
10代の頃、憧れだった街は、今はもうただの歩きにくい街でしかない。人の波に埋もれ、行き先とは違う方向に流されるコンクリートの川は、ただただ疲弊するだけだ。
渋谷に来るには、ちょっとした覚悟がいる。
タフな気持ちがなければ、あっという間にエネルギーが吸われてしまうのだ。
どこから、攻めようか。
ビッグシティ渋谷の立ち飲みラリー。
前回は、たまたま知っていた「根室食堂」で渋谷の第一歩を飾った。だが、渋谷は広い。どこをどう歩くか。まるで、雲を掴むような感覚だ。
東口から行ってみようか。ふと、そんな考えが浮かんだ。渋谷駅を降りて、コンコースを歩く。すると、道は急にややこしくなった。工事中のようなのだ。
そうか。確か、渋谷駅は、巨大な駅ビルを建設中だったか。
ボクは薄暗い、臨時の通路を歩き、東口に出た。
映画館の裏側にある居酒屋ばかりの一角に行ってみよう。立ち飲みの一軒くらいはあるだろう。そうやって、歩いてみたが、立ち飲みは見つからなかった。仕方ない。ここは、ネットの力を借りよう。立ち飲みラリーは、これまで、ネットを使わずに、巡ってきた。それでも、しっかり立ち飲み屋を見つけてきた。だが、渋谷はそうはいかない。不本意だが、ネットで検索しよう。
すると、自分がいる場所から、数分の距離に、「キミドリ」という名の立ち飲みがあることが分かった。
Googleマップを頼りに、店を見つけた。表通りから一本入った路地。この店は多分、見つけられなかったと思う。
「キミドリ」という店名もそうだが、店の外観も不思議だった。変わった模様のテキスタイルの建物、観音開きの扉は開け放たれ、ビニールの扉。正方形のこじんまりとした電灯の看板がカッコいい。
その、ビニールの扉をくぐり、店に入った。店内も、またシャレオツだった。不規則なV字カウンターに女性2人が切り盛りする。数人の客が既に立って飲んでいるが、そのうち、2人は、若い女性の一人客だった。
いずれも皆、顔見知りの様子。カウンターを挟み、客同士のおしゃべりが飛び交う。
メニューを見ると、「ハートランド」の生があるようだ。しかも19時までは、ハッピーアワーで300円。
よし、これに決めた。
メニューのブックはまるで絵本。手作りでかわいい。壁に飾られた黒板には、おすすめのメニューが板書されているが、これもかなり凝った書き方をしている。
立ち飲みバーという触れ込みだが、トライしている方向性はカフェに近い感覚だ。
やがて、ハートランドがお通しとともに運ばれてきた。ハートランドはタンブラー、お通しは、ひょうたんの漬けもののようだ。ひょうたんといっても一口に食べられる小さなもので、歯ごたえがいい。
おつまみも豊富にある。
黒板に書かれた文字を追って、ボクが選んだのが、「アボカドのたたき」(480円)。特製ソースで食べる、要するに刺身なのだが、これがうまかった。実は我が家では、アボカドのアレルギーを持つ人がいて、アボカドが食卓に出ない。ボクはアボカドが好きだから、こういう機会がないと食べられないのだ。
しばらくして、サラリーマンの男性が入ってくると、その場は更に盛り上がった。どうやら、常連中の常連らしい。だが、その男性のおかげで、ボクも話しの輪に加えてもらった。
この店の特徴は、この家感覚の雰囲気なのだろう。店員さんが、お母さんだし、若い女性客は娘。もちろん、若い男性も何人かいて、話しの輪が広がる。そして、父や役の男性が、更に場を牽引する。まさに社会の縮図。だけど、そんな雰囲気を作れる店はそうそうにない。ある意味、ボクは羨ましいと思った。
そうそう、ボクが食べた、ひょうたんもアボカドも、黄緑だった。あっ、ハートランドは生を飲んだけど、そのボトルは緑色である。多分、偶然ではない。意識して、素材をチョイスしてるのだと思う。
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