曲「あぶな坂」のように、人が転げ落ちてきたり、尾崎豊のように、坂の上で手を振るやつがいたりとか。
武蔵野大地の入口。
台東区から文京区の境目。
店の中は決して明るくない。
外から漏れてくる自然光を頼りに、店のおばちゃんに挨拶する。
ボクは小さなテーブルに腰かけ、甲斐甲斐しく働くおばちゃんにサンドウィッチのセットを頼んだ。
おばちゃんは何か声を発したが、ボクにはよく聞き取れなかった。
飾り気のない喫茶店である。
モノクロームの店内を唯一照らしていたのが椅子の上に置かれた赤いクッションだった。
ボクはカウンターの向こうで黙々とサンドウィッチを作るおばちゃんのシルエットを目で追っていた。
それだけで、ボクは十分だった。
人が何かを作る姿はとにかく神聖で貴い。
日々の営みの姿をそこに見出してしまうからだろう。
だから、ボクは喫茶店が好きだ。
そうした人の動きは居酒屋とは違う。
喫茶店の方が最もパーソナルである。
フランス語を冠した店が多い中、PELUという聞きなれない単語。
地味で静かな店。
期待に違わず「サンドウィッチ」はうまかった。
もちろん、コーヒーも。
静かな気持ちでいられることがボクにとって、なによりも嬉しかった。
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