松本典子 「春色のエアメール」(1985)
松本典子のデビュー曲である。作詞作曲はあの、「オレたちひょうきん族」のテーマ曲などもてがけたEPO。
しかし、正直ちょっと懲りすぎの面が否めない。EPOらしい、軽やかな曲調ではあるのだが、いわゆるアイドル楽曲と違って、盛り上がりの部分のメリハリがなく、淡々と流れてしまうところが、賛否の分かれるところではないか。
しかし、歌詞はかなりそそるものである。
♪季節が ポストになげこんだ ばら色のおくりもの
♪もうじき朝になる あなたの街を地図でさがすの・・・
と、まさにエアメールをもらった恋する乙女の気持がやんわりと表現されており、
♪あなたが駆けてきて きれいになったねと 見つめられたら ドキドキしちゃう・・・
という、遠距離恋愛している女の子にとっての最高の幸せのシーンを描いて締めているあたり、EPOのセンス恐るべしというところである。
曲の賛否はともかく、典子自身は、全くもって80年代アイドルの典型的なタイプである。
いや、かわいすぎるところが、彼女の欠点だったかもしれない。
一見、松田聖子のフォロワーと見られがちだが、聖子より癖のないかわいさである。癖がない故の物足りなさがあったことも否めない。
ただ、典子にとって最も不運だったことは、デビューしたのが1985年、つまりおニャン子クラブのデビューと同年だったことだろうか。
スーパーアイドルとしての資質は十分持っていたにもかかわらず、時代がいわば「おニャン子バブル」に飲み込まれていき始めた時代・・・それでも、存在感を示し、その後も長くアイドル界で生き残った典子。歴史に「もし」はないのだが、もし、あの年、おニャン子クラブが発足しなければ・・・80年代後半は典子の時代だったかもしれない。
このデビュー曲以降も、松任谷由実、久保田利伸、中島みゆきなどの大物作曲陣を起用しているが、これもいわば「完璧アイドル路線」の曲を連発していたおニャン子に対するアンチテーゼだったと見るのは勘ぐりすぎだろうか?
そんな中でも、松任谷作曲、銀色夏生作詞の「さよならと言われて」は、典子にとっても成功した楽曲だったのではなかったか。超バラードであるが、典子の切なげなヴォーカルが、曲調、歌詞ともにマッチした、逸品である。アイドルファンの方には一聴をオススメしたい。
80年代後半は、志村けんのバラエティ番組にレギュラー出演するかたわら、歌の方も地道に出していた典子であったが、年齢的にもちょうどいいころに元プロ野球選手の苫篠と結婚。それはそれでよかったのだろう。
しかし、デビューから20年以上経った今、レコードジャケットの写真を見ても、やはりかわいいと言わざるを得ない。いまどきの女の子いはない、ピュアなかわいさ。その言葉につきる松本典子である。アイドル史に残るピュア・アイドルである。