
「湊湯」を出て、船橋駅へと元来た道を戻った。
一風呂浴びたら、またビールが飲みたくなった。船橋は酒場に事欠かない。例え昼間でも酒を飲むところはすぐに見つかる。
ボクは「登運とん」に行こうと思っていた。
あの有楽町のガード下にある有名店と同名の店である。この情報は1年ほど前に友人からもたらされた。
「登運とん」という不思議な店名を持つ店が、何故か船橋にもあると。しかも、その店は立ち飲みであるというのだ。
行こうと思ってもなかなかその機会が来なかったが、ようやくその好機が巡ってきた。
船橋の「登運とん」もやはりJRのガード下にあった。
だが、有楽町のガード下にある店とはだいぶ趣が違う。
文化財級の有楽町の店に対して、この船橋の店は至って普通の外観だった。
ドアを開けて店内に入る。
店員は皆若い。有楽町の店のおばちゃんらとは全く方向性が違う。
カウンターにポジショニングして、まずは生ビール(390円)からいただくことに。
つまみは、「串焼き盛り合わせ」(650円)で。
しかし、この店、有楽町の伝統と格式にとらわれず、若者の意向が反映されている。その傾向はメニューにも現れている。
有楽町の店も串焼きが中心だが、「せんまい刺し」(420円)や「みの刺し」(420円)などはなかった。メニューが豊富なのである。
串焼きが来るまでのつなぎに「たけしくん」(200円)を頼んだ。この名前からどんな料理が想像できるだろうか。このメニュー、どういう命名なのか白たくあんである。これも若い店員らの遊び心である。
生ビールを飲み干し、一気にホッピーへと移った。セットは450円。
ちなみに「酎ハイ」は290円。この価格競争力はすごい。
串焼きが来て、だいぶ落ち着いた気持ちで飲んでいるときにちょっとした事件が勃発した。
ボクが店に入った開店直後の15時から30分もしないうちに店はだいぶ混み始めていた。とある2人組の男客がボクの横に陣取った。これでカウンターは鈴なりである。
その新規客が「生ビール2つね」と威勢よくオーダーすると、その直後に片割れの男が急いで訂正した。
「あ、生2つではなくて、生ひとつに酎ハイひとつね」と。
「あいよ」という声が聞こえたが数分して彼らの元に運ばれてきたのは生ビールのジョッキが2つ。
すると、片割れの男は「いや、さっき訂正のオーダーしたんだけど」と店員に詰め寄る。
店員は「申し訳ない」と謝り、すぐさまビールをひっこめた。
問題はその後である。
引き取られたビールは、業務用の冷蔵庫にしまわれた。
そのビールは、更に10分後に入ってきた客に出された。
ボクは、その一部始終が見える位置に立っていた。
あまり、見たくない光景だった。
こんな事は普段の居酒屋にあって、実は珍しいものでもないだろう。
でも、10分前に入れて、冷蔵庫に蓋もされずにおかれた生ビールをボクは飲みたくない。ビールは最高のコンディションで飲みたい。
こういう行為を容認するわけではないが、できれば見えないところでやってほしかった。
メニューは豊富でリーズナブル。昼間から飲めるというのも嬉しい。
でも、釈然としないものもある。
誉れある有楽町の威光が霞んで見える。
しかし、何故「登運とん」が船橋にあるのだろう。それは分からないままだ。
多分、ボクが一部始終を見ていたのは、お店は分からなかったと思います。
この場合、お客は悪くないです。
店がオーダーの変更を了承していましたから。
客も悪いけど、それを他の客にぶつけるなんで商売やる資格無いですよ。